第27話 憶えてやがれ
「うわーい」
地面に下ろされた男の子が元気に走り去って行く。
仁王立ちする
「えっと、これはですね……(あれ? 俺はなぜに言い訳を……)」
「あ、お姉さんも元気してた? 今ね――」
刹那――澪は電光石火の勢いで少女のもとへと駆け寄り、その小さな体をかき抱くのだった。
「かぅぁわぅい――――ぃっ!! 何なのこの娘!? すっごい綺麗だし、いい匂いするし……ってか顔ちっちゃ! おとぎ話の妖精さんみたいだよねっ!? 献慈、知り合いなのっ!?」
「あ……いや……今、会ったばかりというか……」
少女が澪の腕の中から不敵な笑みを向ける。
「お話してたんだ。ふたりとも仲良いんだね、って」
「ふたりって、私たちのこと?」
「うん。その子言ってたよ。お姉さんには日頃『お世話になってる』って」
両児との会話を聞かれていたのは間違いない。が、「男同士の会話」を曲解されている可能性大だ。
「ちょっ、そこを強調されると! 違う意味に聞こえるので!(かといって否定もしづらいけど!)」
「違う意味って……どういう意味?」
澪からの質問を、
「え、いや…………どういう意味?」
献慈は思わず少女に投げ渡してしまった。
「ど! どういうって、そ、それは……ゴニョゴニョ……」
一転してしどろもどろになるこの少女の目的が何なのかはいまだ不明だ。
だがこの時、献慈ははっきりと思った。
この娘、からかった後のこと何も考えてないのでは? ――と。
「いやぁ、もしかすると俺の勘違いかもしれないし……よかったら君の口から事細かに説明してくれると助かるんだけど……?」
「オマェ……あ、アンタが先に言い出したんだろっ!?」
「そうだっけ? 君に言った憶えはないんだけど。もしかして盗み聞……」
「ひっ、人聞きの悪いこと言うなぁっ! ちょっと通りがかったんで挨拶しようと近づいただけだし! アンタなんかべつに興味ないし! そ、そっちのお姉さんも、どうもお邪魔しましたっ!」
少女は澪に頭を下げ、一旦踵を返したかと思えば、
「……小僧ぉ……憶えてやがれっ!」
献慈には捨て台詞を残し、脱兎のごとく走り去ってしまった。
(ちょっと調子に乗りすぎたか……悪いことしたなぁ)
「何だったんだろ……あの娘」
「き、きっと照れ屋さんだったんだよ」
「そっかぁ……それはそうと私たちのこと知ってる風だったよね?」
献慈に思い当たることはそう多くない。
「確証はないんだけど、昼間の一件と関係あると思う。『無事で安心した』とか言ってたから」
「あの時の
「確証がない」と前置きしたのはまさにその点だ。
逆に「関係ある」と思わせた点こそが〝匂い〟だった。
「うん。ただ心当たりが別にあって、透けてる女の人が――」
「透けてる女あぁっ!?」
「き、聞いてってば! 俺が背後から
その身を瞬時に風へと変える緑風の乙女の存在を、献慈は澪に説明した。
「んー……それって具象精霊かもしれないね」
目に見える姿や自我を持たない抽象精霊に対し、具体的な姿形や人格を持つに至った高位の存在をそう呼ぶらしい。
「その精霊が漂わせてた匂いと同じだったんだ――さっきの女の子に詰め寄られた時にした、ラベンダーの匂い」
* * *
次話へのつなぎ
【番外編】第27.5話 子どもだった
https://kakuyomu.jp/works/16817330648524007296/episodes/16817330648524599840
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