2日目 苗木

桜の木の下。

昨日はいろいろありすぎて疲れてしまったのだろう。

『まだ起きないの?』

昨日の夜、彼女に言われた言葉だ。

…いや、はっきり言って夜かどうかは分からない。

何せ周りはこの桜以外真っ暗だ。

太陽も月もない。

まあ、眠くなったのだから夜としておこう。

昨日はあの後この言葉について考えていたが寝落ちしたらしい。

「結局なんなんだろうな。起きないのって俺は今起きたし。それに…」

そこで俺は昨日彼女から渡された本をめくる。

表紙には昨日と同じくこの桜の木が載っている。

そして一ページ目には

『大切なことに気がついた時、花は散り、この地と別れを告げる』

と書いてあった。

これが何かのヒントなのだろう。

俺が『起きる』ための。

そのページを見ていて気づいた。

「あれ?昨日はもっとページ数あったよな」

そう。この本はもともと彼女のものだ。そして彼女が読んでいた時にはもっと厚みがあった。

しかし、今はどうだ?

たったの2ページしかない。

「どういうことだ?」

そこで俺はあることを思い出した。

「そういえば、あいつはこれを読めないって言ってたっけか」

そこで当たり前の疑問が浮かんだ。

「なんでこれ読んでたんだろう?」

そして

「あと、あいつ誰だ?」

という疑問も持った。

今日は彼女はいない。

どうやら毎日ここにいる訳でもないらしい。

だが、どうにも話し相手がいないと手持ち無沙汰だ。

そこで

「そうだ!少し遠く行ってみるか」

という考えが浮かんだ。

しかしそれと同時に謎の怖さを感じた。

「……この桜が見える範囲だけにしよう」

そして俺は歩き出した。

……が、少し遠くに行くと不思議なことが起こった。

「…あれ?なんで桜の木があるんだ」

そう。目の前に桜の木があったのだ。

後ろを見ると真っ暗闇が広がっている。

「やっぱ、やめとこ」

怖くなった俺は、大人しく桜の木に寄りかかって座った。

「そうだ、2ページ目読んでない」

忘れかけていたが、この本は1番の手がかりだろう。

読まなくては何も分からない。

そして2ページ目をめくるとそこには


この桜の木とおそらく桜の木の苗木、そして、

二人の子供が描かれていた。

1人は寝ている女の子、もうひとりはその子の傍で泣いている男の子だ。

そして、

『別れを告げられ、忘れ去られることを恐れた。忘れ去ることを恐れた。だから、自分をめた』

そう書かれていた。

「なんか昨日より分からなくなったな…」

俺はまだこの本について、そして彼女について知る必要があると思った。

そしてその時感じた少しの違和感は、気のせいだと思う事にした。



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