第4話 戦い

 今にも崩れそうな腐った木をかき分けて音のしたところの様子を覗いたレイは、目の前の景色を疑った。


 そこにはR7よりも巨大かつ高火力の兵器、N9が立ち塞がっていた。それの後ろには白いドーム状の小さな建物がある。辺りは荒れ果てていて、生命体らしきものは見当たらなかったが、巨大な白いロボットが煙を出して燃えていた。恐らくさっきの爆発音は、このロボットが発したのだろう。N9は天体クレイヤの開発した二足歩行の守衛用兵器だ。レイは嫌な予感がした。なんとしてもこの兵器に勝ち、その先の建物を調査しなければならない。


 レイは自分の装備が正しく作動するかを確認すると、N9に銃を一発打ち込んだ。N9はそれに反応し、攻撃を開始しようと右腕を大きく振り上げる。レイは俊敏に攻撃を避け、N9に小型のナイフで切りかかった。すると、金属と金属が反発しあう高音が鳴り響いた。自分の目論見が外れ、レイは眉を顰める。従来よりも強化されているのか、N9の装甲は硬く、刃が一ミリも入らない。

 N9は大きく挙動したかと思うと、左肩から砲弾を発射した。レイは落ち着いて砲弾をかわすと、N9が動いたことで垣間見えた頭部と胴体をつなぐ関節に銃を何発も打ち込んだ。すると、N9の動きは明らかに遅くなった。


「あたりっ」


 今度の予想は的中したレイは小さくガッツポーズをすると右腕から関節部へと駆け上りナイフを刺した。そしてそのナイフを掴みにし、更に銃を撃ちこんだ。数多くの有望な候補生のなかから調査隊員の第一号に選ばれたレイの運動能力は伊達じゃない。N9は反撃する間もなく動きを止めると、地面へと崩れ落ちた。


 N9に攻撃をしかけて僅か数分後、レイはN9の動きが完全に停止したのを確認するとホッと一息ついた。大型とはいえ、内部のコアが致命的な弱点というのはR7と同じ造りだったようだ。

 かすかに痛んだ頬に手をやると、切り傷ができていたのがわかった。いつの間に……とレイは少し不満に思った。完璧に対処したはずだったのに。

 掌には地球人のものとは違う、鮮やかな青い血がついていた。


 レイは頬を軽く拭うと、機械が守っていた建物へと向き直った。レイとN9の戦闘を受けても何も動きがなかったこの建物は、廃墟と化しているのだろう。

 褐色の蔦に覆われている大きなドアを無理やり開くとレイは銃を構えた。しかしながら暗くて何も見えない。レイはふーと軽く息を吐いて呼吸を整えると、勇気をだして建物内へと一歩踏み込んだ。

 レイの姿にセンサーが反応したのか、バッと一斉にあらゆる電気が付いた。部屋は思っていたよりも質素で、壁に二枚の大きめのモニターが貼り付けられ、中央には受付らしき円形のカウンターが備わっているだけであった。レイは引き続き銃を構えながら、片っ端から調べていくことにした。


 まず手始めに、入り口にあるモニターに目をやる。モニターにはここ周辺の地図が映し出されていた。レイがパネルに触れると地図の拡大と縮小ができた。最大まで縮小すると、モニターには紫色の靄で覆われた惑星が現われた。少しずつ拡大すると、大陸の存在が確認できる。こまかい形や色は違ったものの、大陸の大きさや位置関係は地球のものと同じである。やはり、ここは地球であるという認識で間違いないのだろう。


 レイは次のモニターに目を向けた。そこには日付と外の天気と今後の天気予報がでかでかと表示されている。レイはその日付に目を疑った。そこにはレイが地球に着陸予定の日から、五年と数カ月経った日付が表示されていたのだ。レイが地球に落ちてから再び目覚めるまで、五年以上もの日付が経っていたのだ。困惑したレイだが、宇宙から眺めた時点では青かった地球の変貌を考えると納得がいく。宇宙船には重力や気圧の変動に耐えるため、肉体を保持する機能があった。着陸と同時にすべての機能が破壊されたかと思っていたが、もしかしたらその機能が作動していたのかもしれない。


 モニターを見終えたレイはカウンターの方へと回った。円形になっているカウンターをなぞるように一周する。変哲のないただのカウンターのように思えたが、カウンターの裏の床の一部が変色している。

そのことに気づいたレイは慎重に変色部に触れると、床の一部は音を立てて消え、地下へと続く梯子が現われた。レイは唾を飲み込むと、梯子を一段ずつ下って行った。

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