第5話

「いよいよ、明日だね。ヒロはどこ行くの?」


2人で家に帰って来て1週間。その最終日。

翌朝には俺はこの家を出なければならない。それが朝子の決めたルールだ。


「…あー、まだ悩み中だけど、仕事の打ち合わせも何個かあるし近場で……って何言わせようとしてんの!?」


「あはは、バレたか。まあヒロのことなんてすぐ見つけられるけどね」





そんなことを言っていたのに、あの女、全然探しに来ないじゃないか。もう1ヶ月だぞ?寂しくないのか?


俺は朝子のSNSを見た。

くそ、毎日楽しそうな写真上げやがって。こっちは仕事も切羽詰まってて旅行どころじゃないっていうのに。


結局、この1ヶ月間、俺は都内のビジネスホテルを転々としている。

今日で連泊8日目になるこのホテルは中々良い。ビジネスホテルなのに大浴場があり、サウナも外気浴も付いている。

朝食も普通においしいし、何より夜のラーメン無料サービス。最高だ。


あ、いや、俺は別に漫喫などしていない。

多少ビジネスホテルに詳しくなっただけだ。

…朝子はサウナもすきだから、きっとこのホテルも気に入るはずだ。


プルルルルッ。


急に室内の電話が鳴った。フロントからだ。


「はい。…え、朝子が?はい、妻です。…大丈夫です。…あ、はい。…はい。ありがとうございます」


ホテルをチェックアウトして外に出ると、朝子が入口の前で待っていた。


「迎えに来たよ。近場すぎ」


朝子が笑う。


「なんで…」


「言ったじゃん。ヒロのことなんてすぐ見つけられるって。ここの前はAホテルでー、その前はTホテルだったっしょ」


「ひっ。恐。ストーカーなれるんじゃないの」


「私は逆にヒロが犯罪に利用されないか心配。ホテル変える度に外観の写真アップしてんだもん。画像検索で一発だよ。部屋番号も他の写真に写り混んでたし」


そんなの、俺にだって分かるさ。

でも、朝子が全然探しに来ないから、しょうがないだろ。


「ほら、帰ろ」


今日はちょっと良いお酒仕入れといたんだー、と朝子は上機嫌に笑った。

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