第34話 年末年越し大決戦!前編(1)

 その日は年末の十二月三十一日、僕はあの不思議駅に来ていた。以前ネビウス様に年末にはここに来るようにと言われていたのを憶えていたからだ。


 駅に行くとネビウス様がいつもパンク的な服装から何故か着物に服装を変えていた。

『やあっ年末だねはじめ君』

「そうですね、昨日でなんとか仕事納めになりましたよ」


『そう良かったね。それじゃあ女神クエストだよ』

「またですか?」

 この前からいきなり言い始めた女神クエスト、理不尽なネビウス様が僕に訳の分からない無茶振りをしてくる悪夢のクエストだ。


『今回君を年末に呼んだのはね。実は今……イルバーンに過去最大規模の異空間の裂け目が発生しているんだ!』


「…………」

 どうせ自然発生したんじゃなくてネビウス様がえいって創っちゃったヤツでしょ?。


『この危機的状況に、イルバーンに住む人々は多いに混乱した。そこで僕は神殿に使える神官やシスターに天啓を与えたのさ』


「………ちなみにどんな天啓を?」


『この異空間の裂け目の先のダンジョンを明日の日の出までに攻略しなければ……アガーム大陸は滅びるってさ!』


 なんつー迷惑な事を……ネビウス様は女神様だと思って敬ってはいるけどこういう所は本当に困るよね。

「それで僕に何をしろと?」


『もちろん率先して異空間の先のダンジョンを攻略して欲しいのさ、時間制限はあるけどダンジョンで大怪我とか死人が出たときはそれを肩代わりしてくれる特別なアイテムを用意してるから、それを他の冒険者達にそれとなく教えてあげてよ』


 ほうっそんな便利なアイテムがあるなんて…。

「それっ下手すると初見殺しとか満載の難易度って事じゃないですよね?」


『ちなみにその肩代わりアイテムはこれね』

 ネビウス様の手の上に長方形の木の板が現れた、それには黒い文字が書かれている。その内容は不明だ。


『取り敢えずそれを持っている冒険者だけが入れる特殊な異空間って事で話は通してるから、それじゃあ年末年越しイベントを楽しんでね~~』


 僕の質問にネビウス様が答える事はなかった、それが答えである。アレクサンド行きの電車に押し込まれ、電車はそのまま出発した。



 ◇◇◇◇◇◇



 そしてアレクサンドに到着したので仕方なくイルバーンへと向かう。

 街へと入ると想像どおり何やら物々しい雰囲気を感じた。


 イルバーンの人に適当に話し掛けてみるとどうやら街の中央の広場に特大の異空間の裂け目が現れたらしい。

 そして時を同じくしてイルバーンにある教会からアガーム大陸中の冒険者達を集めるようにと冒険者ギルトに話が上がったとか。


 流石にアガーム大陸滅びるよ的な天啓を受けたとは言えなかったようで、どうやら秘密裏に事を進めようとしているらしい。

 まあ僕も冒険者の端くれなので冒険者ギルドに顔を出すか。


 そして冒険者ギルドに行くと冒険者がギルド内に入りきらなかったのな入り口付近に集まっていた。

「落ち着いて下さーい、あの異空間の裂け目に入る為のアイテムは冒険者全員分ありますからねー」


 見るとサーラさんがあの変な木の板を沢山抱えて、それを冒険者へと一枚一枚配っていた。

 まさかあの木の板を冒険者ギルドに送りつけているとは。


「なあっこの木の板ってなんのアイテムなんだ?」

「さあなっとにかくこれがないと中に入れないらしいぜ?」


「何でもそれを持っていると異空間の中で致命傷を受けても助かるらしいですよ?」

「「ええっマジか!?」」


 それとなくネビウス様からの頼みも聞いておく、少し詳しく聞き直したのだがこの木の板を持っている冒険者は異空間の中のダンジョンとやらでやられると無傷の状態でこのイルバーンに転移するようになっているらしい。


 ネビウス様のする事なのでどうやってそんなゲームみたいな事が出来るのかは一切不明である。

「あっハジメさん、ハジメさんも異空間の裂け目に?」

「そうだよ、僕は木の板はもう持ってるから」


「分かりました、ハジメさんがいると安心ですね」

 僕に出来る事なんてそんなないよ?サーラさんは変におじさんに期待してる所があるな。


 冒険者ギルドの前の人垣から離れて事態が落ち着くのを待つ。

 すると僕に近寄ってくる冒険者がいた。


「……ハジメ」

「マコラ?君も異空間の裂け目に行くつもりなのかい?」


「うんっ何でも冒険者はとにかく皆参加して欲しいって言われた」

 なる程、冒険者ギルドはアガーム大陸が滅びるよ的な話は冒険者には一切伝えるつもりはないみたいだ。


 まあ冒険者って捨て駒扱いされるイメージのある職業だし、アガーム大陸の命運がとか言われたら腰が引けてしまう連中もいるしね。


 マコラと話をしていると更に見知った冒険者が集まってきた。


「あっ!ハジメさんじゃないですか~~!」

 ポンコツちゃんである、まだテンバー地方で活動してるのかウィンダー地方では見かけなかったな。


「…ん?お前は、料理人のおじさん」

 リゼルさんだ、料理人のおじさんって僕のことかい?。


「……まさか、この人がシチューの人?」

「シチューの人?」


「………」

 マコラ、その呼び方はあんまりじゃない?そもそもクリームシチューを作ったのは僕だからね。


 

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