第5話 地下

 地下へと続く梯子は思ったよりも長く、そして真っ暗であった。梯子を下りきって地面にレイの右足が付いた瞬間、またしても電気が一斉につけられた。レイは咄嗟に銃を構えるも、依然として人影はない。


 小さいと思われていた建物は実は地下深くに広がっていたのだ。メインの巨大な液晶パネルの前には何台ものパソコンが置かれている。談笑ができるような柔らかそうなソファーや、食事がとれそうな机と椅子がいくつも用意されている。部屋はこれだけでなく、扉が何枚も並び、更に地下へと続く梯子も見られた。


 レイは立ち並ぶ扉の中で、黒く、ひと際厳重そうな扉が気になった。鍵が壊れていたのか、その扉は見た目に反して簡単に開き、レイの侵入を許した。その部屋は武器庫であった。レイがもっているような小型銃などのなじみのあるものから、見たことのない武器もある。奥へと進むと、今までに観察してきたR7改に加え、大型の兵器が数台置かれていた。


 武器庫を一通り見終えた後、今度は液晶パネル前に並んだパソコンを確認した。しかしながら、どれもパスワードがかかっている。適当な単語や数字を入力してみたものの、正解したものはなかった。持参した小型コンピューターを通して無理に解除したところ、全てのデータが自動的に消されてしまった。


 どうしたものかとパソコンを見渡していると、パソコンの陰に隠れて積まれている紙の束を見つけた。拾い上げると、紙は相当劣化していたのか、ほろほろと崩れ落ちてしまった。


「おっと」


 レイは慌てて紙を台の上に戻すと、丁重に扱った。ところどころ穴が開いているが、何かの名簿であったことはわかった。名前と役職、その横に地球での活動場所の地名が記載されている。そこにはレイにとって懐かしい名前が数多く書かれていた。


「レティシア……大隊長……? 俺を指導していた時は班長だったのに。出世したな」

「ヴァイト司令官はずっと司令官のままか」


 クレイアに居たころの記憶が朧げに浮かびつつ、レイは名簿をなぞりながら読み進めていく。資料の三枚目をめくったところで、レイの手が止まった。


「あ」


 目に留まったそれは、レイがかつてクレイヤでの生活を共にした親友の名前であった。


「エーディオ……」


 五年ぶりにその名前を発すると、レイの目から一筋の涙が流れ、手に取っていた紙を濡らした。


薄々感じ取ってはいたが、どうしても認めたくなかった。使用言語や地図に使われていた記号、武器庫でみかけた兵器たち。そしてこの名簿。地球を発つ前、約束を交わした親友の存在を無視することはできなかった。


 間違いない。地球を侵略したのは、天体クレイアだ。


 何とか涙を拭うと、レイは再び資料に目を落とした。何枚か続いた名簿の後には数か月分の食事の献立、迷路の落書きが続き、そして最後の一枚にはこの建物の簡略図と謎の数字配列が書かれていた。


「もしかして」


 レイは傍にあったパソコンに謎の数字配列を力強く打ち込んだ。レイの予想は当たり、パソコンのパスワードが解除された。ファイルには、地球人に対抗するための手段やあらゆる軍事的作戦、兵器の改造案などが書かれた資料が保存されており、クレイアがとった行動がいかに非人道的なものであったか鮮明に浮かんだ。レイは冷静にファイルを読み進めていく。最後に開いたのは『地球侵略から撤退まで』と書かれた文書データであった。

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