エリアーナの守護妖精
*二話分を更新いたします*
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どこからともなく耳に届いた小さな《声》が、エリアーナの肩で軽やかに跳ねた。
「ルルっ、聞いていたの?!」
七色の光の粒を集めたようなそれは宙を舞い、まるでうなづくようにエリアーナの肩をくるりと一周した。
そのあと、部屋の片隅に設置されたドレッサーの上に鎮座する白いうさぎの縫いぐるみへと向かい、羊毛で編まれたほわほわの被毛の表面に溶けこむようにして、縫いぐるみの体の中にきらめきながら消えていったのだった。
スツールを離れて縫いぐるみに向かおうとすると、それを待たずにすっくと立ち上がった白うさぎがエリアーナの足元に駆け寄った。どうやら『入れ物』に収まった守護妖精は俊敏らしい。
エリアーナは目を丸くする。
「突然に出てくるなんて、珍しいわね。今朝はまだ呼んでいないわよ?」
うさぎは仁王立ちをして被毛で覆われた短い両腕を組み、あからさまにむっとした表情をうかべて見せた。
(妖精は、主人に呼ばれるまで出てきちゃダメって決まりは無いからね。だからこそ僕は、エリーのとっさの危機だって救えるのさ)
「ふふっ。随分と意気込んでいるみたいだけれど? ルルが私の危機を救ってくれたことなんてあったかしら。私が木から落ちた時だって……」
華奢な顎に人差し指をあてて首を傾げるエリアーナがうさぎに向けた眼差しには、少しだけ皮肉が混ざっている。
(あっ、あの時は……。その……アレクシスがいたからさ! それに妖精の力はむやみに使うもんじゃないって、エリーだって知ってるでしょ?)
「ふぅん。そんなものかしら」
ルルの言い訳じみたセリフはもう聞き飽きていた。
守護妖精だというけれど、実際にその力を一度だって見たことがないエリアーナは懐疑的だ。
(まさか。ルルのこと疑ってる? 入れ物は弱っちそうなうさぎだけどさ、ルルは一人前の守護妖精だもんっ)
「ううん、疑ってなんかいないわ。これでもすごく頼りにしているのよ? ルルは私の、とっても大切な子……」
——妖精の力があってもなくても。
ルルは、亡くなったお母様が私に遺してくれた家族だから。
床のうさぎを拾い上げて手のひらに乗せると、わしゃわしゃ頬ずりをする。うさぎは照れたようにイヤイヤをして見せた。
(エリーっ、もう離して……? くすぐったいよっっ!)
嫌がるうさぎを抱えこみ、ふわふわの白い皮毛をモフっていると。
——ジリリリリリリ
目覚まし時計に至福の時間を遮られた。
(学校、行っても嫌な想いするだけでしょ? やめちゃえばいいのに)
モフられて乱れた被毛を整えながらうさぎが吐息混じりの《声》を出した。
エリアーナだけに聴こえる、心の中に直接訴えかける妖精の囁きだ。はたから見れば、ぬいぐるみに話しかけているようにしか見えないだろう。
「ふふっ、ルルはそうやってすぐに逃げようとするけれど、学校に通い始めてまだひと月だもの。私に異能を発現させるっていう、お
夫に似た美貌の姑の、エリアーナへの苛立ちを隠さぬ怖い顔が眼前によぎる。
ため息が漏れそうになるのを押さえつけながら、クローゼットへと向かった。
寝坊はしていないけれど、急いだほうがいい。
エリアーナの今日一日のスケジュールのほとんどを占めているのは学園生活だ。
さっさと朝食を済ませたら、十マイリーもの遠い道のりを馬車に乗って登校しなければならないのだから。
——朝礼に遅れたら大変!
マダム・リーズに叱られて、魔妖獣の顔で一日を過ごす事になってしまうわ。
「ただでさえ私はポンコツ生徒だって目をつけられているんだから」
生活指導教師のマダム・リーズは違反生徒に容赦がない。
変身魔法を使う指導者なので、お仕置きは皆が嫌がるものの姿に変身させられるのがお決まりだ。
——ブロブリンの顔は
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