Ep7/刺客ーさそり男ー
東京は葛飾区・柴又の江戸川にほど近い一久や春樹たちの住処である千里亭に到着して屋敷に入るとバトラーの
壱八の案内で駿介は一久の部屋へと通された。気を失ったままの女はニ三がかついで真理の部屋へと運んでいった。
一久の部屋は縁側沿いにある九畳の和室で襖と格子戸で仕切られていた。部屋の中央に座卓が置かれている。戸棚にはバイクとカメラに関する書籍とモダンジャズのレコード盤が収められていた。
「相変わらずの趣味だな」
駿介がはにかみながら言った。
「まぁ座れよ」
一久が戸棚からレコード盤を取り出しながら駿介に促した。一久に言われるまま駿介と女は座った。
壱八が湯飲みに淹れたた緑茶と菓子を持ってきて座卓の上に置いて会釈をし部屋から出ていった。
一久は戸棚のレコードプレイヤーにレコード盤をのせて落ち着いたピアノを主体にしたブルーノートをかけた。
「かわったな」
向かいに座る一久を見て駿介がいう。
「何がさ」
「昔はもっとドライで猟奇的な奴だったよ」
「さすがに丸くもなるさ」
えくぼに深い笑みを浮かべて一久が言う。
「女か?」
「仲間だ」
一久の答えに駿介はあっけにとられた。かつては命を打ち捨てた危険なバイクの走りをしていた一久の印象が強く残っていた駿介には思いがけなかった。
格子戸をたたく音がして「失礼します」とニ三の声がする。
「どうしました」と一久が返事をすると、襲われた女が意識を取り戻した事を伝えに来ていたとニ三が言う。
一久は立ち上がって格子戸を開けるとニ三に女に聞き取りをする旨を伝えた。
「俺もついて行くぞ」
駿介が食い入る様に言う。
「お前は変わらないな」
駿介に向かって一久が笑みを浮かべて言う。駿介の惚れっぽくて一途な性格に変わりが無いのを垣間見て一久は嬉しかった。故に一久は駿介がついて来るのを許した。
女は一久の部屋から一つ挟んだ空き部屋に寝かされていた。一久と駿介が部屋に入ると布団の上で体を起こした女と女を問診しているショートカットのサッパリとした色気の女がいた。
問診をしている女は千里アリアといってE.C.Mの副長であり春樹の母親である。彼女は特殊な能力は持たないがオーラの扱いに関しては秀でている。これを利用して普段はセラピーや診療をしている。
「どうですか、おっかさん」
一久がアリアに訊ねた。アリアは春樹の母親なだけあってフラッカーズのメンバーからも母と呼ばれ慕われている。またアリアも春樹と共に戦う一久たちフラッカーズのメンバーを我が子・我が娘と思って親身に接していた。
「そうね。今さっき目を覚まして少し状況を説明したところよ。体調は良さそうだから軽い聴取なら良いでしょう」
アリアが女を見て言う。
アリアに言われて女の寝ころんでいる布団の横に一久と駿介は座り込んだ。女がおもむろに一久に顔を向けると一久は聴取を始めた。
女の名前は佐島綾といって文京区の城北大学の文学部にかよう学生であった。大学から調布市の自宅へ帰宅する途中で襲わたのだ。
「襲ってきた連中の姿は見ましたか」
一久が柔らかな口調で綾が緊張感を抱かない様に気を使いながら訊ねた。
「服装は黒っぽくて銀色ののっぺら坊の様なマスクをしていました」
銀色ののっぺら坊と聞いて一久は雑木林で戦った一団であると直感した。
「気を失っている時にうわ言でサソリと言っていましたが心当たりはありますか」
一久の口調が鋭くなる。
「あります。車の中にどこからか大きなサソリが入り込んできたのです。そのサソリの毒を浴びて高野さんがっ・・・・・・」
運転手が事切れた瞬間を思い出して声を上擦らせながら綾が顔を手で覆った。
綾のすすり泣く声が居間に小さく響く。
綾の泣き声を聞いて駿介はきまりが悪い顔つきをしていた。何事であれ女の悲嘆な泣き声は駿介には心地の良い響きでは無いのだ。
対して一久は鋭い目つきで綾を見据えていた。彼は銀色マスクの集団が先の蜘蛛や蝙蝠と同様の存在に指揮されていると確信していた。
「おっかさん、しばらく綾さんを預かれないか」
「部屋は空きがあるから構わないけど、大丈夫かしらね」
アリアが綾を見て言う。大学の帰りで運転手をつけて車で迎えに来てもらえるという状況から綾の家が名家であるのは明白である。アリアが疑念に思っていたのは綾の両親が見ず知らずの人間の家に娘を快く預けるかという事であった。
「あの、僕の家ではどうでしょうか」
おずおずと駿介が言い出した。
「僕の家は荻窪にあって彼女の家は調布ですから実家からの距離も近いですし部屋も余っているので・・・・・・」
緊張して縮こまるように駿介が言う。
一久は悩んだ。綾を匿うのに最適なのはE..M.Cの本部に直結している千里亭の他には無かった。しかし綾の精神状態や家族の心配を考えると駿介の提案も的確であった。
「わかった。シュンの家に預けよう。ただし俺も一緒だ。何か事があってすぐに対処できなくては意味がない」
駿介を見据えて一久は言った。無二の親友のまなざしを受けて駿介は深くうなずいた。
一久の判断もあって綾の身柄を駿介の自宅に預けるのは確定した。しかし綾の憔悴した様子から移動は後日ということになった。
次の日に一久は駿介の自宅を訪れていた。綾の護衛を務める為に下見に来ていたのだ。
駿介の自宅は荻窪の駅から歩いて十分ほどの住宅地に位置していて、庭とガレージのついた三階建ての一軒家であった。
「ずいぶんと立派だな」
駿介の自宅に入るやいなや一久は感嘆した。玄関は天井が吹き抜けで開放感があった。
「なに惚けているんだ」
吹き抜けの二階から駿介が顔をのぞかせている。
駿助に案内されて一久はリビングに通された。十畳はあるフローリングの居間にカウンターキッチンと黒いレザーの大きなソファーとガラス張りのテーブルが置かれていた。
リビングの広さやインテリアのセンスから一久は駿介が本当に世界的に成功を手にしたレーサーであるのが感じられてた。そして一久にはそのことが友人として誇りに思えた。そう思いながらリビングを見回していると見覚えのあるジュークボックスが一久の目に留まった。
「こいつは」
一久が色めきだちながらジュークボックスに歩み寄る。
「やっぱり目についたか」
駿介がはにかみながら一久に言う。
「おやっさんの所にあったやつか」
「そうだ。ビアンカにあったのを引き取ったんだ」
「懐かしいな。店がなくなって三年か」
「お前がいなくなってからすぐだったよ。土地の再開発で立ち退かされちまってな。形見分けみたいな格好で貰ったんだ」
ビアンカはかつて高円寺にあったカフェ&バーである。店主が無類のバイク好きで有名で夜な夜なバイク仲間が集まってはストリートレースをしていた。そこの期待のホープとされていたのが駿介であった。
「大人連中はだれも勝てなかったのに流れモンのお前がいきなり俺に勝ちやがった」
おもむろにジュークボックスを操作しながら駿介が言う。
「その時は悔しかった。絶対に負けないって思ってたからな」
「そんなにか?」
「お前だってそうだろう」
「いつも最後まで勝つか負けるかが分からなかった。だから焚きつけられた。絶対にちぎってやるって。悔しいよりも次が楽しみだった」
ジュークボックスからブラスの効いたスイングジャズが流れ始めた。
「お前まさか・・・・・・」
「あぁ、そうさ。ジィジィになって乗れなくなるまでとことん勝負したいからな」
頬に深いえくぼをたたえた親しみの感じられる笑みを浮かべて一久は言った。
「勝手に居なくなっておいてよく言うぜ」
駿介があきれた口調で言う。
「あの頃は気にまかせてさまよっていたからな」
「どこへ行ったのさ」
駿介がカップに淹れた紅茶を一久に差し出す。
「日本中さ。あの後に長く留まったのは長崎と仙台だな。仙台では学校に通っていたんだぜ」
「学校!?お前がか」
駿介が目を見開いて驚いた。駿介の知る一久は風来坊そのもので学校に通うとは到底信じられなかった。
「夜間だけどな。それから今つるんでいる連中と出会ったんだ」
マグカップを見つめて一久が言う。
「そうか」
「お前はどうなのさ。事故の後は」
「たまたま腕のいい外科医が拾ってくれてな前よりもいいパフォーマンスができる」
駿介は太股をはたいてみせた。その強気な仕草に一久はこころ強さを感じた。
その日の夕方に綾は一久に連れられて駿介の自宅へと移された。彼女は駿介の家にあがると礼儀正しく深く頭を下げて礼を言った。
綾の育ちの良さが伺える所作に一久と駿介は接し方に戸惑った。
「ひとまずメシにしよう」
一久の案で三人はそろって買い出しに出向き、夕食の支度をして同じ食卓を囲んだ。そうしているうちに各々が一つ二つと言葉を重ねていって夕食を食べ終わる頃には打ち解けていた。こと綾の硬直した表情に品の良い朗らかな微笑みが見られるようになったのは一久と駿介を安堵させた。
「しかし、お父様からお許しになるとは思いませんでした」
赤ワインの入ったグラスを片手に綾が言う。
部屋の明かりは電灯を落としてキャンドルの暖かな灯りが揺れるだけである。
「その点は得意とする仲間がいるのでね」
一久が柔らかな口調で言う。
「そういえば、綾さんのお父さんは何をなさっているのです」
駿介が訊ねる。
「今の与党幹事長代行だ」
一久が平然とした口振りで言うと駿介は飲んでいたバーボンを喉に詰まらせた。
「おい、本当か」
「冗談にしちゃ程度が低いだろう」
目を見開いて綾を見る駿介。
綾は駿介の驚きの目線に静かにうなずいて応えた。
「そりゃ無いぜ」
ソファの背もたれに大きくもたれながら駿介は呆れかえった口振りで言った。
「有るも無いも言ってられないぞ。言い出したのはお前だからな」
意地の悪い笑みを浮かべて一久が言う。
「そりゃそうだが、やるしかあるまい」
なにもかも観念したと言わんばかりの調子で駿介が答える。
「やはり迷惑でしょうか」
綾が俯きながら駿介に言う。
「いや、そんな事は無いよ」
泡を食った調子で駿介は答えた。
それから三人は団欒としながら酒を飲んで夜中の一時頃に切り上げた。
それから綾は風呂へと入り、一久と駿介は食器の方付けをしていた。
「惚れたのか」
おもむろに一久が駿介に訊ねた。
「あぁ、惚れた」
感慨深そうに駿介は答えた。
ダイニングの扉が開いてパジャマ姿の綾が湿った髪をタオルで撫でつける様に拭きながら現れた。
「お風呂ありがとうございます」
そう言って綾は会釈した。
「お湯加減はいかがでしたか」
ミルクがそそがれたグラスを駿介が綾に出した。
「ええ、丁度良かったです。大きなお風呂でビックリしました」
ニコニコとした屈託の無い無垢な笑みを浮かべて綾は答えた。
綾がミルクを飲み干すまで駿介と綾の会話は続いた。その二人の様子を一久はキッチンから静に見守っていた。
夜もすっかりふけて綾と駿介は床についた。寝室は二階にあって三人それぞれの部屋があった。静に眠る駿介・綾とは反対に一久は眠らずにいた。布団にくるまって寝たふりをして潜んでいた。
しばらくしてガチャリと玄関の戸が開く音がした。幾つものひたひたとした静かな足音が一久の耳に聞こえてきた。
(来たな)
布団からそっと出て一久は部屋の戸口に身を寄せて待ちかまえた。
階段を
いきなり飛び出してきた一久に覆面男が狼狽える。その隙をついて一久は男の一人の腹を殴って昏倒させる。続く二人がナイフを取り出すが一久が腰からレーザーガンを抜くのが早かった。レーザーが覆面男の頭を打ち抜く。
勢いよくバリィーンと窓ガラスの割れる音がする。綾の部屋をめがけて一久は廊下を大急ぎで駈ける。
「綾さんっ」
大声で綾の名前を呼びながら一久が綾の部屋に踏み込む。すでに部屋はもぬけの空で窓が外に向かって突き破られていた。窓の縁に駆け寄って外を見ると走り去るセダンのテールランプが一久には見えた。
「カズ何ごとだ」
あわてた様子で駿介がやってきた。
「すぐに俺の家に連絡しろ」
一久は駿介に言うと破られた窓から飛び出した。
「チェンジガンナー」
雄叫びに呼応してガンメタルの生体装甲を纏う戦闘形態のクロム=ガンナーへと一久は変身した。
クロム=ガンナーは勢いよく駈けだしてセダンを追いかけた。
煌びやかな光沢が特徴の生体装甲を身に纏うクロム戦士はフラッカーズの戦闘形態である。身体能力の増強と変身者各人のセルフイメージによって身体を変化させて生体装甲と武器を生成している。
クロム=ガンナーに変身した一久にとってセダンに追いつくのは簡単であった。しかし車内に捕らわれている綾を助け出すのは簡単ではない。
クロム=ガンナーの接近を察知したのかセダンのトランク部がスライドして開くと中からミサイルランチャーと機関銃がせり出してきた。
反射的にクロム=ガンナーは腕に備えられたアームレーザを向けたがレーザーを照射するのを躊躇った。ランチャーにレーザーを当てれば装填されているミサイルが爆発して確実に綾を巻き込んでしまう。それはなんとしても避けなければならない。
(惚れたのか?)
(あぁ、惚れた)
無二の友人・駿介の感慨深い表情と暖かな声がクロム=ガンナー・一久の脳裏にハッキリと再生された。友人を思うと何としても綾を救出しなければならないという想いにクロム=ガンナーは駆り立てられる。
クロム=ガンナーが逡巡しているとセダンからミサイルが発射されてきた。すぐさまアームレーザーをミサイルに照射させてクロム=ガンナーは迎撃した。レーザーを当てられたミサイルは爆散する。熱と爆風を伴う黒煙をクロム=ガンナーは突き進む。しかし、続けざまにニ射目と三射目のミサイルがクロム=ガンナーをめがて飛んできた。再びアームレーザーでクロム=ガンナーは迎撃した。
ミサイルを一つ爆破させるともう一つのミサイルにも誘爆して、さっきの倍の爆風に突っ込んだクロム=ガンナーは爆風に押されて中空に投げ飛ばされた。空中で無防備になったのを敵は見逃さずに機関銃で容赦のない銃撃を浴びせた。
銃撃による致命傷はうけなくとも反動による慣性まではクロム戦士の生体装甲では防げない。機関銃からの銃撃をうけて中空を無様に落下するクロム=ガンナー。そこに追い打ちのミサイルが飛来する。今度はレーザーの狙いが定められずにミサイルの爆発の直撃をうけた。クロム=ガンナーのガンメタルの体が乱回転しながら無様に中空を舞う。
前進で空を切って空気と慣性に揉まれる感覚はクロム=ガンナーには苦痛であった。しかし地面に到達するよりも前に何かに背中から衝突した。背面に鈍痛が走るとさっきまで乱回転していた体はぴったりと制止していた。それからゆっくりと仰向けになるのが感じられた。
クロム=ガンナーが起きあがると足下にはくすんだ銀色の鉄板があった。その鉄板は地上と空中を自在に駆け回る四輪自動車・アルファ=ポインターのルーフパネルであった。クロム=ガンナーは救援に差し向けられたアルファ・ポインターのルーフに空中で叩きつけられる格好で拾われたのだ。
乗れとクロム=ガンナーに言うようにしてアルファ=ポインターのシザーズドアが開く。クロム=ガンナーはアルファ・ポインターに乗り込んだ。
『良い様にあしらわれてるわねぇ』
アルファ=ポインターの通信機から意地の悪そうな口調の真理がした。
「いやはや、見事なキャッチでしたよ」
あしらうようにクロム=ガンナーが言う。
『テストで散々乗り回したから扱いは分かるでしょうから説明はしないわ。早くお嬢様を助けてやりなさい』
「言われなくとも!」
そう言ってコクピットの操縦桿をクロム=ガンナーほ握りしめて再びセダンを追走する。
月明かりが照らす夜空を銀色のマシン・アルファ=ポインターが駆け抜ける。
クロム=ガンナーは黒いセダンを見つけるとアルファ=ポインターを急降下させた。 アルファ=ポインターがセダンの後方につくと再びセダンのトランク部分に備えられたミサイルランチャーからミサイルが発射される。
ミサイルがアルファ=ポインターに命中して爆発する。しかし、爆煙の中からアルファ=ポインターは無傷で現れた。続けざまに機関銃とミサイルが打ち込まれるが全くの無傷である。アルファ=ポインターは姿勢ひとつ崩されずにセダンの後方の位置に張り付いていた。
やがてセダンからの攻撃が止んだ。セダンに内蔵されている弾薬が底を突いたのだ。これをチャンスと見たクロム=ガンナーはアルファ=ポインターをセダンの真横に降下させた。
地面が近づくとアルファ=ポインターの車輪が展開されリア部のジェットエンジンと冷却装置が収納されて地上走行モードに切り替わる。
セダンの窓が開いて車内の黒ずくめの男がレーザーガンでレーザーを照射してくるがアルファ=ポインターのボディーには焦げ跡ひとつ付ける事ができない。
クロム=ガンナーはステアリングを手荒く回してセダンに向かってアルファ=ポインターを体当たりさせた。さらにセダンの車体をガードレールに無理矢理押しつける。
セダンの車内は衝突の衝撃でもみくちゃになる。
クロム=ガンナーはハンドル位置を固定させてシザーズドアを跳ね上げる。そしてルーフへと飛び乗った。アームレーザを構えてセダンのルーフ越しに後部座席に控えている黒ずくめの男に狙いをつける。そしてクロム=ガンナーの腕部からレーザーが照射される。レーザーは一瞬でセダンのルーフと黒ずくめの男の頭を撃ち抜いた。続けて後部座席にいるもう一人と運転席・助手席に座っている男を同じ要領で始末した。それからアームレーザーの出力を調整してセダンのルーフを焼き切った。露わになったセダンの車内には気を失った綾の姿があった。
立て続けに車の中で気を失う災難にあったのを可哀想に思いながらクロム=ガンナーは綾を優しく抱き上げた。そして綾を抱えてアルファ=ポインターへと飛び移りる。
不意に殺気を感じてクロム=ガンナーはセダンの方を振り向いた。
セダンのルーフパネルに蠍が一匹乗っている。
クロム=ガンナーの脳裏に綾のうわ言が過った。
即座にアームレーザーを用いてクロム=ガンナーは蠍を焼き払う。
するとセダンのあちこちから無数の蠍が波のようにうねりながら溢れ出てきた。
クロム=ガンナーは綾をアルファ=ポインターのコクピットに乗せ、素早く駿介の家に向かうように自動操縦を設定した。
アルファ=ポインターのステアリングのロックが解除するとセダンが惰性で走行し始めた。車内の男達は泡になって消えた頃だろうとクロム=ガンナーは思った。
アルファ=ポインターが飛行モードに移行して蠍の群を振り落としながら夜空へと昇る。
クロム=ガンナーはアルファ=ポインターのルーフに立ちまじまじと地上を見つめている。
不意にクロム=ガンナーの背後から気味の悪い唸り声がする。その声のする方にはさっきの蠍の一匹がいた。その蠍はクロム=ガンナーに気づかれるとたちまち巨大化し人と蠍を掛け合わせた怪人へと変貌した。
「流石だ。クロム=ガンナー」
鋏になっている腕を構えて蠍怪人が言う。
「貴様が連中の指揮官か!」
「如何にも。私は先光舎の暗殺者・蠍男だ!」
蠍男は声をあらげてクロム=ガンナーに組かかった。
クロム=ガンナーはかかってくる蠍男と組み合う。狭いルーフパネルの上でクロム=ガンナーと蠍男ほ揉み合いになった。そして、クロム=ガンナーが蠍男を足払いにして体勢を崩し空中へと放り投げた。
落下する蠍男は両腕の鋏と頭のてっぺんから生えている蠍の尾をクロム=ガンナーに向かって伸ばした。クロム=ガンナーの首に尾が巻き付き鋏が体を捕らえる。そのまま蠍男はクロム=ガンナーを無理やりアルファ=ポインターから引き剥がした。
勢いそのままにクロム=ガンナーは空中に放り出された。
アルファ=ポインター目掛けて蠍男は腕を伸ばす。蠍男の鋏がアルファ=ポインターへと迫る。
「ショルダー=ランチャー」
クロム=ガンナーの左肩の装甲が展開してマイクロミサイルランチャーが現れる。
「スナイプアーム」
更に背中の装甲が外れてクロム=ガンナーの右腕に装着される。
クロム=ガンナーは肩に備えられた三発のミサイルを蠍男に向かって発射する。
ミサイルは蠍男に向かっていき爆発する。爆風に巻き込まれた蠍男は体勢を崩して空中を舞う。そして、在らぬ方向へと波打つことになった両腕の鋏にクロム=ガンナーは狙いをつけた。
右腕に装備されたスナイプアームにはアームレーザーの射程と威力を増す機能が備えられている。
クロム=ガンナーは鋏と腕の付け根を狙い撃ちにした。
蠍男は腕を焼ききられて苦悶し夜の町並みへと落ちていった。
クロム=ガンナーも後は落ちるのみである。しかし、このまま地面に叩きつけられればクロム=ガンナーであっても大事である。然るべき姿勢をとって加速を緩める他に術はないのだが不十分である。
『おい、そのまま落ちる気か?』
クロム=ガンナーの真下に空飛ぶバイク・スカイ=ロータスとそれに跨がる黒い生体装甲を身に纏ったクロム=セイバーの姿があった。
『落ちねぇよ』
クロム=ガンナーが言い返す。そして、スカイ=ロータスの後ろに乗り移った。
『助かったぜ』
クロム=ガンナーが言う。
『何が?』
クロム=セイバーが聞き返す。
『色々さ』
仲間に生かされているのを噛み締めるようにしてクロム=ガンナーは言った。
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