第6話 文書データ

 戦いが始まったのは三年前。地球の調査隊員第一号として派遣したレイ・リオレットが地球人によって虐殺されたという噂が流れたのがきっかけだった。地球に憧れを抱いていた分、クレイア人は大荒れ。地球との友好的な交流を望んでいた風潮は廃れ、あっという間に地球侵略の気運が高まった。俺も直ぐに隊員の一員に立候補した。そして気が付いたら地球にいて、武器を持って戦っていた。その時にはもうカノティアのやつらもいた。このときから、おかしいって気づけていればよかったんだ。


 地球人は強かった。彼らは自分の星を守ろうと必死に戦っていた。それに、地球人にはクレイアが最高傑作だと抜かしたレーザー銃が効かなかった。実際に地球人がレーザーを難なく返す姿を見るまで、クレイアは自分たちの発明が地球人に打ち消されるなんて考えてなかったんだ。文明がクレイヤより未熟な地球をどこか見下していたんだ。


 レーザー銃がダメでも、クレイヤの戦士には士気があった。先立った同志の仇。団結力が強かった俺らは善戦した。レーザー銃に代わる新兵器が完成した頃にはクレイヤが優勢だったと思う。


 レイは地球人に殺されてなんかいない。レイを失ったのは、クレイヤ側の策略の一環だった。それがわかったのは大規模な作戦が成功して調子にのっていたルキナ大隊長が口を滑らせたのが原因だった。司令官は大隊長の話を事実無根として否定したけど、レイの失踪計画に関わった三人の区隊長が事実だと認めてしまった。長年敵対していたカノティアとも裏で同盟を結び、最初から武力を行使する計画だったんだと。上からの脅しもあって、この事実は地球にいるクレイヤ人に広がるだけにとどまった。後に引けなくなったクレイヤは地球を攻め続けたけど、隊員の士気なんてのはなくなっていたし、そのころには地球にも限界が来ていた。武器の有毒物質や森林火災、気候変動で環境が大きく変わった。もうクレイヤ人も地球人も、何人生き延びているかわからない。そして今日、ここに滞在していたクレイヤ人はクレイヤに帰ることになった。他に地球に残っているクレイヤ人には申し訳ないと思っているけど、もうこの基地も長くはもたない。この話はクレイアに帰ったら色々な形で消されると思う。だからこうして、地球に遺そうと思った。どうか、どうか俺を赦して下さい。

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