第21話 冒険にポンコツを添えて(4)

「マジックバレット!」

 先手必勝とばかりに紅葉大狐に向かって攻撃魔法を発動させる。


 こちらが魔法を使うと見て一瞬で警戒態勢に入る大狐。やはり頭はかなり良いな。

 八個の青く光る球体を放つ、ガロムと違って簡単にアゴとか狙わせてはくれない相手だ。


「キュオオオォォオオーーーーーーッ!」

 大狐が鳴いた、するとその周囲に黄緑色をした炎が出現する。狐火だ。

 直径三十センチ程度の火の玉を八個出現させた。それを操るのが紅葉大狐の持つ特殊能力である。


 更にもう一度大狐が鳴くと狐火が僕のマジックバレットとぶつかる。残念ながら力負けした、狐火がマジックバレットを燃やしてこちらに迫ってくる。


 あの狐火は敵は燃やすが木々や葉っぱは燃やさない謎の炎だ。こっちは火気は基本厳禁なのにズルいよね。

 飛んでくる狐火の回避はそこまで難しくはないので紙一重で躱していく。


 レベルとかステータスの恩恵だ、本当にありがたい話だよ。普通のおじさんならあんな大きな狐にケンカとか売れないからさ。


「アイスパイル!」

 空中に氷の杭が現れる、今度は数はとにかく沢山だ。そしてコイツを大狐に向かって発射した。

 大狐は自らの三本の尻尾に狐火を纏わせて、その尻尾を真横に振るう。


 僕の魔法が薙ぎ払われた。

「……今です!」

「待ってましたよ!」


 このタイミングでポンコツちゃんが隠れていた茂みから飛び出す。ボウガンを構えて大狐火の顔面に煙幕弾をぶっ放した。

「キュオォオオッ!?」

「モンスターと戦うなら大技を使った直後のスキを突く。それが冒険者の鉄則だからね!」


 よしっ視界は潰した、後は攻撃あるのみだ。

「サンダーバレット四連撃!」


 中級魔法を連続発射だ。マジックバレットと似た名前だけど発動の難易度も威力も違うのである。

 稲妻の弾丸はとても速く躱すのはまず不可能だ、何しろ稲妻だからね。


 そんなのをバカスカと当てられれば大狐火も黙ってはいない。目は未だに見えなくてもこちらの居場所を把握したのか、僕に向かって突進してきた。


「……………残念でした」

 ポンコツちゃんが不適に笑う。

 何故なら大狐火の通路には彼女が罠を仕掛けていたからだ。麻痺罠パラライズトラップである。


 当初の作戦はこうだ、先ずは僕がヤツの注意を引く、スキを突いて視界を潰した後はポンコツちゃんは急いで罠の設置を開示する。

 僕はその罠の向こうから魔法で攻撃して目が見えない大狐を罠へと誘導する。


 罠にかかれば後はタコ殴りである。

「サンダーハンマー四連撃!」

「うぉおおっ!くたばって下さいねーーー!」


 幾らモンスターと言ってもゲームみたいにHPがゼロにならないとどんなに攻撃されても死なないなんて事はない。稲妻に焼かれてボウガンで撃ちまくれば基本的に一分も掛からないで倒せた。


「ちょっとちょっと~~これ、大金星ってヤツじゃないですか?流石はハジメさん、何気にベテラン臭を漂わせていませんね!」

「なんのなんの、パニアちゃんの若い力があっての事だよ」


 何気にベテラン臭って、馬鹿にされてないかと思いつつポンコツちゃんをヨイショする。せっかく大物を仕留めたんだから楽しい空気のまま終えたいからだ。


 と言う訳で解体作業へと移行しようとした、その時である。


 冒険者の習慣でチラッと周囲を安全確認。すると茂みの影からボウガンがこちらを狙っていた。


「っ!?パニアちゃん!」

 咄嗟に彼女にプロテクションと言う魔法を発動、ポンコツちゃんの身を守る。

 しかし敵さんの狙いは僕だったようだ。脇腹を刺す様な痛み、ボウガンの弾が当たっていた。


 しかもこの弾には見覚えがある、これは……毒弾である。

「……え?ハジメさん?……ハジメさん!?」

「………しくじったね」


 僕は撃った張本人達を見据える。


「おぉ~~い、コイツは紅葉大狐か?大した大物じゃないのぉ~」

「はははっ!モンスターの討伐の後は周囲の警戒を怠るな~だろう?」

「俺ら見たいなのが横取りしに来るかるな!ヒヒッ!」


 現れたのは装備こそ冒険者風だが、その風貌はチンピラや半グレに近い連中である。

 この『真紅の渓流』も『紅葉の森』も基本的に未開拓地だ、人の目がない場所では何が起こるか分かったものではない。


 こんな真似をしてくるクズも冒険者の中に紛れ込んでくるのだ。

 クズ共はヘラヘラの汚らしい笑みを浮かべてこちらを見下してくる、一応毒は魔法で今、解毒中だがこれは即効性の毒だ回りが早い。


 死ぬ系の毒ではないが、身体が動かし難いぞこれ。

 傷を回復させるのは魔法でやると緑色の光がエフェクトみたいに発生するのでバレる。ここは油断してるクズ共のスキを突く為に痛みに耐える。


「ハジメさん!?ハジメさん!?大丈夫ですか!」

「パニア…ちゃん。落ち着いて」


「落ち着ける訳ないでしょう!?こっこのゴミ虫野郎共が!ぶっ殺してやんぞコラァッ!」

 やっやめて、マジでやめて。今から連中を退治する作戦を話したいからさ……。


 しかしブチ切れモードのポンコツちゃんはめっちゃうるさい声で怒鳴りまくって話を聴いてくれない。クズ共はその醜態を見てせせら笑う。


 クズ共が武器を構える。仕方ない、ここは派手な魔法でヤツらの目を引いてその間にポンコツちゃんを逃がすか……。

「…………な」


 とか考えていたら、いきなりクズ共三人の頭上に炎が現れる。三人が炎に包まれた。


 黄緑色の炎だ。

「は?……まさかアレってハジメさん……」


 私は悲鳴を上げるクズ共を無視して回りを見回す。すると木々を縫うように移動してくる巨体がこちらに迫って来た。


 新たな紅葉大狐、それも全長六メートルはあるキングサイズ級の化け物である。

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