第30話 竜肉のクリームシチュー(2)

「………無かった」


 アレから2時間ほど平原みかんの木が生えてる場所を当たってみたのだが一個も無かった。

 確か甘党梨の時もこんなんじゃなかったか?まあストックしてる分があるからクエスト自体は問題なく済ませられるけど…。


 結局その日は平原みかんは何処にもなかったのでストックしてたのを出してクエストを完了した。報酬は安いけどまあ問題はない。


 その日の晩は酒場で身体を温める為に暖かい料理を食べる、異世界版の豚汁みたいなヤツを食べていた。これとご飯と漬物の定食である。

 一口食べる。


「うん、この温かさが良いね…」

 身体の中から暖まる、最高だよね。

 酒場には暖炉がありそこそこ温かい、冒険者達が酒を飲んでその日のクエストの事や噂話に花を咲かせる。


「今日はスノーラビットの焼き肉定食を頼むかな」

「良いな、あのウサギの肉は臭みがなくて柔らかいんだ。俺も同じのを頼もうかな」


「知ってるか?また新種のモンスターがいたって話…」

「はっここはアガーム大陸だぜ?未開の大陸なんだから新種のモンスターくらい幾らでもいるさ」


「今日のクエストは大変だったぜ~」

「ああっ『寒風平原』に降りてきた雪獅子ゆきじしだろう?あんなのがうろついてたら簡単なクエストも受けられないぜ」


 うん、中には物騒な話もあるがこう言う喧騒の中でゆっくりするのも悪くないな……。


「あの、すみませんハジメさん」

「………?」


 スノウさんが現れた、どうしたんだろう。

 話を聞いた。

「実は今日クエストに向かった冒険者の方が一人戻って来ていなくて…」

「冒険者が……」


 そもそもベースキャンプってギルド職員と冒険者しかいない、そしてベースキャンプから出て行くのは冒険者だけだ。

 理由はクエストである、当たり前だけどね。


「クエストを受けたんだよね?なら行方不明になる冒険者はやっぱり出て来るもんだよ?」

 ここは荒事に慣れた冒険者でも簡単に死にかける場所だ、その冒険者も…。


「はいっ本来ならそうなのですが、その冒険者は事前に自身が今日中にベースキャンプに戻って来なかった時の為に捜索のクエストの保険入ってまして」

「ああっなるほど」


 別にギルドが特定の冒険者を贔屓ひいきにしている訳じゃなかった。

 捜索クエストの保険とは基本ソロで活動する冒険者が万が一自身が行方不明とかになった時の為に入る掛け捨て保険だ。


 高難度なクエストを受ける時とかに入る保険である。以前僕がピンチになった時も入っておけば良かったと思ったもんである。


 前以てお金を払っておけば自分がピンチになった時にギルドから救出目的の冒険者を派遣してもらえるのだ。掛け捨てなので払う金もそこそこ安価だ、無論掛け捨てなので戻っては来ないけど。


 冒険者ギルドはこの保険に入ってる冒険者が行方不明になった場合、必ず冒険者を派遣しなければならない。けど派遣された冒険者の中には適当に冒険者は手遅れでしたって痕跡を拾ってくるくらいしかしないヤツもいるのである程度真面目な冒険者にしかこの捜索クエストの話はこない。


「捜索クエストか、別に受けるのはいいよ。けど当然探したけど見つからなかったって結果の方が確立は高いよ?」


 冒険者は基本的に命懸けである、大抵はモンスターのお腹の中って結果もある。

「それでもお願いします。リゼルさんはかなりの実力者ですから生きている可能性も高いですから」


「そのリゼルさんの特徴は?」

「薄紫色の長い髪と青い瞳の女性冒険者です……」

 ………ん?。


「そして今日は火竜のつがいを討伐するクエストを受けていました。オスの火竜は討伐され回収斑が回収したのですが…」


 多分あの美人冒険者だね、これ。

 僕は内心食べ始めたばかりの定食を前にして心を鬼にして席を立った。タイミング悪いよスノウさん、しかし人命救助だしな……仕方ないか。

 話を聞いた僕は夜の『寒風平原』へと向かった。


 当たり前だけど夜の『寒風平原』は寒い寒い、本当に嫌になる寒さである。


 魔法で暗視を可能にしてるので昼間くらいに明るいので闇に紛れたモンスターに襲われる心配はないだろう。

 今回は捜索クエストだ、行方不明になった冒険者もやはり生きている方が良いので移動スピードは速めだ。


 無論やみくもに探したり大声を出して呼びかけるなんて真似はしない。そんな事をしたらモンスターが集まってきかねない、派遣された冒険者まで行方不明になりましたとか笑えないからね。


 そして移動してあの美人冒険者、名前はリゼルさんだったか。彼女が火竜を倒していた場所まで行った。

「よしっここならは魔法で探すか」


 僕は人間の痕跡を出現させる魔法を発動させた。ここにいた人間の本来は見えない(だって平原だからね、草が生えてるから)足跡が光って見える。

 これを追えば必ず最後にはリゼルさんの居場所を見つける事が出来る。


 そして移動をしていくととんでもないヤツに会った。

「…………雪獅子」

「…………」


 全身真っ白で額には赤い1本角を生やした、全長八メートルはある巨大な獅子が平原に佇んでいた。雪獅子だ。

 本来はこの『寒風平原』を越えた先の『零度の森林』の更に先、『白銀の霊峰』に住んでいる筈の危険なモンスターだ。なんでこんな所にいんの?。


 しかし雪獅子はこちらを見ても襲って来なかった。そこでピンとくる。

 多分既にお腹がいっぱいなのだ、お腹が膨れている雪獅子は余計な狩りをしないからね。


 問題はそのお腹の中にいるのが探してるリゼルさんだと笑えないって話、まあ人間一人じゃお腹いっぱいになるとは思えない。


 だから予想はこうだ、この雪獅子はリゼルさんが倒した番のもう1頭の火竜を横取りしたんじゃないか?そしてリゼルさんは雪獅子と戦って怪我か何かでベースキャンプに戻れないでいる。


 少なくともここで雪獅子とやり合うなんて仕事でもごめんなのでその可能性に賭ける。

 僕は雪獅子を無視して魔法で出現させた痕跡の向かう方へと向かった。

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