起きて

夜桜

1日目 おはよう?

「ん…」

僕は全く知らないところで目を覚ました。

意識がはっきりとしないまま場所を確認すると、僕の上には満開の桜が広がっていた。

そう。僕は桜の木の下で起きたのだ。

しかし、起きる前の事が何一つ思い出せない。

ふと周りを見渡すと、1冊の絵本を持った少女がいた。

「えぇっと、こんにちは?かな」

「ねぇ」

「な、なに?」

「まだ起きないの?」

「え?」

どういうことだろうか。

僕はいま起きたばかりだ。

なんならなぜここにいるのかすらわかっていない。

夢なら覚めて欲しいものだ。

「ねえ、君はここがどこなのか知ってるの?」

「…それは貴方が一番よく知っているはずよ」

「そう言われてもなぁ」

「何も分からないの?」

「うん」

「…ねえ、この本、あなたは読むことが出来る?」

そう言われて渡された本の表紙には、今後ろにそびえ立っている桜の木が描かれており、『木』というタイトルが書かれていた。

「えっと、『大切なことに気がついた時、花は散り、この地と別れを告げる』って書いてあるけど…」

「そう」

「これがどうかしたの?」

「私は読むことが出来ないから」

「え?」

どういうことなのだろう。

これだけならほとんどの人が読めるだろう。

なぜ彼女は読むことができないのだろうか?

「それはね、貴方が作り出したもの」

「は?」

「今日は疲れちゃった。また明日ね。でも出来れば明日が来ないようにしてね。そうじゃないと辛い思いがもっと強くなっちゃうから」

「ちょっと待って!」

そう言い残した彼女は絵本を俺から返してもらわないままどこかに行ってしまった。

まるで元々いなかったかのように暗闇に消えていった。

「『まだ起きないの』ってどういうことなんだろう」

この暗闇の中に唯一ある桜の木の下で僕は考えていた。

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