第24話 乱戦の真っ只中
三日目の朝。前日から続く曇り空の下、ふたりの歩みは自然と早まる。
順調に行けば昼までには森を抜けられるだろう。舗装された道に出られれば、港町まではもう目と鼻の先だ。
順調に行けば――よかったのだが。
「待って、
「この声……人じゃないかも」
「まさか――」
異能の眼〈トリックアイ〉が遠くを見通す。
木々の向こうに生い茂る草地。馬車の轍。逃げ惑う男たち、そして――
「――
「
即決即断、澪は飛ぶようなスピードで駆けてゆく。一歩一歩の小さな動きから、予想される何倍もの距離を突き進む。
(速い! これが――)
〈
熟練者ほど連動効率は高くなり、小さな動作から高威力の攻撃を繰り出す、反動を減じて素早い連撃を生み出す、といったことも可能になる。
(追いつくのは無理でも、見失わないようにしないと)
先行する澪を追って献慈は現場へと駆けつける。
カゴを背負った男性が、怯え後ずさっていた。
にじり寄る影は三体。子どもほどの背丈、頭部には角を生やした醜悪な亜人たちが棍棒を手にしている。
うち一体が、地面に転がる草刈り鎌を拾い上げようとしていた。
「させない――!」
澪が刀を抜き放つ。
ぶつりという切断音。返す刀が二体目を袈裟斬りに両断、振り向きざま三体目の喉元を貫くまで、ものの二秒とかからない。
他方、献慈も乱戦の真っ只中へ突入する。
ナタを手に奮戦する、年かさの男性。
「兄さん方は……!?」
「外側へ散らばってください!」
男たちが散開するのと前後して、小鬼どもはいかにもひ弱そうなこの闖入者を一斉に取り囲んだ。
「(望むところだ――)〈
体を軸に、杖を水平に大回転させる。直撃を受けた二体は大きく吹き飛び、一体は献慈の足元へ倒れ込む。
(すぐに追い打ちを――)
思い出すのはかつての失態。反撃を喰らえば今度こそただでは済むまい。
(――じゃなきゃこっちがやられる)
仏心を跳ね除け、杖を振り上げようとした時だった。
「献慈! みんなを避難させて!」
澪の声がいつになく切迫している。足裏に伝わる地響きがただならぬ事態の訪れを告げていた。
献慈は言われたとおり皆を馬車の方へ誘導した。
「澪姉は――」
「……来る!」
ふたりの間、中ほどの位置に、地中から牛馬ほどもある巨体が這い出て来た。猛牛の頭に蜘蛛の体、前脚は鋭い大鎌を思わせる怪物――ツチグモである。
傷ついた小鬼が、這いつくばりながらこの場を逃れようとしていた。
目ざとくそれを察知したツチグモは、口から糸束を吐き出し小鬼を絡め捕る。哀れな獲物を巨大な顎で噛み砕きながら、捕食者の眼はすでに次なる餌を物色していた。
最も近くに位置する弱者を。
(俺か……!?)
「こっちを向きなさい!」
放った太刀風が後脚に弾かれるのを待たずして、澪は献慈と敵との間に回り込む。
その一連の動きを見計らったかのごとく、方向転換したツチグモの一撃が、澪に叩きつけられようとしていた。
得物同士がかち合い、火花が散る。鍔迫り合いだ。
「く……ッ!」
「澪姉、加勢する!」
「ダメ! 後ろ!」
踏み出そうとした直後、澪の叱咤が飛ぶ。
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