第3話 田中一(たなかはじめ)(3)
「それでハジメさん、今日はどんな依頼を受けるつもりでギルドにいらしたんですか?」
冒険者が冒険者ギルドに来る理由なんて仕事を求めて以外にない。サーラさんはテキパキと話を進める、僕は今回アレクサンドに来た目的は異世界での趣味の為だ。その趣味とは……。
「はいっ今日はテンバー地方に行こうかと思っています」
「テンバー地方ですか、それでは……」
僕はサーラさんと話をする。テンバー地方とはイルバーンを西に進んだ先の事で、一年を通して季節が秋で固定されたような場所だ。
年がら年中紅葉シーズンみたいな森や茶色の平原や風が冷たい渓谷が広がる未開拓地域だ。
未開拓地域なので色々と謎も多い場所でモンスターも色んな存在がいる危険な場所だ。僕がそこに向かう理由は一つ。
──僕は、この異世界のグルメにハマっているのだ。
テンバー地方はまさに一年中秋の味覚を味わえる夢のような場所だ、無論日本、と言うか地球のそれとかなり毛色が違う物も多々あるがそれ以上に本当に美味い物が多いのである。
そんなグルメを求めこのイルバーンには多くの人々が集まる(もちろん普通に未開の地を開拓するのが目的の人の方が大多数だけどね)。ちなみにこのイルバーンがある大陸、名前をアガームというのだけど大陸の九割以上が未開拓地と言う謎に満ちまくりな大陸である。
何でもヤバイモンスターが多すぎて碌に開拓が進まないらしい。お陰で僕みたいな身元も怪しい冒険者が街を大手を振って歩けてるのだ、普通は街へのセキュリティとかもう少しちゃんとしてるよ幾らファンタジーな世界でもね。
そんな大陸にこんだけ大きな街を作れるんだからある意味この世界の人々も大したもんだよ、そして話をした結果、今日の僕の仕事が決まった。
「それでは今回はあの梨の採取ですね?」
「はいっお願いします」
僕はそんな未開拓地域でのみ入手出来るとある梨の採取依頼を受けることにした。
この世界にも梨はある、しかしこのアガームのデンバー地方に自生する野生の梨は品種改良された日本産の梨すら超える糖度と果汁を誇るのだ。
ふふっ僕の食べる分も採取しとこ、それが許されるのが冒険者なのだ。だからこそ冒険者なんて存在に三十路過ぎの僕がなることにしたのだ。
「それではハジメさん、無事に依頼を達成して戻って来て下さいね」
「分かりました」
ペコリと軽く頭を下げて、冒険者ギルドを後にする。そして向かったのは転移水晶がある場所だ、見た目少しこじんまりした白い寺院っぽい場所である。
そこには冒険者ギルド以上に冒険者が沢山いた。
ここには転移水晶と呼ばれる大きな水晶が四個ある、これはテンバー地方を含めた四つの地域にあるキャンプ地に瞬時に転移出来ると言うファンタジーな水晶だ。
それぞれの水晶に担当の神官が立ち、冒険者達をそれぞれの地域へと送っている。神官達が呪文を唱えると冒険者達の姿が一瞬で消えた。
僕のようにテンバー地方に向かう冒険者もいる、僕もその水晶の元に行く。
「おはようございますマグドワさん」
「おはようございますハジメさん」
今日のテンバー地方への転移水晶の担当をしてるのは金髪優男のマグドワさんだ。
「今日はテンバー地方に行くんですね、近頃はあの辺りも危険なモンスターが出る可能性があるので気をつけて下さいね」
「このアガーム大陸で冒険者してる人で、危険を察知する能力がないと直ぐに死んでしまいますよ」
「確かにその通りですね」
マグドワさんが呪文を唱えると転移水晶が微かに光った。何でもこの転移水晶はこの寺院の神官だけが使える魔法に反応して転移魔法を発動させる仕組みらしい、説明されてもなんのこっちゃな話ですな。ちなみに転移はタダである、ステキ。
そして視界がまた一変する。ほんとアレクサンドでは視界が突然変わる事が何度もあって大変だ。
しかしこの転移魔法のお陰でイルバーンから軽く数百㎞以上離れてるテンバー地方の入り口に作られた冒険者用のキャンプ地に行けるのだから転移魔法様々である、ファンタジー万歳。
キャンプ地に到着した僕は早速テンバー地方へと向かう。キャンプ地から出て百メートルも歩けば美しい紅葉が広がる森が広がる。
冒険者からは『紅葉の森』と呼ばれる、モンスターも棲息するがそれ以上に美味い秋の味覚が満載な森である。
もちろん浮かれたりはしない、先ずは森に入り人の目がない場所まで移動する。早速この『紅葉の森』に挑む準備開始するか。
僕は背負ってるリュックサックを地面に下ろす、そして中をゴソゴソとする。
このリュックサック。じつはマジックバックなのである。中には無限に物を入れられて欲しい物を頭に思い浮かべるだけで中に手を突っ込むとそれが取り出せるファンタジーなアイテムだ。
僕がアレクサンドに行くという話になった折、ネビウス様が幾つか私物を貸してくれると言われたのでこの便利のリュックサックを初めとした幾つかの魔法のアイテムを借りている。ただのおじさんが冒険者をやれているのは女神様から借りたアイテムによる所が大きいのである。
そしてそんな女神様のリュックサック……名前がダサいな。その中から更なる魔法のアイテムを取り出す。
それは青色のビー玉みたいなものであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます