第7話 甘党梨と奴隷ちゃん(4)

 僕はマコラの手にする甘党梨を指差した。

「それっ美味しいでしょ?」

「……うん、こんなに美味しい果物食べた事がない」


「そっ僕はグルメが趣味でね、美味しい食べ物に目がないんだ。そしてこのアガームにはそんな美味しい食べ物が沢山あるんだよ」

「………………まさか」


 そうっそのまさかね、僕は美味しい食べ物を食べたい。そしてソロなのは美味い物を独り占め……コホン、食べられる量に限りとかあった時の為にあれする為に出来るだけソロなのである。


「冒険者は金や名誉、後は女を手に入れる為になる職業だとアイツらは言っていた」

「マドス一体に全滅する三流冒険者の言葉を真に受けない方がいいよ。まっ冒険のスタイルは人それぞれなのは本当だけどね」


「………冒険のスタイル?」


「そうっ例えばとにかく強いモンスターと戦いたいからアガームで冒険者してるヤツもいるし、未知の遺跡とかを発見したり、そんな場所で一攫千金を夢見るのもそれぞれの冒険のスタイルだよ、求める物が違う」


「求める物?」

「うん、あの全滅した連中みたいにお金や名誉。それ以外にも戦闘や冒険のスリルとかね、何を求めて冒険者になるのかは人それぞれって事…」


 僕は自分を指差して言う。

「それが僕の場合はグルメなんだよ」

「…………」


「このアガームは本当に凄い、今まで三十年ちょっと生きてきてそれなりに色んな物を食べて来たけどここに存在する美味しい食べ物は今まで食べてきた物とは別格の物ばかりだったよ」


 つい頬が緩んでしまう、このアレクサンドなら自分で取りに行けばお金は殆ど必要ないし、未開の地なら土地の所有者なんて連中がうるさく何かを言ってくることもない。


 まさに冒険者様々だ。僕みたいな人間でもこの世界なら滅多に人が食べられない様な超高級食材とかも食べれるんだからね、まあ命懸けな部分があるのは認めるけどそれをする価値はあると、個人的には思う。


 それくらいこのアガーム大陸で出会った数々のグルメには心を動かされてきたからだ。

 そんな話をマコラに話をした。


「あっそれとこれも渡しとくね」

「……え、お金?」

 僕が渡したのは金貨十枚、金貨一枚で約日本円で十万はするので百万円を渡した事になる。


「こんな大金、渡されても困る…」

「それは君が故郷へ帰る為の路銀に使ってよ、もちろん返す必要もないから気にしないで」


「……でも」

「ダークエルフの君には、人間が大分迷惑を掛けたみたいだしさ。僕に出来るのはこれくらいだけどそれで勘弁して欲しいんだよね、あっもちろんその人攫いの連中とか弁護する気はないよ?」


 普通に考えると大金をポンと出すとか、詐欺師か何かに見えて警戒されるかな?しかし奴隷ちゃんから解放されても無一文だとマコラはアガーム大陸から出ることも出来ないし、また悪い人間に捕まるなんてのも個人的に目覚めが悪くなる。


 ならここは僕が大金を出してお互いに良い結果にした方がいい、息抜きでこの世界に来ている僕にはこのアレクサンドと日本を行き来してなんかこう、上手い商売して大金ザックザク~~……なんて事には興味がないのだ。


 そもそも日本で異世界の物を大金に変えるとか、どこで足がつくか分かったもんじゃないしね。

 何か問題が起きた時に自分で解決や責任がとれない人間が好き勝手するのはいただけないからさ。


 取り敢えずお金をマコラに押し付ける事に成功する。

「もちろんそのお金の使い道は君次第だから」

「…………名前」


「名前?」

「私は名乗った……」


 ああっ名前を名乗ったのに君とばかり呼んでいた、それが気に入らないのかマコラは少し不機嫌そうにしている。


「そうだね、じゃあマコラさんかな?」

「……マコラでいい、私も貴方をハジメと呼ぶから」


「そうか、分かった。ならマコラ先ずはここからキャンプ地まで戻ろうと思う、モンスターが出て来る可能性もゼロじゃないから気を抜いちゃダメだよ」

「分かってる」


 そして僕とマコラはキャンプ地、そしてイルバーンの冒険者ギルドへ向けて出発した。



 ◇◇◇◇◇◇



「って事があったんですよ~」

「成る程ね~まっ女の子に親切にするのは良いことだよ、うんうん」


 そこはあの列車が止まってる草原である、電車には相変わらず草が生えまくっていて、これに乗ればあのホームに帰れるのが本当に不思議だね~って気分になる。


 僕と話をしてるのはネビウス様だ。この空間は他の人が入ってこれない特殊な空間なのだがここならネビウス様のテレパシーが届くらしい、姿は見えないのに頭に声が聞こえるのは少し不気味だがもう慣れた、何しろもう一年近く異世界に通ってるから。


 草原は今は夜だ、この空間の時間はアレクサンドとシンクロしていて向こうが夜だとここも夜になる。

 僕は電車から少し離れた場所にテントを張って焚き火台と折りたたみ式のイスを設置してそれに座る、もちろん焚き火台の上では焚き火をしている。


 それとコンパクトなテーブルも出してる、本当に魔法のリュックサック様々だ、こんな物まで全部入るんだからね。

 そしてその上にはプラスチック製の皿がありカットされた甘党梨が、僕はそれにつまようじを差してパクり。


「う~~んジュ~シィ~~」

 おじさんも甘い物が好きなもんなのさ。


 焚き火を音を聞きながら甘党梨に舌鼓をうつ、やっぱり異世界での息抜きは最高だ。





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