湯原有紀はたたたすけたい。
暗い部屋の隅っこに座っていた。
自分でもわからないことを呟いていた。
クズとのパスが切れた瞬間、滞っていた血液が勢いよく流れ出るかのように、モヤが晴れた。
まだまだわたしの言葉は滞ってるけど、お守りを握ればそんなものは関係なくなった。
レナぴょんから貰ったお守りは、多分相当な効果がある。
だからわたしはお家を飛び出した。
キヨパルがあの日連れ出してくれたように。
その時の手のぬくもりを思い出しながら。
「キ、キ、キヨ、キヨパル、ま、まま待っててね」
学校じゃなく、ニナぱいのマンションに向かうと、疲れ果てたレナぴょんがいた。
けど、どうも要領を得ない。
何言ってるかわかんない。
わかったのは、拷問器具を用意したレナぴょんの準備が無駄だったってこと。
須藤、あのクズがパス切れに驚いて、来る前にヘタレて帰ってしまったこと。
ならわたしはわたしで、しなきゃいけないことをする。
まずはPC内ののデータを全て消すこと。
カメラをぶっ潰すこと。
クズの私物を燃やすこと。
そしていかにクズを煽り、このマンションに来させるかということ。
そしてクズを殺し、キヨパルに逢って土下座して、愛の奴隷になること。
数年は会えないけど、仕方ない。
ミライはアカルイ家族の計画。
そんなミライにレナぴょんは過去を振り翳そうとしてくる。
意味わかんない。
「…有紀…さっきも言ったけど…聞いて欲しいの」
過去は思い出したくない。無視無視。
無視して、学校裏掲示板にアクセスする。
ここはあのクズを周りから擁護するためにふみパンが作って、えこピーが広めて、あんアンとわたしが管理しているクズのプロパガンダ。
そこを逆流させる。
「…キ、キヨパルのた、め、だもん。まだまだ須藤、下、げい、く、はー、はー、ま、まま待ってて…あ、あっ、あい、つは、じ自分から、連絡しない、そ、そそんなクズ、あ、あ炙り出さないと…カカカキカキする…! で、でしょ…レ、レ、レナぴょん…?」
横目で見れば、レナぴょんは悲痛な顔だ。せっかくパスが切れたのに…?
『───悲しい顔はしなくていいんだ。有紀が好きだからさ。僕に見せてよ。よく晴れた空の下でさ。可愛いらしいその笑顔を───』
そう言ってくれたキヨパル。わかったよ。悲しい顔は嫌だよね。
「有紀! 聞いて! お願いよ…!」
「……わ、わか、った。き、聞く。で、でも、な、ななんで、レ、レ、レナぴょんは、そそ、そんな、ローテ、テンションなの…?」
「…パスが……切れたからよ」
「…あ、あ"…?」
「有紀、違う。違うわ…あのクズと繋がりたいんじゃない…聞いて欲しいの。多分、立花君…須藤の悪魔じゃない、何か別のものが憑いてる」
「オ、オッ、オカルト? あは。は、レ、レ、レナぴょんがそ、そんなこと言うなんて………テテテキトーだだったらこここ殺すよ…?」
「もうどっぷりオカルトじゃない。私……わかったの。多分…立花君と好きを交換したら…結ばれない呪いに…みんなかかってる」
「あっ、あっは。レ、レ、レナぴょん、し、死にたいの…?」
何を言うかと思ったら…別の世界線の話か…面白くない。殺意しかわかない。
「……おかしくなかった? あの犯される時のこと」
えぐるのか、こ、こい、こいつ。殺意しかわかない。
「……あ、あ、は、や、やだな、レ、レ、レナぴょん、わ、わ、わたしはしょ、しょ、処女だよ…? き、き、キヨパルとややさしくこっ、こっ、ここ交換するの…あは、はぉ…おぇッ、ぇぇ…まま待っててね…」
「つらいと思うけどよく思い出して! 大事な事なのよ! 須藤に操られた時…犯される時…須藤とは別の何かが、有紀を正気に戻さなかった?」
別の…何か…?
違う…あれはわたしの愛だ…!
愛で正気に戻ったんだ…!
「…あああのあの悪魔の、せせ洗脳を、とと解いたのは、わわ、わ、わたしだよ…?」
「だとしたらおかしいと思わない…? おかしいじゃない…記憶を最初…初めての時に戻すのよ! 毎回毎回! 全員よ! クズが言ってたでしょう? こいつら飽きないなって! あれは須藤の悪魔じゃない! ましてや、あなた達7人の愛じゃない…!」
「ち、ちっ、違う、違う、わ、わたしの、キ、キヨパルへのおお思いが、あ、あの日に、ううばわれた、ひ、ひ日に、もど、戻すの…!」
「聞いて。みんなそう思ってる。必死で抵抗したからだって。愛だって。でも思い込まされてる…!」
思い込みじゃない。そんな奴いない。
「つ、つ、つまり、だ、誰かのええ演出で、ク、ククズの、しし仕業じゃないってこと…? わ、わ、わたしのあ、あ、愛を、ひ、ひ否定するの…? し、しし死にたいのかな…? な、なら、レ、レ、レナぴょんは…?」
「…私は…何も抵抗出来なかったの…全員じゃなくて、私以外の全員…」
「……え、え、えーと、えーと、あ、あ、そ、それはつ、つまりあ、あ愛がた、足りないんじゃない…?」
「違うの。聞いて。私は喜んでたの。須藤とのセックスを。わたしだけが」
「はあ…?… キキ、モキモ」
「私は7人と違って、不思議だった」
「ふ、ふ、不思議…?」
「私だけが……本当に魅了されていた。その事を思い出すと吐き気するけど…、けど、そうじゃないッ! そうじゃなくてッ! みんなを観察してたからわかったのッ!」
「な、な、何を、いい、言って…?」
「嫌がってるのに、必死なのに、みんな、私以外全員よ…? 心臓から左手を絶対離さないの…服でも…裸でも…! だからクズをいつも押し返せない…!」
心臓…?
心臓、心臓、し、んぞう…?
「…? ぁ…うぅあがっ、えッ、ぇッ」
何か…何か思い出せそうで、思い出せない。でも…胸の痛みは…確かにある…これは悲恋…?
「あの悪魔は…一度も…あの時に顔を出さないのよ…? わかるでしょ? 知ってるでしょ? あの時、クズのパスを感じた? 悪魔はいた? 何か他の…別の意思に分断されて…意識を起されなかった…?」
分断…キヨパルと…白い…手…が心臓に…触れ…ああ、だから…守るために…わたしは…ああ! 消えた…消えた…何か…何かに、誰かに心臓を握られたから、正気になっていた…?
駄目だ…吐く。
「べ、べ、つの…ぉえッ、ぇげ、な、な何か…? を、レ、レ、レナぴょんは、ささ探して…? ぅぷっ、ぅえっ、ぇっく…!」
「もうパスが切れたから…検証できないけど…あいつを壊せば…何かわかったのかもしれない…のに…くそがッ! くそくそッ! 引きこもりやがって! 生贄のくせに…!」
「はーっ、はーっ、レ、レ、レナぴょん…?」
「私にはあなた達のその現象こそが愛に思える…! 胸を痛めてるのはもちろんわかってる…悲恋に抗っているのだと思ってる……! だから有紀…私に協力して欲しい」
「な、なな何を…?」
「立花君は…多分誰かに何かをされている…その誰かを……私は見つけて殺してやりたい…! あの悪魔もッ! そして…立花君を私が助ける…有紀は…助けたい…?」
正確にはレナぴょんが何言ってるかきちんとわかんない。
けど、確かにクズに襲われて…正気の時は、みんな心臓を守ってる…偶然…7人も…? そういえば、あの殺意満々のふみパンさえもだ…
いや、それよりも。
「キ、ヨ、パルを、たたた、す、けた、い…!」
そんなことは当たり前で、今度はわたしの番なんだ。
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