第20話 冒険にポンコツを添えて(3)

 このモンスターの名前はガロム、この『真紅の渓流』には多く生息するモンスターだ。全長は一メートルちょっとあるレッドなトカゲである。


 日本ならこんなの現れたら大騒ぎになるが、この異世界アレクサンドにおいては人間より小さなモンスターなんて雑魚も雑魚、ゲームのゴブリン的な扱いしかされない。


「数は三頭ですね」

「よぉし!ここはワタシに任せて下さいよ!こんなザコモン共なんてこの相棒の『アトミックボンバー』で瞬殺ですよ!」


 そう元気に言い放つポンコツちゃんの装備してるボウガンは金のない冒険者が使う最下位モデルのボウガンである『アトミックボンバー』なんて名前が何処からきたのか知らないがそのボウガンの本来の名前は『練習生のボウガン』だ。


 名前の通り普通は初心者がボウガンの使い方を学ぶ為に最初に手にするボウガンである、普通はこんな所に来る時に装備してはこない。行き先を教えていなかったおじさんの失態もあるのでとやかくは言えないけどね。


「本当に良いのかい?ボウガンの弾もお金がかかるでしょうに…」

 某ゲームと違ってボウガンの弾は二束三文で売っていないし、現場の変な植物やモンスターの骨を調合しても弾の代用品なんか作れたりしないのだ。


 こんな大して金にもならないモンスター相手に貧乏冒険者がボウガンで戦うとか普通に赤字である。

 弓矢でも矢に細いロープとか巻いて矢は確実に回収するのがアレクサンドの冒険者の常識だ。


「やっぱりハジメさんにさんが頑張って下さい」

「…………分かったよ」

 結局出張るのはおじさんだった、威嚇したりしながら接近してくるガロム達に魔法を放つ。


「マジックバレット」


 初歩の下級攻撃魔法だ、対象に物理的な小ダメージを与える的な魔法である。


 青く光る球体を三個出して放つ、球体を操作しながらガロム達の周囲をうろちょろさせると動きを止めたのが一体、残り二体は無視してこちらに来た。

 僕は球体の速度を上げた。更に接近して来た二体のアゴを狙ってマジックバレットを真横からぶち当てる。


 一部の例外を除いてモンスターも生物である、大抵の生物はアゴをやられると一瞬で意識を失うもんなのだ。

 昏倒した二体のガロム、残りの一体は逃げ出した。


「逃げていきますね」


「まあモンスターも勝てない相手からは逃げるヤツもいますよそれより気絶したモンスターの喉を切って血抜きを、それと解体ですね。内蔵を傷つけて糞尿を撒き散らすと肉が駄目になるので注意が必要ですよ」


 僕がテキパキと指示をするとポンコツちゃんがモンスターの解体を始めた、以前マコラと出会った時は彼女を冒険者ギルドの支部に連れて行くのが優先になりマドスの素材は諦めたけど本来は倒したモンスターの素材はちゃんと解体して貰っていく。


 命を頂くんだからね。解体で残った物は他のモンスターが食べるか土に還るのだ。

 ガロムは主にお腹の鱗が生えていない皮や赤い鱗がある程度の値段で買い取って貰える、文無しのポンコツちゃんのお小遣いである。


「……ハジメさん」

「どうかしたの?」

 もしかして指示をテキパキするおじさんを見直したとか?。


「指示するのは良いんですけど、少しは解体を手伝って下さいよ」

「………」

 まあ指示するだけで汚れる仕事とかをしたがらない人間って普通に嫌われるよね。


 仕方なく手伝うことにする、僕はガロムの素材とか別に要らないのだけどね…。

 しかし解体もひと作業である、ゲームみたいにボタン操作一つで数秒後には剥ぎ取りとか解体が完了するわけじゃないから仕方ないが。


 そして解体を終えた、ガロムの素材は僕はリュックサックに。ポンコツちゃんは腰にある『保存ポーチ』に入れた、『保存ポーチ』は中に入れた物が時間で劣化するのを防ぐ魔法が付与されたポーチである。


 中の方も空間を少し弄くってあるので二十キロくらいまでの量なら入る、しかも『保存ポーチ』は重くなったりしないのだ。僕の魔法のリュックサックと良い勝負が出来るアイテムである。


「よく『保存ポーチ』なんて持ってましたね」

「へへ~ん、以前カジノでボロ勝ちしたときに景品でゲットしたんですよ~」


 そんな会話をしながら『真紅の渓流』を進む。

 回りを木々に囲われた広い空間に出た、そこお目当てのモンスターがいた。


 全長四メートル、身体に独特な紋様が現れる金色の毛並みと三本の長く大きな尻尾。耳も当たり前だが長く上を向いている。

 まるで狐の神様見たいなヤツが悠然と四本足で歩いていた。


「………紅葉大狐だ」

「うひゃあ~めっちゃ強そうですよ、勝てますかあれ?」

 勝てるよ失礼な、僕は勝てる試合しかしない派なんだよ。おじさんに無理は禁物だからね。


「作戦の説明をするよ」

 かくかくしかじか的に手短に話をした。ポンコツちゃんからは『分かりましたよ、それで行きましょう』と返事が来たので作戦開始だ。


 僕は紅葉大狐の前に躍り出た。

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