第3話

シャウラが目を覚ますと、素朴な木造りの天井があった。

寝ているベッドのマットレスもシーツもタオルケットも現代とは思えないものばかりだった。


「あ、おはようございます。体調はいかがですか?」


貧相な服を着て、木桶を持つ少女がいた。

木桶の縁にはボロボロのタオルがかけられていて、シャウラはそれだけで全容を理解した。

シャウラはあれからどこかに捨てられて、恐らく拾われたのだろう。

そうして、今はここに身を置かせてもらっているのだろう。


「感謝します。」


シャウラはそれだけ言って立ち去ろうとした。


「少々お待ちを!あなた、行く当てがないのでしょう?」


「いえ、帰るあてがありますので。」


実際は何もあてなどなかった。

あの家にも戻る必要はなかったし、戻りたくもなかった。

このまま野垂れ死んでも未練などなかった。せいぜい我が命であいつらがブタ箱にでもぶち込まれればいいとさえ思った。

一つ懸念があるとしたら弟だろうか。

彼はシャウラの唯一の家族と呼べる存在だった。せめて弟を幸せにしてからでないと死ねないなぁと呑気なことを考えていた。

シャウラが挨拶をして扉を開けた途端、シャウラの知らない世界がそこにはあった。


逸脱した自然。それがここに相応しい名前だった。

緑豊かな地面にはふわふわした動物がじゃれ合いながら転がっている。

手前の湖は澄んでいて時折、魚らしき生物が跳ねるのを確認できる。

遠くには大層太い木が雲を貫いている。とこどころで枝分かれをしており、そこは人が住めそうだ。

シャウラは涙を流した。

心が荒みっきっていたシャウラにはこの景色に射止められた気分になった。


シャウラはしばらくの間、立ち竦んでいた。それから引き戻してくれたのは先程の少女だった。


「あの!」


「はッ!はいッ!」


「大丈夫ですか?」


「あっ…その…やっぱり泊めていただいていいですか?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る