EP.15 前哨ー死地への進撃ー
新橋一帯にカビ女の巨大胞子のうが出現してから一晩が経った。
一久と理沙、真理は日の出とともに柴又のE.M.C地下基地から主力戦闘機のヴァトール=シックスに乗り込んで新橋に出現した菌糸群の偵察するために飛んでいっていた。
ヴァトール=シックスは重水素核融合炉を用いてプラズマ化したヘリウムをジェット噴射して推力を得るサターン=ジェットエンジンを搭載したテーパー翼をもつ垂直離着陸機である。指揮担当者と操操縦士、レーダー観測と機体管制を行うオペレーターの三人で運用される。最高速度はマッハ十二である。
一久の操縦で柴又を飛去ったヴァトールが隅田川を越えると指揮席に座る理沙がヴァトールがカビに浸食されないように機体表面にオーラシールドを張り巡らせた。
「シールド張ったわ」
理沙が言う。
「了解、マルチカメラスタンバイ」
オペレーター席に座る真理が計器のスイッチを弾きながら言う。
「マルチカメラセット完了。メディアスタンバイ完了」
ヴァトールに取り付けたマルチカメラがウェポンベイから展開され空撮を開始した。
一久は操縦桿とペダルを緩やかに操って菌糸に覆われた新橋の摩天楼の合間を縫うようにしてヴァトールを飛ばしていく。
新橋の超高層ビル街は菌糸に覆われそのてしまい真っ白い胞子が絶えず空から豪雪のように降り注いで日差しさえも遮えぎられて薄暗くなっていた。その菌糸の苗床になった町並みの上を滑るような機動でヴァトールが飛んでいく。
マルチカメラから得られる採取データと併せて理沙のオーラによって菌糸の詳細データが採集されていった。
「やに静かだな。とても敵のど真ん中とは思えないぜ」
コクピットのキャノピー越しに菌糸に包まれた新橋を見て一久が言う。
「見せているのよ。何をしても勝てると確信しているのよ」
マルチカメラとオーラレコーダーの弾き出す採取データーに目を向けてながら真理が言う。
ヴァトールは新橋から汐留方面に進路をとって飛去りながら苗床の観測を行っていった。
ヴァトールが新橋を飛んだ日の午後には真理達が観測したデーターは真理の手によってレポートにまとめられ春樹と参謀部に提出され、参謀部によって作戦が立案された。
「恐ろしいものだ。あれだけの殺傷能力をもつカビをバラ撒いてしまおうというのだから」
白い麻のシャツにベージュのパンツ姿の大助がレポートを片手に言う。
千里亭の二階にある六畳間の大助とアリアの私室の窓枠に大助はもたれかかっていた。
「もっと恐ろしいのはカビ女個人と敵組織の目的が達成されていることだ」
黒いナイロン生地の半袖のシャツにセンタープレスのパンツ姿の春樹が言う。
「父親への復讐か。個人の生命では無く会社や社員、建設事業に関わり本社を置いている新橋界隈の破壊。それを一人娘が行ったという事実。人の親としては同情できないレベルで辛いものだな」
そう言って大助はワイルドセブンを口にくわえて火を点けると深く吸って灰皿に灰を落とした。
「それに加えて敵組織は新橋一帯を制圧して経済活動に打撃を与えている。非難区域に永田町界隈と兜町が含まれているのも最悪だ。連中は日本の経済と政治の喉元にナイフ突きつけている格好さ」
春樹が鼻で笑いながら言う。
「それでいて敵は何も要求してこないのは何故だと思う」
大助が煙草を口にくわえる。
「脅しなんて必要ないさ。カビ女の胞子が新橋からバラ撒かれてみろ。大川から神奈川の境までは壊滅だ。そしてまた街がカビに沈んで胞子が育つ。それを繰り返していれば半月で日本壊滅さ」
春樹が言う。
「そうだな。連中の計画は半分以上が達成されている」
大助は吸い終えた煙草を灰皿に押しつけて火を消すと新しい煙草に火を点けて口にくわえた。
「春樹、参謀部からの作戦案には目を通したか」
「見た。モール=ディグを出して地底にある敵の中枢を直接攻撃する。それも攻撃手段は真理の物質変換と理沙のオーラへの直接干渉の合わせ技だ」
「成功させられるか」
大助が手にしているセブンスター再び深く吸う。セブンスターの残っていた煙草が瞬く間に燃えて灰になっていく。
自分たちに命令を下すのを躊躇っている大助の問いに対して春樹の答えは決まりきっていた。
「させるよ。俺たちはその気でいる」
「そうか」
大助が煙草を灰皿にこすりつけて火をもみ消す。
「ならばフラッカーズにカビ女に対する撃滅作戦の実行を命じる。百獣騎兵隊のモール=ディグチームと協力して事態にあたれ」
大助が春樹に言い放つ。
大助の命令に対して春樹は足を正座に組み直し背筋を正して大助に向き直った。
「了解しました。これよりフラッカーズは作戦行動に移りモール=ディグチームと共同で作戦に当たります」
そう言って春樹は立ち上がった。
「春樹、すまないな」
部屋を出ていこうとする春樹を呼び止めるようにして大助が言う。
実の息子と、その友人達を強大な敵に向かわせる事への躊躇いを喝破させたのを親として指揮官として大助は息の詰まる思いでいた。
「すまない事なんて無いさ。やるべき事だろお互いにさ」
春樹には大助から下される命令を誇りに思っていた。自分達を失う事に恐怖しながらも成し遂げて帰ってくる事に信頼を寄せている親心と指揮官の責務に揺れ動く愛情に応えられるのが春樹にとって誇れる事となっていた。
「あぁ、そうだな」
はにかんで大助は春樹に言った。
春樹は静かな笑みを浮かべて頷くと大助の部屋を出ていった。
春樹が階段を駆け下りる足音が大助の耳に響いていく。そして大助は煙草に火を点けて吸い始めた。深く吸うそして煙と一緒に息をはく。そして大助は煙草をくわえて立ち上がった。
大助は自室から出て千里亭の貴賓室へと出向いて行った。縁側を伝っていって玄関を過ぎると直ぐに貴賓室の磨り硝子が填められた引き戸に行き当たる。
大助が引き戸を軽く叩くと中から執事の一夜が引き戸を開けた。
千里亭の貴賓室は近代的な洋室でアンティークのソファーとローテーブルが置かれており暖炉までが備えられている。
大助が貴賓室に入ると三谷電子の社長である三谷貴弘が飲んでいたブルーマウンテンが淹れてあるコーヒーカップをテーブルに置いて座っていた奥側のソファから立ち上がろうとした。
「そのままで結構ですよ」
大助が三谷社長に言う。
「いや、失礼します」
三谷社長が上げかけた腰をソファに降ろした。
日に焼けた肌に真っ白い歯と活動的な見た目をしている三谷社長であるが少しばかり疲れの色が見えていた。
「昨晩は眠れなかったでしょう」
大助が言う。
「えぇ、まぁ」
三谷社長が曖昧な相づちを打った。それからやや間を開けてから三谷社長は口を開いた。
「娘は何を望んでいたのでしょうかね」
うなだれた調子で三谷社長が言う。
大助は黙したまま耳を話に傾ける。
「娘は17歳の夏に行方を眩ませました。その時からずっと考えているのです。私は何をしてやるべきだったのかと」
三谷社長がうつむく。
「もっと娘のする事に理解を示せばよかったのでしょうかね」
三谷社長が言う。
「それは子供が育つにつれて誰しもが思うことでしょう」
大助が口を開いた。
「私も息子とは五歳から二十歳まで生き分かれていました」
大助が言うと三谷社長が顔を上げた。
「三谷さんも会いましたでしょう。私は息子と息子の友人達に何をしても償いきれない事をしてしまいました」
大助の頬に陰りが生える。
「そうは言っても立派になって貴方と共にいらっしゃるじゃないですか」
「えぇ、息子と友人達は再会した時に私を責めませんでした。そして父と呼んで慕ってくれています。それでも私は彼らが五歳の時に、いや生まれるよりも前にすべき事があったのではと今でも当時の自分の執着心を責めますし選び取った選択が正しかったのかと迷います。その最中で私は彼らに命がけの戦いに身を投げ出すように命じて死地に送り出すのです。父親のする事ではありませんよ」
三谷社長は大助の話しぶりから感じられる陰りに自分と同じ思いを感じ始めていた。お互いに取り返しのつかない事を子供達にしてしまったのだと。そして自分の行動のやり直しも償いもできないのだ。
「私は娘に会って話したかった。しかし叶わない事でしょう」
三谷社長の言葉に大助が深く頷く。
「千里さん。娘を頼みます。どうか娘に・・・・・・」
三谷社長が言葉に詰まり嗚咽が漏れ出す。
「承知しました」
三谷社長のうなだれて丸くうずくまった背中を見据えながら大助は静かに頷いた。
千里亭の地下にある百獣騎兵隊の整備ドックの一角に地底掘削戦車のモール=ディグが駐留されていた。このモール=ディグがカビ女の菌糸と胞子のうを司る本体を直接攻撃するマシンである。
モール=ディグは機首に装備された円錐型の超硬質ダイナドリルを用いて地底を掘り進めながら進撃する地底戦車である。全長25メートル・全幅14メートル・全高12メートル・総重量180トンの百獣騎兵隊の陸上車両の中では重量級の一角を占めている。重水素核融合炉を推進用とジェネレーター用にそれぞれ二機づつ搭載しており主力武装はジェネレーター直結の機首レーザー砲と十二ミリ四連即ガトリング機銃と九連装水素ロケット岩砕ミサイルポッドである。装甲はミレジウム合金製でマントル付近の高温高圧力環境でも運用可能な堅牢さ誇っている。
そのモール=ディグにカビの胞子の浸食を防ぐための電磁バリアーを取り付ける作業が進められていた。
「調子はどうだい嬢ちゃん」
モール=ディグのコクピットに灰色のツナギ姿の大男が入ってきて真理に話しかけた。
この大男は土門寛一といってモール=ディグの車長を務めている。元々は防衛軍の東北支部の戦車隊で小隊長を務めていたがE.M.Cに車両運用の実績を評価され引き抜かれた人物である。隊歴五年の四十五歳でモール=ディグには二年半乗っている。
顔つきは四角く威厳がありレスラーの様なタフな体躯をしている。
「順調ですよ。あとはコンピューターのアップデートを終わらせるだけです」
モールディグのコクピットに備えられたコンピュータと接続されたノートパソコンの前でアグラを組んでいるツナギ姿の真理が言う。
「久しぶりの出撃で嬉しいが航空隊の貫通弾とかじゃなくても良いのか」
土門が尋ねる。
「貫通弾だと着弾前にカビに巻かれて無効化されるわ。核も同じくね。ナパーム弾とかも考えたんだけど地下に根が張りすぎて燃やし尽くせないわ。それに燃え尽きたとしても大量の根が脆くなって崩れたらあの一体が陥没してしまう可能性もあるのよ」
「そうなると春樹の能力も使い物にならないのか」
「ご明察。それでモール=ディグで地下にある本体を叩いて菌糸の機能を停止させようという訳よ。まぁ直接戦うのは私と理沙なんだけどね」
真理が言うとモール=ディグのコンピュータに電磁バリヤーの制御プログラムがアップロードされたのを知らせるビープー音がノートパソコンから鳴った。
「アップロード完了よ。この後のテストの時はお願いしますね」
「おう任しておけ。本番の時もバッチリ送り届けてやるからな」
土門はそう言うと力強く真理の肩を叩いた。そして真理は土門に向かってニンマリと笑って見せた。
ノートパソコンをかたつけて土門に軽く手を振りながら真理はモール=ディグのコクピットから出て行った。
モール=ディグの機体側面のハッチからデッキに出てくると整備ドックの通路を歩く黒いダブルのレザージャケットとパンツ姿の一久を真理は見つけた。百獣騎兵隊のオレンジや緑のツナギの操縦士やクスんだ白のツナギ姿の整備員の中で一久の出で立ちはモール=ディグのデッキからでも直ぐに見つけられるほど目立っていた。
真理は「カズ」とデッキから声を張って一久を呼びつけながら大きく手を振った。するとデッキから手を振る真理に気がついて一久は軽く手を振ってからモール=ディグに向かっていそいそと歩いていった。向かってくる一久を見て真理はデッキ横のタラップを降りていく。
真理がタラップを降りきるのと同時に一久はタラップの元へとたどり着いた。
「順調そうだな」
一久が言う。
「もちろん。誰がいじっていると思うのよ」
真理が不適な笑みを浮かべて言う。
「そりゃそうだ。さてと噂の地底戦車がいかほどか試してきますか」
一久はそう言ってタラップを登り初める。
「カズこれ」
真理は預かっていたライターをポケットから取り出すと一久に向かって放り投げた。
放られたライターを一久は右手でさらうようにつかみ取ると慣れた手つきで火を点けてから直ぐに消した。そしてライターをまじまじと見つめる。
ライターの金具には手入れが行き届いて新品同様の輝きが有りながら一久の手には馴染む度合いに調整されていた。
「ありがとうよ」
ライターを握った手を軽く挙げて一久が言う。
一久の仕草を見て真理はニンマりとした無邪気な笑みを浮かべて「またイジらせなさいよ」と言った。
その時の真理の声色は活気があって透き通っていて、一久には好ましくあり艶やかに聞こえていた。
一久がモール=ディグのコクピットに入ると操縦席には土門が座っていた。
「どうだい土門の父つぁん」
マニュアルを片手にモールディグの計器チェックを進めている土門に軽い口調で一久が訪ねた。
「なかなかなモンだぜ。シールドにジェネレーターのリソースがもっと食われるかと思ったが供給量が全く落ち込んでねぇ。むしろパワーアップしている」
土門が口角を緩やかに釣り上げながら言う。
土門の言葉を聞いて一久は真理が頼まれたこと以上のことをやったのだと思った。
「そりゃそうですよ。ライターのオイルを充填するだけで良いのに全部のパーツをピカピカに磨き上げないと気が済まない女ですからねアイツは」
一久は少しばかり色めき立った調子で土門に言った。
改造とテストを終えたモール=ディグは大型飛行艇のガレア=コルベットに積載された。ガレア=コルベットは全長35メートル、翼長13メートルの飛行艇で攻撃機と輸送機の機能を併せ持っている。機体後部の水素核融合炉心を四機搭載していて一機がジェネレーター用で残りの三機が推力をまかなっている。
モール=ディグを積んだガレア=コルベットは地下の格納庫からペイロードに乗せられて格納庫から続く通路を進んでバーチレーターへと移される。
江戸川の土手の斜面と河川敷が二つに分かれて隠されたハッチとスロープが姿を現してガレア=コルベットを乗せたペイロードが姿を現す。ペイロードはスロープを伝って江戸川の水面へとガレア=コルベットを運び出す。
発進位置にペイロードがつくとガレア=コルベットは機体下面のリフトジェットを吹かしてペイロードから離床して空中へと飛び上がった。
機体最後尾の核融合ジェットエンジンから噴射されるジェット気流に推されてガレア=コルベットは鼠色がかった曇り空へと飛び立っていった。
ガレア=コルベットのカーゴ内に繋留されているモール=ディグのすぐ横に春樹が専用の黒いバイクのスカイ=ロータスに跨がっている。
「久しぶりに大暴れできそうだな春樹。どこもかしくも壊し放題だぞ」
口元とセミロングの黒髪、以外を顔面から足先までを黒皮のベルトの拘束具に縛られたレディ=ゼロの姿が春樹の背後に現れて愉快そうに春樹に話しかける。
「そうでなければ囮の意味がないだろう。役柄に甘んじて暴れさせてもらおう」
春樹がレディ=ゼロに言う。
「それだけか春樹」
春樹の背中に覆い被さりながらレディ=ゼロが言う。
「分かっているんだろうレディ」
レディ=ゼロを横目に据えながら春樹が言う。
「出てくるクローンを全て地獄送りにするんだろう。大釜の蓋が閉まらなくなってしまうよ」
レディ=ゼロが嘲るように言う。
「閉まるかどうかなんて知らないよ。それに俺とレディにできるのは地獄に送ることだけだ」
春樹が言う。
「随分と熱が入っているね。カビ女に死霊をぶつけた時にホダされたな」
レディ=ゼロの声色が鋭くなる。
「春樹、忘れるなよ私たちは怨まれるような奴らを裁くが決して復讐の代行者ではないのだからな。今回は暴れまわるだけだ」
レディ=ゼロが言い含めるように春樹に言う。
「分かっているよレディ。俺は死神だ。誰に対しても平等に死を与えるだけだ」
春樹が噛みしめるように言うとレディ=ゼロは消えていった。
スカイ=ロータスの通信機から呼び出し音が鳴る。春樹はクラッチハンドル横の応答スイッチを押して無線通信に出た。
「千里隊長、着陸ポイントに到着します。先にスカイ=ロータスを出しますので準備をお願いします」
ガレア=コルベットの操縦士からの指示を受けると春樹は「了解」と返して通信を切った。そしてスカイ=ロータスのエンジンをかけてアクセルを吹かすとスカイ=ロータスのTDエンジンが甲高いエンジン音を奏でる。
ガレア=コルベットは東京駅の丸の内駅舎のロータリー広場に着陸した。ガレア=コルベットの側面のカーゴハッチが開くと「チェンジ、セイバー」と春樹の一声が響いて光沢のある黒い生体装甲に身を固めたクロム=セイバーを乗せたスカイ=ロータスが飛び出してロータリーを抜けて皇居の和田倉門に向かって丸の内を駆け抜けていく。
「土門さん発進許可きました」
モール=ディグのオペレーター席に座る理沙が言う。
「了解した。一久、1速前進だ」
コクピット中央の指揮官席に座る土門からの指示が飛ぶと操縦席に座る一久が変速機とクラッチのレバーを巧みに操る。そしてスロットルレバーをゆっくりと押し上げるとモール=ディグの新式の核融合エンジンが猛々しいうなりをあげて履帯を動かす動力モーターが重たい音を共鳴させてゆっくりと動き出してモール=ディグを前進させる。
ガレア=コルベットのカーゴハッチからモール=ディグは姿を現すと内堀通りを経由して日比谷公園へと入っていった。
「一久、機体仰角四十五度に設定」
「了解、機体仰角四十五度」
一久が操縦席のコンソールスイッチとダイヤルを操作するとモール=ディグの機体前部と後部の履帯に畳まれていたジャッキが延びてモール=ディグの機体先端の円錐型ドリルが地面に向くようにモールーディグが傾けられた。
「一久、掘削ドリルと後部ジェットエンジンを起動。これより地底進行に移る」
一久は土門からの指示に従って操縦席のコンソールに配置されたスイッチを操作するとモール=ディグの機体先端の掘削ドリルが回転を始めて機体後部の熱核融合エンジンのノズルからオレンジの目映い火柱と白煙が吹き出してモールディグに推力を加え始める。
「機首レーザー砲発射」
土門が指示すると火器管制席に座る竜崎が「了解」と返答してレーザー砲の発射スイッチに被されたセーフティーカバーを開けて照準機モニターに目をやって狙いを定めるとレーザー砲のスイッチを押した。
モール=ディグの機首のレーザー砲から青白いレーザー弾が断続的に照射されて地面を抉り取った。
「ジャッキロック解除。潜行開始」
土門の一声が響く。
「ジャッキロック解除」
一久が復唱しロック解除ボタンを押すとモール=ディグを支えていたジャッキが機体の自重によって折り畳まれた。その勢いのままモール=ディグの機首の掘削ドリルがレーザー砲によって抉られた穴に突き刺ささった。
支えを失ったモール=ディグの機体が大きく揺れると一久はロケット噴射のスロットルレバーを押し上げエンジンを吹かして推力を強くし操縦桿に添え付けられているドリルの回転制御レバーを軽く引いて地面の土にドリルを馴染ませる。するとモール=ディグの機体は次第に地面へと潜っていった。
「深度300メートルで水平軌道に修正しろ」
土門が指示を出す。
「了解」
一久が返答するとコンソールの自動操縦装置に土門から指示された内容を設定した。
モール=ディグは地中深く進んで深度300メートルに達するとカビ女の張った菌糸の中心核に向かって地底を進んでいった。
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