第29話 竜肉のクリームシチュー(1)

 さてっ準備は完了した、僕は装備……まあ普通の人が見た普通にキャンプに行く人みたいな見た目だけどね、ポケットが幾つか付いてる茶色ベストに黒の長袖に長ズボン、中には薄い素材ながら暖かいあれを着ている。


 この上にファーが縁に付いたフード付きの白のハーフコートを着る、動きやすさを考えると下半身は寒いけど仕方ないのだ。


 後はスパイダーゴーレムを召喚して魔法のリュックサックを籠に入れる、ウィンダー地方はテンバー地方よりも危険なモンスターが多いのでベースキャンプの中から準備をしておくのだ。


「……マジックカモフラージュ」


 魔法をつかってスパイダーゴーレムの姿を僕以外には見えなくする。移動する時の音もサイレントスニークで消しとこ。


 そして僕は冒険者ギルドに向かった、木造建築の二階建ての建物でベースキャンプの建物ながら五十人以上の冒険者が入れる酒場まで併設されている。

 今の酒場には冒険者が沢山だ、ここで腹ごしらえをしてクエストに行くんだろうな。


 受付カウンターに行く。そこには受付嬢のスノウさんがいた。

 スノウさんは白い肌と髪をしていて、髪はツインテールにしている歳は二十代前半くらいの綺麗な女性だ。


「おはようございます」

「おはようございます、貴方はハジメさんですね?久しぶりですね」


 去年もこの時期はウィンダー地方に来ていた、スノウさんとは顔見知りだ。

「久しぶり、またしばらくはここで活動をしようと思って来たんだ」


「そうですか、歓迎しますよハジメさん。それで早速クエストを?」

「うん、最初は軽めのクエストでウィンダー地方の寒さに慣れたいんだけど…」


「それなら平原みかんの採取はどうですか?」

 平原みかん、『寒風平原かんぷうへいげん』に生えている木になるみかんだ。

 甘みと酸味のバランスが良くてとても美味しい、これとコタツがあれば冬はコタツムリ生活突入待ったなしですな。


 ………実はこの平原みかん、魔法のリュックサックの中にまだまだ去年の余りがある。魔法のリュックサックは便利なので中に入れた物が時間経過で劣化する事がない。物は既にあるのでクエストの失敗はない。


 これならウィンダー地方を適当に散歩しながらのお手軽クエストが出来るな。

「分かった、そのクエストを受けるよ」

「なら受付を済ませますね」


 そして受付をしていると…。

「おいっ今日の『寒風平原』には火竜がいるらしいぞ?」

「本当か、なら今日はクエストを受けるの辞めとこうかな」


「…………」

 火竜?中々に強力なモンスターだ、出会ったら速効で逃げよう。


 受付カウンターでクエストを受注する、スノウさんに見送られながらクエストに向かった。



 ◇◇◇◇◇◇



 『寒風平原』は寒~い風が吹いたりよく雪も降る広い平原だ。地面の凹凸差があり移動するときは結構体力を使う。


 微妙に坂になってる所とか中々に走りにくいからね、モンスターから逃げてる時だったら特に大変だよ。


 回りを警戒しながら進む、まあ見晴らしは良いから危険なのはさっき酒場で話していた火竜みたいに空から飛んでくる飛行タイプのモンスターとか地面から襲ってくるモンスターだ。


 まあ他にもモンスターはいる。見つかれば距離があっても追い付かれる危険があるのが『寒風平原』である、だって見晴らしが良すぎるから中々隠れられないのだ。


 そんな事を考えながら歩いていると……。

「ん?あれは」


 気になる物を見つけた、遠くにモンスターの姿があったのだ。あれは火竜だ。

 しかし全く動かない、最初は魔法で隠れようかとおもったのだが……あれは多分死んでるな。


 更に近付くと声をかけられた。

「おいっそこの冒険者」

「!」


 火竜の死骸の影から一人の女性が現れた。

 薄紫色の長い髪と青い瞳、モンスター素材で作られた黒装束の様な軽鎧の装備と腰にはレイピア、アレもモンスター素材を使ったかなり強力な武具とみた。


 歳は二十歳くらいかな?抜群のスタイルの美人忍者……いやアサシンみたいな美人だ。

「これはウチが仕留めた獲物だ、横取りするな」

「いやしないから」


「本当か?」


 確かに僕も依然、紅葉大狐と言うモンスターを倒した時に横取りされかけた事がある。ってか結局おの狐の死骸は回収出来なかったんだよな、この世界は本当に油断出来ない。

 けどソイツらは既に地獄に落ちてるだろうし、あんな連中の真似なんてする気はない。


「もちろん、そもそも横取りする連中ってね。モンスターを倒して油断したタイミングでボウガンで毒弾打ち込んで来るからね」


「……ふぅん分かった。なら何かウチに様でもあるのか?」

「いやいやあの強力な火竜が倒されてるから気になっただけだよ。僕はもう行くから、じゃあね」


「…………」

 僕が離れると彼女は火竜の解体を始めた、自身が欲しい素材を先に回収してからベースキャンプにいるギルド支部のモンスター回収斑に連絡するつもりなんだろうな。


 ちなみにモンスター回収斑は信号弾を上空に放つと来てくれる大型のモンスターの死骸を回収するのが仕事の人達である。


 僕は利用したことはないけどね、だって基本採取クエストしか受けないし。

 そして名も知らない女性冒険者と別れて『寒風平原』を歩く、平原みかんを求めて…。


 

 

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