第22話 おじさんは神器を振るう(1)
「ギャアアァアァアーーーーーーッ!?」
叫ぶクズ冒険者、しかしそっちに構ってる暇はなちのだ。
時間にして数秒、クズ共は骨すら残らず燃え尽きた。
何もかもがおかしい、紅葉大狐の狐火にそんなデタラメな火力はない。精々軽い火傷を負うくらいの炎の筈だ。
ヤツらの基本的な攻撃は前脚での引っかき攻撃や尻尾による重い一撃で狐火はこちらの行動を阻害する為の物に過ぎない。
それであの威力だと?。
この紅葉大狐は完全に特異個体だ。情報も碌にないモンスター、下手に戦うと死ぬ。
僕は回復魔法を発動して止血する、全開には程遠いがやるしかないな。
「ハッハジメさん……」
「止血はしたので僕は大丈夫、けどコイツは不味いね…」
何より急いで毒を魔法で除去しなければ、身体が碌に動かないのだ。
「キュオオオォォオオーーーーーーッ!」
特異個体の大狐が鳴くとその金色の体毛を発光する黄緑色へと姿を変える。
紅葉大狐は元々激昂するとその身体を紅葉する葉の様に赤く変えるのでその名前がついた。しかし黄緑色に変化するとか聞いた事がない。
発光しているのは尻尾だけでなく、その全身に狐火を纏っているからだろう。
あのクズ共を数秒で燃やし尽くした狐火を……これら無理だな。
「マジックポータル」
「え?マジック…」
「悪いね、触るよほいっと!」
「ちょっええっ!?」
緊急避難である、現れたマジックポータルにポンコツちゃんを放り込んだ。
特異個体が突進してきた。とんでもないスピードだ、このままだとヤツもマジックポータルの向こうに入られる恐れがあった。
「……ちっ!」
仕方なくマジックポータルを消して魔法で特異個体の足止めをする。
何とかこの場を離れてマジックポータルを発動して逃げなければ。
「アストラライト!」
目潰しに光量を最大にして魔法を放つ。
「キュオォォオオッ!」
「ッ!?」
魔力を咆哮と共に放って、僕の魔法をかき消した!?。マジか、二つ目の特殊能力とか……。
特異個体が前脚で連続攻撃を仕掛けてくる、何とか躱しながらアンチマジックシェルと言う魔法やモンスターの特殊能力攻撃から身を守る魔法を発動した。これで何とか消し炭にならない様にしたが、これまで咆哮で消されたら瞬殺されるかも…。
お狐クロー攻撃をレベルとステータス頼りの回避で躱しまくる。アンチマジックシェルは物理攻撃には特に恩恵がないのでおじさんは必死だよ、なんか久しぶりに腰と膝に不安を感じるアクロバットを連続で披露する。
しかも相手は人外のモンスター、ゲームみたくスタミナ切れでバテる事も殆どない。何故なら四足歩行の普通の動物ですら人間よりも体力があるからだ。
早歩きとかなで何時間も動くと言う持久力なら人間が勝つ。しかし事戦うとなると集中力もスタミナも人間の方が遥かに速く消費し尽くしてバテる。
だから人間は頑張って遠くから一方的に攻撃出来る手段を開発してきたんだ。弓とか銃とかミサイルとかさ。
こんな風にモンスターと真正面から戦うとかそもそも人間と言う生物には無理ゲーなんだと思う。
しかしこちらもレベルはそこそこ高いのだ、多少のダメージ覚悟でマジックポータルを発動した。
逃げ込んだ瞬間に魔法を解除すれば安心だ、既にポンコツちゃんもいないのでそれくらいは出来…。
「キュオオオオオオオォォオオーーーッ!」
特異個体の厄介な咆哮が来た。しかもマジックポータルが一瞬でかき消された。
マジックポータルまで……冗談だろ。
「キュオオオォォオオーーーッ!」
「…………くっ!」
そこから魔法を発動した隙を突かれてまさに防戦一方。しかしそのギリギリの均衡が崩れた。
特異個体が六本の尻尾の炎を四方八方に飛ばし始めたのだ。しかもその狐火は地面を燃やして僕の足場を奪っていく。燃えなくても普通に熱いんだよ。
そして逃げるスキを見つけようと必死なおじさんに追い打ちをかけてきた。
ヤツの突進をギリギリで回避したタイミングで尻尾を束にしたヤツの追撃を躱せなかった、ジャンプした所を狙われた。
見た目モフモフの尻尾だが、実は筋肉の塊である。マッスルラリアットを喰らった様な物だ。
いい大人が余裕で吹っ飛ばされた。
木々の間、枝葉を蹴散らしながら僕は宙を舞う。
「…………うわっマジですか」
吹っ飛ばされた先、地面がなかった。
よりにもよって滝がある方に……狙っていたのかも知れない。最悪だ。
全身が……動かない。
僕は指にしていたあの指環に視線を向ける。
「…………賭けるか」
僕はそのまま滝壺へと落ちていった。
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