立花くんと偽彼女。
翌週、立花は理森との約束を果たすため、ボランティア部を訪ねていた。
「大島さん。出たよ」
「立花くん…ガチャ…別れ話のこと?」
立花は少し顔を歪めながら理森に言う。
「ああ。縋る…女の子だった」
「なんというか…同じ女として複雑だわ」
あんな事をしておいて、別れようとまでちゃんと言ってくれた立花くんに縋るだなんて、どういう神経をしているのか。
理森はよくわからないが、立花くんを惜しくなる。その感覚だけはなんとなく受け入れていた。この人は話していて楽だ。
「違うの、違うの、しか言わなくてさ。あれどういう心境なんだろなって」
違わないだろう。何が違うというのか。
「…多分パニックだと思うけど、どんな状況だったの?」
「いや、二人がヤってるとこっていうか。ごめんね、女子相手に。そこに遭遇してさ」
「きっついわ」
キツい! 全然違ってなんかない! 何が違う違うと言うのか。見たままじゃないか。立花くんにいったいどこまで背負わす気だ。理森は理解出来なかった。
「そうなんだよ。しかも生だし」
「重ねた! キツい! やめてよ!」
女の子相手に何を言うのか。つい強い口調で拒否するが、そうだ、彼はきちんと別れを告げに…行った…のに…そんな場面に…キツい! やっぱりキツいよぉ! 理森は声なき声を心で叫ぶ。
「あ、ああごめんごめん。またかってさ」
「んん! …普通そんな現場そうそう押さえられないと思うけど…」
立花の軽い調子に、少し持ち直す理森。この軽さは以前に似た経験があったんだろう。でもどうやってそんな場面に遭うというのか。
「あー、僕くらいになるとさ。わかるんだよ。きっと大島さんもわかるように──」
「なりたくないよぉ!」
嫌だ。そんなのなりたくない。しかもそんな場面にあったなら私なら絶対刺殺してしまう。しかも二人とも殺したあと、はは。ウケる〜。そう言いそうだ。理森は自分の掌に滴る血を見た。
「だね。はは。ウケる〜」
「ウケないよぉ!」
理森が想像の中で刺殺した後に言うであろうセリフと立花くんの言動が被ってしまった。だからか、強く否定する理森。
「冗談だよ。でも流石に負け続いてさ。ちょっと面白くなくってさ」
「勝ち負けじゃなくない? ゲームになってない? 大丈夫?」
勝ち負けではない。ゲームでもない。ないが、既に彼の中では彼女とは人材である。人材なら仕方ないか。理森もだいぶんおかしくなっていた。
「……相談なんだけどさ。偽彼女…になってくれそうな子いないかな?」
「…何…するの?」
偽彼女。彼からの初めての相談は随分と誠実さに欠けて見える。理森は少し考えてから聞いた。
「出来れば須藤嫌いな…なんかモヤモヤするけど、まあ置いておこう。こう、須藤にいい寄られてもかわせる子というか…それでいて、僕に全然興味ないというか…」
「居ると思うけど、あの大輝ガールズっていうか。あれが邪魔しそう…ん? あの女子軍団に立花くんの元カノとかいないよね?」
須藤は一部の女子からは毛嫌いされている。しかし、大輝ガールズ。須藤の取り巻きである七人の可愛い女の子が須藤のネガキャンを懐柔してくるのだ。七人? あれ? もしかしないよね? 理森は聞いてから少し後悔していた。
「あれ? よくわかったね。全員だよ」
「嘘でしょ…さも純愛ぶってたから……途端にドロドロに見えてきた」
遭ってた。いや当たってた。理森はまた立花くんの背負う因縁を知った。
「まあ、慣れれば大丈──」
「慣れちゃ駄目! 立花くんはあっちに行っちゃ駄目!」
実は理森はあれから寝取られなるジャンルを知った。知れば知るほど、立花が今片足突っ込んでいるのではと戦慄していたのだ。
そして、反対側に寝取り、となる搾取する側が存在している。須藤だ。そうとしか見えない。
これに立花が性的興奮を覚えてしまうと、どうやら後戻りはできないらしい。
「お、おう? あっち? いや、まあ、ありがとう。でもやっぱり無理かぁ。仕方ないか」
「し、仕方なくなんかない! 諦めちゃダメ! 待ってて! 立花くんの味方、増やすから!」
そうだ。立花くんは今孤立無縁だ。あれから女子ネットワークを使い調べてもいた。大輝ガールズ、つまり元カノガールズに立花くんは毛嫌いされていて、男子からも目をつけられていた。
反対に須藤大輝を気に入らない一部男子からの支持は熱かった。でもだいたい日陰者ばかりで、逆に足を引っ張られている。
私しか出来ないことだ。理森は自身の人脈を使い、立花のポジティブキャンペーンをすることに今決めた。差し当たっては彼の相談を叶えてみせる。
彼をNTRなる魔界に行かせてはならない!
あれは魔境だ! その扉の前に私が立つ!
「あ、いや味方を増やしたいわけでは…」
「駄目! 絶対立花くんの生い立ちとかは言わないから! 私に任せて!」
理森には熱血な部分があった。普段はお淑やかで小さく笑うような女の子だが、いざ勝負事になると子供のように勝ち負けに拘る。彼女の人気を支える部分だが、立花は少し不安になる。
「あ、う、うん。ありがとう。でも多分…味方だと…駄目な気がするかな…」
かつて同じ事を言っていた女の子がいた。今は大輝ガールズの中にいるのだ。
ミイラとりがお前かよ。立花は3番目との過去と、今からの未来をぼんやりとイメージした。
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