第2話 田中一(たなかはじめ)(2)
列車がゆっくりと動き出した。見るとネビウス様がこっちを見ながら軽く手を振っていたので私もなんとなく手を振って返す。
ネビウス様には何度かお土産を持っていっている、すると喜んでくれるのだ。また今回の旅で良い物があればお土産にしたいものである。
列車はスピードを上げる、すると線路を離れ空へと浮き上がった、この時は車内も傾くのだが不思議と身体にはなんの負荷も感じないのだ。これもまた不思議な話である。
「…………」
空飛ぶ列車から回りの景色を見る。無論青空と白い入道雲しか見えないのだがそれでもある程度高い所を移動するのでいつも見てる景色とは違って見えるな。
ちなみにこの列車、運転手とか居ないのである。これはファンタジーと言うかホラーだよね…。
まあ僕はホラーは苦手なのであまり意識しないようにしている。思考から追い出すのだ。
とにかく景色を楽しみながらしばらくすると青色の景色からまた視界が一変するタイミングが来る、何度も経験してるとそろそろかなっと勘で分かるようになる。
「!」
気付けば僕は草原にいた。列車には乗っている。
列車から降りてその列車を眺める。列車には草が生えていて草原と一体化しているようだ、さっきまで乗っていた列車と同じ物とは思えない。
しかしこれもまた慣れである、帰りはこれに乗ってまたネビウス様に話をすればあのホームへと帰れる。ちなみにこの空間は特殊な空間らしくこの草原にも誰の人影もない。
列車に背を向けて歩き出す、すると木製の立て札が現れた。『この先、アレクサンド』と異世界の文字で書いてある、僕は立て札の横をすり抜ける。
すると今度は建物の裏と思しき場所に出た。この街の建物は基本的にヨーロピアンを思わせる作りをしている、実にファンタジーの王道スタイルな街なのである。
ようやく異世界アレクサンドに到着した。
今僕がいるのはイルバーンと言う名前の街で、この世界では大都市とされる人口十数万人に及ぶ大きな街だ。
アレクサンドはファンタジーな世界観の異世界、いわゆる剣と魔法の世界だ。そこに住む種族は多い。ケモミミ系からガチの二足歩行するアニマルまでが獣人と呼ばれるが細かく呼び名が違うとかもあり、それ以外にもエルフもドワーフもいる。
この世界ではリザードマンやゴブリンやオークも人と同じ知性と文明を持った種族である。
後は魔族とか………まあとにかく地球よりも遥かに多くの種族が住む世界なのである。
もちろん人間も住んでる、人口を占める割合とかまでは僕には分からないがそれなりだと思う。
それと何故にこんな建物の裏手に現れたのかと言うと人目につくのを僕が苦手なのであらかじめネビウス様にお願いしているからだ。
息抜きで来てる場所なので変に注目されても居心地が悪くなるだけだ、あくまでも目立たずに、普通のおじさん冒険者として僕はこのイルバーンでは通っているのだ。
「よしっ先ずは冒険者ギルドに行くか」
僕は冒険者だ、やはり最初に行くべきは冒険者ギルドだろう。そんな訳で出発だ。
イルバーンの街はかなり大きいので歩くだけでも苦労するデスクワーカーには大変だ。
「まっ昔の話だけどね…」
僕の手には一枚のカードが握られている。
実はこのアレクサンドは例のレベルとかステータスと言うゲーム的なシステムが実装されている、いわゆる『経験値』を得てレベルを上げると身体能力とか精神的なステータスまでも強化されるのだ。
そしてこの『経験値』、実はゲームみたいにモンスターを倒すとか以外にも得ることが出来る。
僕の場合は文字通り日本での三十年の経験が全て『経験値』と換算されるとネビウス様は言っていた、お陰でこのアレクサンドに来た時点で結構なレベルになれたのである。
現在の僕のレベルは66である。ちなみに人間のレベルの限界は99だとネビウス様は言っていた、最もそこまでレベルを上げた人間なんてこの世界では一人もいないらしいけど。
………まああくまでも僕はそこそこのレベルだ、この世界は本当にファンタジーな世界なのでマジモンのバケモノみたいなのがゴロゴロいる。僕なんてポッキーみたいに出来るようなのがね。
だから俺ツェェみたいな事は無理、普通のおじさん冒険者として活動する道を選んだのである。
「おっ着いたな」
3階建てのヨーロピアンな建物である規模も大きく数十人の人間が中に入れるだろう。
入り口の上には剣と盾のレリーフがある、実にらしいデザインだ。僕は冒険者ギルドの中に入る。
まず行くのは受付カウンターだ、綺麗な受付嬢さんがいるカウンターに自然と足が向くのは仕方ないのである。
「あっ!おはようございますハジメさん」
「おはようございますサーラさん」
背中まで伸びた綺麗な銀髪と黄色い瞳が特徴的な美人受付嬢のサーラさんだ。ギルド職員としても優秀で多くの冒険者やギルド職員に注目されている。
ギルド職員の制服とスカート姿でも様になってるスラッとした高身長の美人さんだ。
サーラさんがいる受付カウンターへと向かった。
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