僕の生活がやばい。

「楽。超楽。怖い…これ怖すぎる」



 朝学校に着くまでだけど何コレ軽やか。自転車、楽。駅の階段、楽。人避けるの、楽。満員電車、苦じゃ無い。学校への道のり、超楽勝すぎる。


 もしかしなくてもこれはやっぱり。



「麻薬なんじゃ…いや、コレ絶対麻薬だろ、こんなの」



 頭の中がスッキリして風景がスローモーションのように見える。空気が生温い。背中に羽根生えたような。疲れを感じない身体。何より朝おかわりしたのに、お腹めっちゃ空く。


 これやばくない? 捕まる感じ?



「だとしたら…コカインか……?」



 通学途中、麻薬について調べてみた。したことなんて、もちろんないけど。あの時のお香か? いや、そんなに長く効くわけないか。でもこの体調の良さと、冴え渡る感覚。


 本当になんなんだろ。


 捕まりたくないな。


 大島さんに聞くか。


 一緒に捕まろう。



「清春。おはよう」


「ああ、須藤おはよぅ……ってどうした! 何かあったのか!?」



 須藤がなんかヘロヘロだ! いつも背中がしゃんとしてるのに。目の下にはクマもある。オーラも見えない。今日はイケてないぞ! 須藤!



「うるせぇ…!…何もねーよ。ちょっと体調悪いだけだ。てか何か…知ってんのか?」


「? 何か…? いや、目の下にクマ出来て…背中も丸まってて…ああ、隣は…小テストか。相変わらず熱心だな」



「ッ…! …まあな。学年一位は誰にも譲んねーよ。清春も…まあ頑張れよ。ふはっ…」



 なんだ、やっぱりテスト勉強だったのか。麻薬なんて調べてたからヘロインの禁断症状かと思ったよ。焦った焦った。でもおかしいな? いつも余裕浮かべてるのに。



「ああ。でも僕は須藤みたいにはなれないからさ。ぼちぼちやるよ」


「そっか…ところでよ…玲奈…お前のクラスだろ? なんか聞いてないか?」



 玲奈? ああ、あれ? ……誰だっけ? ああ、怜堂さんか。怜堂玲奈れいどう れなさんだ。



「いや? そういえば、昨日は学校来てないんじゃなかったっけ。あんまり人の彼女見るのも知るのもどうかと思ってさ。あんまり知らないんだ。ごめん」


「ふ、いや…そうか…お前ならそうするか。なら良いんだ。早くお前も彼女作れよな。楽しいぜエロくてよぉ」


「そうだね」


「…? そういえば大島と仲良くしてないのか?」



「…仲良くか…あんまりわかんないな。まあ環境美化の委員会で一緒になることはあるね」


「そうか…今回は…違うのか…いや、すまんこっちの話だ。じゃあな」



 こうやってたまに独り言を呟くよな、須藤って。頭良い人特有の特徴かなっていつも思ってたけど、これだけ体調がいつもと違うと、意識混濁者っぽいな。


 本当に大丈夫か、須藤。



「ああ、本当体調気をつけなよ!」


「…ああ! サンキュー! ……くそっ、なんだってんだ、いったい…頭が重い…足が怠いぞ…インフルエンザか?」



 なんか、ぶつくさ言ってるけど、本当に大丈夫か? もしかしてインフルエンザとか? 


 気をつけろよ、須藤。頑張れ。


 しかし、なんで須藤は僕に聞いてきたんだろうか。


 怜堂さんのことを。


 話したことなんて、ないのにな。



「変な、須藤だな。やっぱりインフルか」

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