第9話 名刀秋刀魚とポンコツちゃん(1)

 テンバー地方にはモール湖と呼ばれる琵琶湖以上に大きな湖がある、このモール湖は実は地下で海と繋がっているのだ。


 そこを僕達冒険者は『海底洞窟』と呼んでいる、今日僕はそこに来ていた。


 水中なので魔法で水の中でも呼吸が出来るようにして、暗いので暗視も出来るようにする。更には危険なモンスターも多いので気配遮断の結界とかも張る。ここまでしないと中々行けない場所なので他の冒険者も滅多に居ない。


 モール湖の地下から海に伸びる『海底洞窟』には様々な海の食材がある、今僕は発光サンゴが群生する場所に来ていた。

 ここは『海底洞窟』の中でも比較的明るい場所で、洞窟サザエとか洞窟大海老と言うここでしかお目にかかれないのが多い。


 今日は洞窟大海老はいないか、残念。

 しかし洞窟サザエはいたのでゲットである、腰の魚篭にサザエを入れる。


「……………ッ!?」

 妙な気配を感じた、咄嗟に発光サンゴの影に隠れる。向こうから見えないように除くとそこには赤く光る目を輝かせる大きな黒い影があった。


 この『海底洞窟』の主である赤目ウツボか。頭だけでも数メートルはあり、全長は軽く五十メートル以上ある怪物だ。人間なんてひと呑みにするモンスターである。


 タダでさえ真っ暗な『海底洞窟』で真っ黒なウツボがボスとか嫌な組み合わせだ。

 そして多分だけどあの赤目ウツボ、僕が隠れてるの気づいてるな。


 ……仕方ないな。タダでさえ幾つも魔法を重ねて発動してるから、あまりやりたくは無いけど。

「………マジックポータル」


 僕の目の前に三メートル程の青白い輪っかが現れた。中は白い光が光っている、これもネビウス様の呪文書スペルブックに載っている魔法だ。

 呪文を発動する時に頭に思い描いた場所へと空間を越えて繋がるポータルを出現させる魔法なんだそうだ。


 流石に赤目ウツボもこちらに迫ってきた。僕はポータルに飛び込んだ。

 ポータルの先はテンバー地方にある冒険者のベースキャンプ地、そこの外れにある一目に触れない場所だ。


 魔法が使える事をあまり知られたくなからそこにポータルを開いた。

 ………けど、モール湖までまた装備を取りに行かなければ行けないけど。


 上半身裸で、下は海パン一丁姿である。

 いや~今日は危なかったな……。



 ◇◇◇◇◇◇



 その日の午後僕はベースキャンプにて今日の冒険でゲットした洞窟サザエを網焼きで焼いている。

 ベースキャンプでは冒険者は基本的に何をしても自由だ、ストレッチをしている人もいるし夜のクエストに備えてテントで仮眠してる人もいる。


 僕はお腹が空いたのでご飯だ。

 ジュージューといい音と匂いだ、醤油もちゃんと用意してるので待つのが大変である。


「あっどうもハジメさん、今日も生きてますか?」

「ん?…ああっこんにちはパニアちゃん」


 オレンジ色のフワッとした天パを肩まで伸ばしている。黄色い瞳の日なたぼっこ好きな猫っぽい印象を受ける少女だ。

 彼女の名はパニア、確か歳は十六、七歳くらいの若き新米冒険者である。


 出会い頭に生きてますか?ってなんだと思うがゆるふわな見た目通りどこが抜けている彼女だ、冒険に出てもそんな感じなので以前組んだ時にひどい目にあったのは記憶に新しい。


 故に内心で僕は彼女をポンコツちゃんと呼んでいる。見た目は普通に美少女である。


「おお~~、今日は洞窟サザエですか?美味そうですね!『海底洞窟』に行ってきた冒険者から譲ってもらったんですか?」


 彼女は僕と同じ時期に冒険者になったいわゆる同輩だ。だからなのか自身がポンコツちゃんだから僕も自身と大差ないポンコツ冒険者だと思っている節がある、ポンコツちゃんは僕が自分で『海底洞窟』に行ってきたとは全く考えていない。


 その察しの悪さが冒険において多大な被害を組んだパーティーメンバーに与える、だからか近頃は基本的にソロで冒険者をしているようだ。


「あっワタシの物もついでに焼いてもらえません?網の空いてる所で良いんで」

 そう言うとこちらの返事も待たずに網の空いてる部分にサツマイモっぽい紫色の芋を転がす。


 サザエ焼いてる網で……マジかよこの子。

 僕がドン引きしているとポンコツちゃんは珍しく少し気落ちした表情を浮かべて溜め息をついた。


「……ハァ~~~アッ」

「……………」

「ハァ~~~~~~~~~アッ」

「………」


「ハァ~~~~~~~~~~~~~~~~……」

 長いよ…。何アピール?。


「どっどうかしたのかい?」

「聞いて下さいよハジメさ~~~ん!」

 そして彼女はかくかくしかじかと話す。

 何でも少し前に組んだパーティーを追い出されたらしい、クエストの報酬も貰えずに現在絶賛極貧生活中らしい。


「ちょ~と道に迷ってモンスターの巣に入って、そのままトレインしてパーティーメンバーの皆に助けを求めただけですよ!?……まあそのクエストは失敗しましたが」


「………」

 ネトゲでそれやったらギルド追放もんだよ。

 ポンコツちゃんは自身の失敗を振り返らない、故に失敗から学ぶ事もしない。

 ポンコツちゃんのポンコツたる所以だ。


「って訳でまたハジメさんのクエストに連れてって下さいよ、そして報酬を半分下さい」

 堂々たる寄生宣言。ポンコツちゃんのポンコツポテンシャルの天井が未だに全く見えないな。


「……その話聞いて、僕にパニアちゃんと組むメリットある?」

「あっそれならこのほんのり甘芋を手付金としてどうぞ」


 ほんのり甘芋か名前通りそこそこ甘くて美味しい芋だ、ただテンバー地方だと簡単に手に入るけどねそれ、一度蒸かしてあるらしいので直ぐにでも食べられそうではあるけど……。


 あっ…ポンコツちゃんはわたしへの手付金を半分に折って自身の口へと放り込んだ。

 モグモグとほっぺを膨らませている。


 もう一度思う………マジかよこの子。

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