立花くんは疲れてる。
あれから何日か経ったある日の放課後。ボランティア部の部室で、立花は
「ごめんなさい」
理森は、謝ることに慣れていないのか、頭を下げる角度があまい。だが、立花はわかっていた事だとあまり気にしてなかった。
「なんとなく結果は見えてたから」
「違うの! これは違うの! あの子、本当にそんなのダメな子だったの! それに、その…違うのぉ!」
理森の違うの違うのコールに、過去のシーンが浮かび、苦しくなる立花。
シチュエーションも意味もまったく違うのだが、やはり胸に痛く響く、違うの違うのコール。
元カノ全員が一斉に叫んでいる。シュプレヒコールのようだ。そんな幻に立花はふいに襲われた。
「うぐぅ…その…違うの違うのって言うの、やめない? あんまり聞きたくないんだよね」
「え? なんで…あ、あ、ごめんなさい! でもおかしいわ。さすがにおかしい。あんなにモテるなんて」
そんなにおかしいだろうか? 立花は今まで須藤に取られたことしかない。だから彼のモテ具合が疑われることがあまり想像できない。転じて、また彼のモテ具合を知る人が増えるのか、そう思った。その事実に理森は辛そうだ。そうか。なら少しボケよう。
「だろ? アレ、幼馴染で親友なんだ。へへ」
「褒めてない! 悪魔でしょ! あの子…なんで…」
理森はマジだった。立花は少し後悔した。
「…僕こそごめん。でも…幸せそうだよ」
「そうなの! それが余計に心にクるのよ!」
理森が紹介した女の子、
立花のことを相談したところ、何か見たことのない動揺を見せたものの仕方ないわね、理森のためだからね! そう言って協力してくれたのだ。
彼女は中学の頃から風紀の鬼だった。男の猥談や、女子の淫らなトークなどもっての他。美人な彼女の冷酷な眼差しに、多くの男子が震え上がっていた。だけど本当は優しくてあったかい女の子だ。
高校に入ってからは須藤のことを毛嫌いしていた。
大輝ガールズ。彼の取り巻きである彼女たち7人はいつも須藤とイチャイチャしていたから。そこに最近一人加わっていて、益々嫌っていた。
「はは。大島さんはまだまだだね」
「はあ?! 何がよ!」
理森はまだ信じることができていなかった。
一週間ほど立花と玲奈は放課後を過ごし、日に日に放課後を待ち遠しくしていて、楽しさが隠しきれていない玲奈を見て、こんな事を頼んだ手前、心苦しかったが、無理はして無さそうに見えた。
続けられそう? そう聞くと、彼女はこれ延長アリなの!? そう食い気味で聞いてきたくらいだ。
最初に感じた通り、やっぱり玲奈は。そう思った理森は彼女に聞いた。すると前から立花くんが好きだったと。だから須藤に靡くなんて有り得ない。そうも言っていたのだ。
それがピタリと止み、理森のお願いは破られ、須藤の元に向かうのだ。嬉しそうに楽しそうに笑いながら。
あの玲奈が約束を違えるなんておかしい。おかしい。絶対何かある。でもわからない。
「おかしいよ。しかも立花くんのこと話すとゴミを見るみたいな目をして…私…親友なのに…酷いよ…」
立花も了承した手前、理森が取り乱す姿を見るのは心苦しい。しかも親友だったという。
とりあえず話題を変えようと無理矢理に頭を使う立花。怒られてもいいから理森の矛先を自分に向けようと考えた。
「大島さん。見せパンってあるじゃん?」
「はぁ?! …い、いきなり何よ。まあある…けど」
理森は動揺を隠すように言う。実は今日は見せパンを履いていない。二人きりだと途端に恥ずかしくなる。スカート前と後ろをキュっと掌で押さえた。
「まあ女子の下着なんて母さんと妹のしか見たことないんだけどさ」
「さりげにキツい!」
思いがけず、立花くんがピュアピュアボーイなのだとわかってしまった。なのにNTR何回なのよ! 立花くんが何したって言うのよぉ!
理森は凄まじい憤りを感じた。
しかも今までの話をまとめて考えると、これはマズいかも知れない。NTRの扉がめっちゃマズいかも知れない。そう思った。
「僕の認識ではさ、下着の上に履く下着っぽいもの、であってる?」
「まあ、そうだけど…え? まさか見せカノと本名カノとか?」
「そう!」
立花くんはきっと疲れているんだわ。こんな純情な彼が、これ以上変な事を考えないようにしないと。そう思った理森は優しく言い聞かせることにした。
「立花くん。だいぶ病んできてるわ。一旦落ち着きましょう? 裏切ったから裏切りを、なんて同じ人にするならともかく。立花くんがしちゃ駄目だと思う」
「まー、だよね。そもそも僕に二人も集まるとも思えないし、何より悪いしね」
自分サゲする立花に苛立つ理森。自己評価サゲはあっちにいっちゃうから! 魔界の扉開いちゃうから! 駄目だって!
「立花くん、自虐が出てるわ! 自信を持って! あなたなら二人どころか三人も四人もいける。ううん、なんだったら大輝ガールズみたいに七人、いや八人だっていけるんだから!」
結果、須藤とあまり変わらない人扱いをしつつ、元カノのことを出してしまい、容易く立花の心を抉る理森。
「うぐぅ…いや…大島さんのほうが酷いよ」
「ち、違う! 違うの! ああ! ごめんなさい! 比喩よ、比喩! あ〜〜そんなつもりじゃないの!」
立花に酷いと言われると、まるで須藤より酷く感じ、辛くなる理森。そんなつもりじゃないのに! そんなつもりで言ったんじゃないのに! 違うの違うのも違うのぉ!
立花はそんな理森を見て空笑いしながら言う。
「…ははは、わかってるよ。手伝ってくれてありがとう、って言っていいのかわからないけど…友達のこと、ごめん。とりあえず今は……もう恋なんてしないよ」
そう言って部室から立花は出て行った。
彼は初めて会った時からあまり表情は変えなかった。なのに、今はすごく辛そうだ。
私の親友まで巻き込んだことが辛いのだろう。それがわかって胸が痛い。
「立花くん…ごめんね…玲奈も…どうしちゃったのよ…」
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