第33話 聖夜!ホーリーナイトクリスマ【怨】(2)

 そして雪の精霊の後を追うことしばらく、僕は異空間の裂け目を発見する事が出来た。


 しかし雪の精霊はここから先には行きたくはないらしい、流石にアルバイトに命をかけてもらう危険(流石にないと思うのだが)な場所についてきてもらうのもアレなのでお礼を言って仮契約を解除した。


「……よしっ早速中に侵入するか」

 異空間の裂け目に突入する、中に入ると景色が一変した。


 そこはイルミネーションがデコられたクリスマスツリーが乱立する異様な森であった、空はさっきまで明るかったのに夜になっている。イルミネーションの光が結構明るいので問題はないけど。


 そしてモンスターの姿も見える。

 それらのモンスターもどこかデフォルメされた可愛いぬいぐるみっぽいトナカイとか大きな雪だるまみたいなモンスターである。


 これは確かに若いカップルに人気が出て来そうな空間である………【怨】。

 まさに浮ついたクリスマス空間を再現した様な異空間である、ネビウス様はこんな所は手を抜かないのだ。


 取り敢えず僕の目的はここに巣くうレアモンを討伐してこのカップルホイホイを破壊する事だ。余計な戦闘はしたくない、モンスターはこちらに気付いていないのかなんかフワフワしているだけなので無視して進もう。


 そう考えてクリスマスツリーの森を進もうとしたその時である。

「………むむ?クリスマスに縁遠いぼっちの気配を感じるぞ?」

「……………ああん?」


 いきなりのトナカイの暴言に思わず変な声をあげてしまった。モンスター風情がよくもまあ喧嘩腰な発言をしてくれたもんだ。


 気付くと周囲をクリスマスモンスターに囲まれていた。あの無関心的な動きはこちらを誘う罠か。

 しかしそれよりもだ。


「この人間、女の人の気配がしな~い」

「きっと一人ぼっちなのさ~」

「このクリスマスの聖域に寂しい負け犬が来たの?」

「ここは若い男女が楽しむ為の世界なのに~」


「…………」

 僕は『討滅の太刀【天借てんしゃく】』をリュックサックから取り出した。

 この邪悪なるモンスター達は全て滅する事にするよ。


「クリスマスはサンタクロースとプレゼントを受け取る子供が主役の日なんだよ。カップルなんて本来はその日に出歩くのが間違っているんだ!」


「「「「負け犬が吠えてる~~~」」」」


 僕は疾走し太刀を振るう、数秒でモンスター達は全滅した。

 ここは弱肉強食の異世界だ、どれだけ数を集めて声を上げようと全員倒せば残る声は僕だけさ。


「……ん?」

 倒したモンスターがポンッと音を立てて白い煙となって消えた。

 後にはなんとクリスマスっぽくデコられた四角いプレゼントボックスが残っていた、どうやらこれを集めるのが僕の仕事らしいね。


 リュックサックにプレゼントボックスを入れる。

 さてっこの調子でおじさんを負け犬呼ばわりする邪悪なるモンスターは全て滅ぼしてやろうかな。

 僕は異空間を進んでいく。


 その後も大量のモンスターが僕の手でプレゼントボックスへと変えられていった。連中は特に人の心を不快にする言葉を吐くので特に遠慮なく倒すことに専念出来たよ。


 そして二時間くらい経った、プレゼントボックスもかなりの数が集まってきた。

「………よしっこれだけあればプレゼントが足りなくってなることはないだろう」


 そう思って進んでいると、ふと気付くと一際大きなクリスマスツリーが真ん中に生えている開けた場所に出た。

 これは如何にもボスが出そうな場所である。


 周囲を警戒しながら進む、そして真ん中の大きなクリスマスツリーの近くまで来るとシャンシャンという音が聞こえた。


「この聖域に、孤独で陰険な人間など……存在するべきではないのだーーーー!」

 夜空の向こうから空を走るトナカイに引かれたソリに乗った大男が現れた。


 身長は五メートルはある、トナカイもデカい。何よりソイツはサンタクロースみたいな格好をしていた白ひげのじーさんだった。

 ただしギョロ目で病人みたいに顔色も悪いけどね、こんなのに小バカにされたのがムカつく。


「孤独でも陰険でも構わないでしょ?お前達を倒すのが誰でも…」

「ほざけ!メリィーーーーークリスマス!」


 トナカイと共にソリに乗って突撃してきた、メリークリスマスって突撃の号令とかじゃないだろう。

 しかしコイツで最後なのだ、今まで散々バカされた怒りを。今ここで解放する!。


 僕は太刀を地面に突き刺して、両手を空に向けた。デカい魔法をかます。

「…………ヘリオスクリムゾン」


 僕の頭上十数メートルの高さに一メートルサイズのファイアーボールが出現する。

 ファイアーボールは徐々に大きくなりながら更に高い場所へと上がっていった。


「これで終わりだよ」

 高く上がったファイアーボール、そのサイズが五十メートルを超えたあたりでその膨張は止まる。

 するとそのファイアーボールからバレーボールサイズのファイアーボールが地面に向かって無数に発射されはじめた。


 当然狙いは狂気のサンタクロースとこの邪悪なる森全域である。

 こんな異空間はね、滅ぼしてしまう必要があるのだよ。


「バッバカなーーーーー!」

 業火の特級魔法を喰らいサンタクロースは撃沈した。森は火の海だがいい気分である。


 あっサンタクロースからもプレゼントボックスが落ちたぞ。そして異空間は消滅し、あの邪悪な異空間がカップル冒険者を呼び寄せる最悪な未来は回避出来た。本当に良かった。


『よくやったね、クリアおめでとうはじめ君』

「ネビウス様?」


 なんとここで声が聞こえたのは初めての事である………けと何か嫌な予感しかしないな。

『そのプレゼントボックスにはサンタクロース変身セットが入ってるよ』


「サンタクロース変身セット?」

『そうだよ、君は今からそれで着替えてサンタクロースになるの。そして夜の間にアガーム大陸中の子供達が寝ている間にプレゼントを配るんだよ』


「え、その辺はネビウス様の女神パワーとかでウマい事してくれるんじゃないんですか?」

『それも考えたけどやっぱりなし!ここはサンタクロースというおじさんの出番だ!』


 プレゼントボックスを開けると白ひげまでちゃんと用意されていた、始めから僕にサンタクロースをやらせるつもりだったでしょ。


「…………ハァッ分かりました、やりますよ」

『うんうん、プレゼントボックスの中身はプレゼントした子供達が欲しい物に自動でなる様になってるからどれを渡してもいいから、頑張ってね~~』


 何そのプレゼントボックス、チートだよ。

 とんだ女神クエストである、その日は貫徹でサンタクロースをやらされた僕だ。


 まあ、カップル冒険者が幸せになるくらいなら普通に子供達が幸せになる方がずっといいので頑張ったよ。



 ◇◇◇◇◇◇



 つっ疲れた……。

 駅のベンチに腰を降ろしているのは白髭と赤い帽子を被ったサンタクロースもどきの僕だ、ペットボトル飲料を手にしたネビウス様が現れた。


『お疲れ様~いやぁ大変だったかい?』

「当たり前です、人間は中年を過ぎるとちゃんと寝ないと身体が碌に動かなくなるんですよ」


『ハハハッごめんごめん、けどさ……』

「……?」


『少しは好きになれたでしょ?クリスマス』


 物凄い笑顔である。

 まっあのプレゼントを受け取った子供達然り、そしてネビウス様も何故だかとても嬉しそうだし。


 こんな風に人に喜ばれる事は、久しく仕事では味わえていない充足感を確かに僕に与えてくれたのは事実だ。

「………………少しだけですけどね」

『素直じゃないな~~』


 そりゃあおじさんにもなればね。けどまあ悪くない疲れだというのは認めるさ。

 筋肉痛?そんなの魔法で対処するね。







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