今日は、アラームがなる前に目が覚めた。意識が次第にはっきりして来ると、空想のように過ぎて行った、昨日の出来事を思い出す。夕食も取らないで、それに入浴もせずに、昨日は眠ってしまった。お腹も空いている。さっさとシャワーを浴びて、学校へ行く準備をしなければ。

昨日の夕食を温めていると、京子ちゃんが起きてきた。

「あれ、明里ちゃんおはよう」

「おはよう京子ちゃん」

「昨日は呼んでもリビングに来なかったから、寝てると思ってた。体調は大丈夫?」

「うん、良くなったよ。迷惑かけちゃってごめんね」

「良いんだよ、まだ高校一年生なんだから」

「いつもありがとう」

「なに〜、急に改まっちゃって」

「なんか、伝えなきゃな〜って思った」

「何それ〜」

京子ちゃんと一緒に笑う。あまりぱっとしない人生だったが、人には恵まれてきた。昨日、食べ損ねた朝食を夕食にした。その準備が済むと、私は家から出た。

歩いていると、後ろから走って来た人がいた。

「明里〜!」

「葵? 何でここに?」

「何でって、明里が心配だから一緒に登校しようと思って」

「よく起きれたね、いつもあんなに遅いのに」

「ははは、元の明里だ。良かった」

笑いながら一緒に通学路を歩く。やっぱり葵と一緒にいる時間が一番楽しい。お調子者だけど、葵と友達になれて良かった。

学校には、景色が張り付いていた。それは私の五日間がかき消されて行くような、普通の光景だった。

いつもと変わらぬ授業を一日中受けた。帰りのホームルームが終わると、葵が話しかけてきた。

「ごめん〜、今日の数学のわからないところを教えてくれない?」

「いいよ。家帰ったら絶対スマホいじっちゃって進まないから学校でやって行こう」

「やった〜」

一時間ほど勉強を教えたり、喋ったりしていた。もうすぐ時計の針が五時を指だろう。突然、葵がこう言った。

「ん? じゃあこの辺で切り上げて帰ろ〜」

「どうしたの?」

「え、今さっき『そろそろ帰らなきゃ』って」

「言ってないよ」

「嘘だ〜!はっきり言ってたよ」

「うーん、まぁキリいいしそろそろ帰ろっか。後一時間くらいで、部活に参加している生徒たちが帰る時間だし。駅が混む前に帰ろう」

私がそう言うと、葵は「はーい」、と間伸びした返事をする。

ふたりで電車に乗って、いつもの道を歩いて帰る。少し奇妙な感じする。まだ日は沈みきっていないのに、月が明るすぎるし、道の横にある向日葵は、いっせいに下を向いている。これは、気のせいなのか。

「あっ、そう言えば、ウチ昨日、明里の部屋に忘れ物したんだよね。取っていってもいい?」

「大丈夫だよ」

家の方角にある道を曲がると、誰かが門の前に立っていた。恐がりながら近づいていくと、そこには二メートルもの背丈がある女性らしき人が立っていた。彼女は、白く光沢のある輪を開いたような物を持っていた。葵が怖気付いて私の後ろに下がる。

「お帰りなさい、アカリ」

それから、彼女は輪を私の首につけた。


目の前にはよく見慣れたシダさんがいた。彼女は、わたしが属している研究所の職員を務めている。見慣れない土地が、視界に広がっていた。

「シダさん、ここはどこですか?」

「ここは地球ですよ。月ではないです。作戦が最終段階に来たので、地球に派遣した子たちを回収しに来たんです。あなたが最後ですよ。早く支度して船に乗り込んでください」

「分かりました」

私の派遣された家は、ここだったのだろう。手に握っている鍵で、ドアを開ける。家に入ると、先程までわたしの隣にいた少女が追いかけてくる。

私の部屋らしき場所に行って、忘れ物の確認をした。ここに行く時は、なにも持っていなかったから、何も持たなくても大丈夫だろう。

部屋を出ようとすると、少女が腕を引っ張った。

「くこどのく?」

言われていることが、分からなかった。地球の言葉は、この首輪をつけている限り、分からないことになっている。こんなことをしている場合じゃない。早くシダさんのところへ行かなければ。不安そうに私を見つめる少女を置いて、私は家を出ようとした。だが、また少女に腕を掴まれた。

「てじよんしへ」

「なに言ってるか分からないよ。早く手を離して」

「のるにいっわらかいなわかてな」

理解できない言語を叫ばれても困る。作戦通りなら、あと三十分ほどで、侵略が始まるだろう。すぐにこの星を出なければ。

シダさんのところへ行き、船に乗った。

「そういえば、さっき一緒にいた子は乗せなくていいの?」

「よくわからない子なのでいいですよ。地球にいた間の記憶ないですし」

「あー、確かあなただけ記憶をデータ化するの忘れて、何も覚えてない状態で地球に送り込んでしまったのよね。じゃあもう船出発させちゃうわね」

それから、シダさんは船の操縦を始めた。私は任務を果たして、月にある研究所に戻る。大罪人のかぐや姫の娘として、月の人たちに忌み嫌われていた私と兄弟たち。地球人と月人の血を私たちは受け継いでいる。月にある研究施設で、汚い地球を侵略して月人が移住し、侵略するための視察として、私たち兄弟が送り込まれた。今回の地球侵略が上手くいけば、私たちの汚名は晴れて、普通の月人と同じように暮らせるのだ。

「そう言えば、プレゼントは喜んでもらえたかしら?」

「プレゼント?」

「ええ、あなたたちのお父さんのメッセージを全員に送ったわ。アカリは長女だし、一番研究施設にいた時間が長いから、特別にクローンも一緒に送ったわ。手違いでパーツひとつひとつになってしまったり、日本全国に落としてしまったりしたけれど」

「何だか私だけ手違いが多いですね」

「まぁ第一号だもの」

「この作戦、上手くいくといいですね」 

大気圏を抜けて、宇宙の海に漂っていた時に見えたのは、戦闘用の月の船に囲まれた地球だった。

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夢想 蓮崎恵 @kei_09

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