《Letter-Red》

Letter Red(1)




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 クロード。

 エリーは旦那様を傷つけてしまいました。

 悲しませてしまいました。


 旦那様がお屋敷の改善の役目をくださり、無能嫁の私でもジークベルト家にいる意味を与えてくださったのに。

 初めて優しい言葉と笑顔を向けてくださったのに。

 旦那様を、ひどく失望させてしまいました。


 エリーは「不貞」を犯しました……旦那様の激昂は当然です。

 旦那様の顔が離れなくて、涙があふれてとまらないの。


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 アレクシスは書卓に額がつくほど項垂れた。


 朝陽が潜んだ山の端が明るみを帯び始めている。

 明け方に届いた手紙には、四角く小さく切り取られた紙面を埋めるようにびっちりと文字が綴られていた。


 こんな手紙が来ることは滅多にない。インクが滲んでいるところはエリアーナが溢した涙のあとなのだろう。

 「泣いている」のだと書かれていたのも初めてだ。


 真っ白な魔法鳩が丸い目でまばたきをしながら心配そうに眺めている。

 足元に寝そべっていたドーベルマンのマルクスも、主人の異変に気付いてクゥン? と眠そうな顔を上げた。


「……やはり、そうか」


 手紙にははっきりと「不貞を犯した」と書かれていた。


「エリーはあの男を……」


 溢れんばかりの愛情をろくに示せぬまま、エリアーナを奪われた失望もさることながら。

 何よりも案じるべくはエリアーナ自身も気付かぬところで『王の眼』の異能が発現している可能性についてだ。

 

 ——もしもそうなら、異能の発現をどこまで隠し通せる?

 エリーを『王の眼』として王宮になど上げるものか……!


 アビス一族の娘を娶ったアレクシスが妻の異能の発現を隠していたと発覚すれば、当然、重大事項の隠蔽と国王を欺瞞した罪を問われるだろう。



「だとしても、俺はどうなったっていい……エリーを守ると決めたのだ」



 先ずは『王の眼』発現の事実の有無を確かめねばなるまい。

 問題はどうやってそれを知るかだ——。



「随分と早起きね? また怖い顔をして、いったいどうしたの?」


 起き抜けのアルマから香油が薫った。

 エリアーナなら絶対に使わぬと思える、麝香の強い香りだ。


 夜着を着崩したアルマは書卓を睨むアレクシスの背中に腕を回し、寄りかかるようにして背後から抱きしめた。


「なんなら、この身体で慰めてあげてもよくってよ? いくら私が治癒魔法を使えると言っても、治せるのは身体の傷だけですもの」


 猫なで声で耳元に囁くアルマの腕を、アレクシスはゆっくりと引きはがす。


「よしてくれ。君とはじゃないだろう」

「あら、そういう関係って、どういう関係? 私はれっきとしたアレクののつもりよ?」


「それは……ッ」

「エリアーナとかいうあのがお屋敷に来た日、『そういうことにして欲しい』って言ったのは、アレク、あなたでしょ?」



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