人間

 僕は思わず駆け寄って、声をかける。


「お前……」


 どうしてだろう。顔は覚えている。なのに、名前が出てこない。間違いなく、親友だったはずなのに。


 彼は僕を見ると、目を一際大きくして言う。


「見える……」


 それは僕も同じだった。全てが骸骨の世界で、どうして彼だけがのか。


「久しぶり……だな」


 照れ臭かった。つい最近まで一緒にいたような気がしていたのに、長く会っていないような、それこそ数年経っているかのような気さえした。


「俺らはたしか、遊びに行ったんだよな?」


 確認するように尋ねる親友。

 そうだ。遊びに行った。いや、過去形は間違っているか。正確には遊びに行ってはいない。

 遊びに行く途中で……たしか途中で……。


「もう一回、行くか。遊びに」


 そう言った親友の言葉に、僕は無意識に頷いていた。




 記憶の中の駅と目的地である遊園地は、変わらない場所にあるようだった。


 見慣れた、というより、寂れた改札を通って二人で電車に乗った。


 まるであの頃のように肩を並べて座っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る