僕はいろいろ知らなかった。

 教室は閑散としていた。


 四人だけ僕より早い。


 そりゃそうか。大分と早いし。



 しかし、さっきの子は可哀想だった。聞いていて痛々しいし、何より須藤が魅了で僕から奪ったとしたら、僕も直接的か間接的か…いや直接か。


 何か悪いことをしたと…駄目だ、記憶にないから罪悪感が薄い。


 何て言えば良いんだ…


 そうだ。単純に僕は彼女を助けてあげたいんだ。


 後で大島さんに聞こう。



 「おはよう、立花君」


 「ああ、おはよう、足立さん……何…?」



 僕より早い四人のうちの一人、黒髪ショートのメカクレ女子、足立さん。去年も同クラだったけど、話したことは数回程度。全体的に小柄で色白。唇サイズに合わせたかのように声も小さく、可愛らしい。


 佐野君に好意が生えた女子で、僕への好感度は035だったはず。だけど怖くて見れない。メカクレで表情は見えない。何を考えてるのかもわからない。そしてなぜか黙ったまま僕の座る席から立ち去らない。



「目…どうかしたの?」


「あ、ああ、ちょっとね…」



 ああ、閉じた目が気になったのか。どうもこうも数字が見えるから大変なんだよ。ずっと閉じるのは休憩挟みながらなら割と何時間でも大丈夫だけど、全然開けてないのも変か。


 まだ人少ないから良いか。



「ちょっと目が乾いててさ……というか…なんでもない」



 この人、矢印4つ生えてんだけど…そして何か僕にも突き刺さってんだけど…今は消費税くらいだけど上がり続けるのはどちらも勘弁したい。


 あと三つは…最初からいる西本君と…後はいない。一つは佐野君だろうけど…


 何か西本君とお互いに突き刺さった矢印間の数字、ハートマークで囲われてる?



「? そうなの…? …立花君って、彼女いる?」


「?…いや、いないけど…」


「ふぅん…?」



 なぜに急にそんなことを?


 なぜに舌をペロリとしたし。


 なぜに数字上がるし。



「最近、Aの大島と仲良いって聞くけど、仲良し…してるの?」



 仲良し…? 何か変な言い回しだ。



「まあ、いろいろと相談に乗ってもらってて。まあ、仲良くはしてるよ」


「ふうん…」



 …なぜまた数字が上がるんだ…あ、もしかしてこんな程度の会話も駄目とか? いや、足立さんのことじゃないから違うと思うけど…ふいに視線を感じ、発生源の西本君を見る。


 なぜに西本君の数字下がるし。


 めちゃくちゃ下がるし。


 嫉妬だろうか。



「足立さんは西本くんと…いや、何でもない」



 あっぶない。付き合ってるのか聞きかけた。これは多分聞いちゃ駄目なやつだ。


 ふと見上げた目元の見えない足立さんは口元に指を添えて聞いてくる。



「…気になる?」


「気になるはなるというか…あ、いや、そういう意味じゃないんだけど…いや、何でもない」



 ほんと迂闊に話せない。


 足立さんと西本君とのハートマーク数字に変化はない。けど、好感度だろう頭の上の数字は足立さんアゲの西本君サゲだ。足立さんはともかく、西本君はなんかショックだな…席替え前は他愛のない会話を楽しんでいたと思うんだけど…


 しかし、世界はこんなにも恋とか愛とかに溢れているのか…知らなかった。


 それにしてもハートマーク数字はなんだろうか…もう追加謎は要らないんだけど。


 またごめんになるけど、大島さんに聞こう。



「…強がっちゃって」


「……」



 足立さんはそう言って席に戻っていった。もちろん僕は強がってなどいない。目が隠れているから本当のところはわからないけど、どこか楽しそうだった。


 …謎だ。





「立花くーん。ちょーっといいかな?」


「…早川さん…何…?」



 昼は学食にしようと向かっていたら早川さんに呼び止められた。


 正直絡みたくないしご飯食べたい。



「お昼食堂なんだ。早川さんは?」



 早川さんは手にお弁当持ってるし、こういえば諦めてくれるだろう。それに今日の僕には本当にお弁当がない。朝早すぎたのもあるが妹の調子が良くなかった。というか動作も謎だった。


 頭を壁に打ち付けていて、加里華が止めていた。そこまでしてお弁当を作りたかったのかと僕は半ば呆れていた。


 兄離れはしてくれるのだろうか。


 いや、お世話厨か。



「わたしはお弁当だよ。一緒しよ?」


「……」



 どうやら無理っぽい。


 満面の笑みと020の数字が合ってない。


 女子怖い。



「あー、いつものメンバーは?」



 確か同じ吹奏楽部の子といつもお昼は食べていたはず。



「は? ハブられてますけど、何か?」


「なんかごめん…」



 そうだ。昨日の暴露で焼かれたんだった。そのチャッカマンは僕だ。


 断り…辛いな。



「なら、行こうか…」


「うん!」



 罪悪感がすごいし、圧もすごい。笑顔は可愛くとも数字は020。


 女子怖い。


 でもなぜあんなにややこしいことをしてたんだろうか。





 学食は混んでいて、僕は惣菜パンだけなんとか手に入れた。それから中庭に出て、空いていたベンチに座った。



「佐野君には悪いと思ってたよ」


「そ、そうなんだ」



 早速佐野君の件だ。


 これは懺悔だろうか。もしかして火消しの根回しだろうか。


 犯人僕なんだけど…


 懺悔したいけど、魔眼なんて言えない。


 

「というか、吉木くんって優しいじゃない? 誰にでも。こう、強引に奪ってくるなんて普通はしないでしょ? だからわかるでしょ?」


「全然わかんないんだけど」



 なぜそれで他の男子と付き合うのか全然繋がらないんだけど。


 あと吉木くん、最初僕には厳しかったんだけど。



「でもわたしのこと好きだから利用してくれって佐野君言うしさぁ。仕方なくだったんだよ…」


「そうなんだ」



 なんだ、ウィンウィンだったのか。


 それはめっちゃ遠い目するか。


 僕も遠い目したい。


 あ、お弁当美味しそう。



「どこで間違えたのかな…吉木くん…」


「……」



 最初っからだと思うけど…


 僕もだけど。


 ノーウェイって言いたい。


 けど駄目だ。地雷原を歩きたくない。


 早川さんはクラストップ5に入る可愛い子だ。清楚で家庭的で面倒見もいい。誰に対しても穏やか。少しボディタッチが多くて勘違いしそうとはクラス男子の共通認識、だった。


 そんな子があんなに取り乱してしまうなんて、やっぱりありえない。魔眼のせいだろうか。いや、出来ればせいにしたい。


 つまり僕のせいか。


 すみません。



「そもそも何でそんな案を思いついたの?」


「…? 知らないの? ああ、立花君だし相談も何もないか…あ、同情とか逆に失礼だと思ってるから。わたしは何とも思ってないからね!」



 多分…元カノのことなんだろうな。早川さんって結構作らない方が可愛いと思うけど、本人的には嫌なんだろうか。というか僕の好みの方がマイノリティか。


 けど、こういう会話すら出来ない。



「ああ、僕もその方が嬉しいよ。ちなみに知らないって何?」


「…恋愛のことはボランティア部。そこで占ってもらうの。落陽高校女子の共通認識よ」



「なんですと?」



 なんですと? 


 これ大島さんのせいだったのか…



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