第5話 奥さん

すっかり日が暮れてしまい、流石に疲れてきたセレナは、天界に電話をかけた。

「もしもし。あ、上司。そろそろ帰りたいんですけど、どうしたら帰れますか?」

「え⁉︎いや、どうせならもっと撮ってってよ。まだ2日しか経ってないじゃないか。そうだなぁ、1ヶ月ぐらいその世界にいて」

「えぇ⁉︎ちょっと、今森の中なんですよ!このままじゃ食べられちゃいます!」

「お前死神だし大丈夫だろ」

「そういう問題じゃなくて」

「ああもう!しょうがないなぁ」

「あ、帰してくれるんですか?」

「そのポーチの中に結構デカいテントがあるから、そんなかで過ごせ」

「帰してくれないんかい!!!!!!あのですねぇ!女性をこんな森の奥深くに放置するなんて、最低ですよ!!!!!!」

「なんとでも言うがいいさ。それに、これ出張だし。だから途中で引き返したら、給料でないかもよ。あと今の時代、女性男性関係ない!!!!!!」

「はぁい、わかりましたよ」

セレナはポーチの中を漁ってみると、確かに結構デカいテントがあった。

しかも、中はかなり広く、トイレ・浴室付きの個室が4部屋もあったのだ。小さな冷蔵庫やベッドまである。

「けどテレビない…」

「この世界テレビ放送やってないから当たり前だろ」

「ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎Nステ見たいのに〜」

「残念した。……あ、そうだ。電話越しに聴け」

スマホからNステのオープニング曲が流れてきた。しかし、あまり聞こえない。なぜなら変な音が聴こえるからだ。

「………なんの音ですかこれ?」

よく聴いてみると、なんと上司の咀嚼音だったのだ。

「上司、あのう、もうちょい静かにしてくれませんか?」

「え?何がぁ?」

「その……噛む音ですよ噛む音」

咀嚼音そしゃくおん?」

「それですよ、しょしゃくおん」

「ブッッッッ、しょしゃくおん⁉︎もしかしてお前咀嚼音って言えないの??????笑笑」

「バカにしないでください。私ほどの死神になればしょしゃくおんなんて言えますよ」

「ハッハッハッハ、これはいい話のネタだ!明日部下たちに言ってくる」

「え⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎やめてくださいよ⁉︎しょしゃくおんが言えないだけで、ってかしょしゃくおんなんて言える人いるんですか?」

「流石にいるわ!!!!!!笑笑。ハァ、めっちゃ笑った」

「ちょっと!女の声が聞こえるけど、誰だいそいつは!!!!!!」

突然女性の怒鳴り声が聞こえた。どうやら上司の奥さんらしい。

「いやぁ、こいつは、俺の部下d」

「あん?まさか不倫なんてしてないよねぇ⁉︎」

「落ち着いてください!私はあなたの旦那様の部下ですよ!ほんとですって」

あんだけ大音量のNステも、奥さんの怒鳴り声で全く聞こえなくなった。

「離婚するかァァァ??????」

「しませんってしません!!!!!!」

独身であるセレナも流石に呆れたようだ。

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