立花くんとヤバァい人。
ヤバい。立花はその言葉を聞き、先程のシャイ発言と合わせて勘違いをした。大島さんも須藤かと。
「それは、イケてるって意味であってるよね? でもあんまり力になれないかも」
お世話になったし、協力はしたいが、そっち方面はした事がない。というか、取られてばかりだ。それに彼の彼女は大輝ガールズしか見たことがない。
楽しかったけど、また同じような目に遭うのもごめんだ。漠然とした不安が過ぎる。仕方ないが、今後近づくのはやめよう。立花はそう思った。
すると理森は焦りながらとんでもないことを口にした。
「ち、違うわよ! 逆よ、逆! 勘違いしないで! ……彼、魔眼持ちよ。それもヤバいやつ。魅了系だと思う」
「突然の異世界観とか勘違いのままで居たいんだけど…でもそれってやっぱりイケてるって意味であってるよね?」
さっきまでの居心地の悪さが無くなり、ホッと一息ついた立花。
そこに魔眼ときた。
随分と遠回しな、私彼の事好きになったの…にしか聞こえない。だって彼が魅了なんて使うから私…にしか聞こえない。
立花はまだ頭が回ってなかった。
「な訳ないでしょう! だから逆よ、逆! 彼、性格もかなりヤバいわね。以前から思ってたけど、立花くん。あなたも大分おかしいわ」
「驚きのダブルディスに心と奥歯ガクガクなんだけど…」
理森は止まらない。先程までの沈黙がまるで嘘のようにスラスラと話し出す。
「でも理由がわかったわ。立花くんの元カノ達も玲奈も変だと思ってたのよ。いくら好きになっても今までの関係やら常識が消えるわけないもの。まさかこの時代に現れるなんて…こんな町であんなの見るなんて…ああ…完全に予想外だわ。しかも育ってる」
「あ、まだ続けるんだ」
理森は右手親指の綺麗な桜色の爪を噛みながら真剣な顔をしていた。少し太めだが、形の良い眉も歪ませている。
なかなか照れ隠しの仕方が凝ってるな…
やるな、大島さん。
その様子を見た立花はそのままその話に乗ることにした。
「それにさっきので確信したわ。条件がないと発動できないタイプね」
「ほう」
立花は腕を組み、足を組み、ベンチに背中を預けた。そのまま相槌を打つ。
「さっき立花くんと須藤くんが揃った時…いえ、何でもないわ。とにかくわかったの」
「引っ張るな…あ。…ではいったい何が条件だと君は言うのかね?」
立花はよくある週間漫画の伏線っぽいなとつい口にしてしまった。ちゃんと理森に合わせないと。そう思って続きを促した。
「その条件は…」
「…その条件は……?」
「立花くんに恋をすること」
「な、なんだってぇ……恋? はは。友達の子って偽カノじゃなかったっけ? しっかりしてよ」
そのまま乗っかっていたが、ついツッコんでしまった。そんな設定ガバガバだと乗れるものも乗れない。しかも恋だと言う。馬鹿馬鹿しい。いつもだったら軽く流す立花だが、心を鬼にして理森の設定の穴をまずは突いた。
「…ごめんなさい。あの子…玲奈が絶対大丈夫って言うから。一年の時から立花くんの事好きだから万が一でも有り得ないって…」
「…違うの違うのはある意味正しかったのか。しかし…それ聞きたくなかったな」
聞かなければ良かった。立花は本当にそう思った。やはり矛盾を突くと碌なことにならない。
4番目に付き合った子もよくわからない矛盾を口にしていた。
『心はきーくん。身体はご主人様。安心して見ていて』
彼氏は立花で、ご主人様が須藤だと言っていて、かなりキツかった。
もう恋なんてしない。彼女なんかいらない。いつも思うが、付き合ってしまう。はいかイエスしか選択肢がない。
「…ほんとごめんなさい…でもそうとわかれば対処方法は簡単よ。目をどうにかすれば良いのよ」
「……つぶせと?」
理森はいつの間にか自分の左の手のひらに、何度も右手でリズム良くパンチしながら話していた。立花には眼球を徐々に潰すという比喩にしか見えなかった。
「違う違う! 怖いよ! 封印、もしくは強奪ね」
「いや、監禁とリョナはちょっと」
立花は信じていない。だから現実に置き換えて拒否をした。封印はまだしも、目を強奪なんて、取り出す以外に思いつかない。目なんて、注射だけでも恐ろしいのに。
「違うよ!? 違う違う!」
「いや、違う違うもちょっと」
「それも違うから! ……聞いて」
立花は思い出した4番目の女の子のことを忘れたいがために、真剣な理森を茶化すかのように、やりとりをしてしまっていた。
無意識だったが、彼にも縋りたくなる時はある。
そんな立花に理森は真剣な顔を向けてきた。茶化した事に罪悪感が生まれるほどの表情だ。
だが、口を真っ直ぐに固く結び、聞いてと言う割に、何か言い辛そうだ。
「…何か…方法があるんだね?」
「ええ、ただ…」
理森は、硬い表情を崩したあと、何故かモジモジしながら顔を赤らめ、目を伏せた。
「ただ?」
「その、協力が…いるの…立花くんの」
先程のパンチはなりを顰め、両手の人差し指をちょんちょんとしながら、理森は消え入りそうな声でそう言った。
いや、可愛いけど。
それより魔眼の設定、もっと詳しく。
いろいろ疲れた立花は、もう魔眼でも何でもいいや、大島さんはヤバァい。それでいこう。
素直にそう思った。
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