第三話
「こちら〈ホワイトクロウ〉部隊長。他作戦部隊の状況報告を願う」
『こちら〈ステラバード〉部隊長。対象を目視、次の指令を待つ』
『こちら〈ムーンウルフ〉部隊長。同じく対象を目視。どうぞ』
作戦当日、殺気立つ僕らに気付かず、何も知らないデパートはいつも通りの賑わいを見せる。
子供のお菓子をせがむ声や、夫人のショッピングを楽しむ鼻歌。何気ない日常の一場面は、言い表せない脆さを孕んで存在している。
全部隊が配置について、対象を監視する。こちらとしても、相手が何も行動を起こさなければ、何もすることができない。
工作の技能者と思われる人物は、デパートの三階の吹き抜けから、下の階の様子を窺っている。
パーカーに身を包んだ彼は、何気なくポケットから携帯を取り出し、どこかに電話をかける素振りを見せる。すると、突如としてデパートを揺らす爆発音が響く。買い物客から悲鳴が上がり、辺りが一瞬でパニックに陥る。
『こちら〈ムーンウルフ〉。技能者が天脈を発動。作戦を開始する』
無線に続いて、下の階で発砲音が響き始める。〈ムーンウルフ〉が、戦闘を開始したようだ。 続いて、〈ステラバード〉からも連絡が入り、切断が行動を開始したという情報が舞い込んでくる。
「〈ホワイトクロウ〉。行動開始っ!」
実弾の入った拳銃を構え、携帯を操作する男の背後に出る。
「そこのお前! すぐに携帯を捨てろ!」
銃を向けられた本人は、焦る様子もなく、携帯を操作する手を止めない。技能者はこちらを一瞥すると、溜息をつきながら、携帯を前に突き出す。
「あんたら、邪魔すんなよ。」
技能者が振り返ると、彼の持つ携帯がマシンガンの形に変形する。なるほど、工作とはそういう天脈か。物を材料に、新たな何かを創り出す。無から何かを創り出す創造より、幾分か戦いやすい。
「手を、出させない!」
物陰に隠れていた影山が、自身の手をかざす。手をかざしてすぐに、技能者の創り出したマシンガンは、軋む音を立てながら圧壊する。これが、時空圧縮の天脈。
手に持つ銃が破壊された彼は、地面に両手を付く。
「まだまだ、材料はたくさんあるからね!」
すぐに異変を感じ取り、拳銃を彼の頭目掛け発砲する。しかし、彼の周りの床が隆起し、壁となって彼を守る。彼の作り出した壁が変形し、一対のタレットに姿を変える。 技能者本人は、吹き抜けの手すりから、新たなマシンガンを作り出す。
「無駄!」
影山は、手をかざしてタロットを圧壊すると、相手のマシンガンを破壊しようとする。しかし、影山がマシンガンを破壊する前に、弾丸が射出され、辺りの掃射を開始する。
頭が状況を理解するよりも先に、自身の体で影山を覆い隠した。
「えっ、末崎」
数多の弾丸が、僕の体を傷つける。左腕、右足、腹部。身体中から、大量の血が流れ落ちる。
「ダメだよ末崎、そんな。傷が治るからって、そんなことしたら!」
影山の呼びかけを無視して耐え続けると、想定通り、相手のマシンガンがオーバーヒートを起こして銃身が爆散する。銃身の爆発で、相手は手に怪我を負ったようだ。
「今だッ!」
僕が指示を出し、寺里と篠森が走ってくる。しかし、彼は壊れたマシンガンを材料に、新たなマシンガンを創り出した。
それに合わせて、僕は怪我を直すために天脈を起動する。すると視界が揺らぎ、思わずその場にしゃがみ込む。まずい、怪我を負い過ぎたか、もしくはこれが僕の点脈の限界なのか。
「影山……やれッ!」
僕の呼びかけに呼応し、影山が天脈でマシンガンを圧壊する。新たなマシンガンを作る隙も与えず、篠森がテイザーガンを放ち、敵の動きを一時的に止める。そこに寺里が捕縛ネットを放って、技能者を完全に無力化した。
『こちら〈ステラバード〉部隊長。切断の技能者の捕縛に成功。作戦は終了だ』
こちらが工作の技能者の捕縛に成功したタイミングで、〈ステラバード〉から作戦成功の知らせが飛び込む。
『こちら〈ムーンウルフ〉部隊長。 爆発の技能者の捕縛に成功した』
全部隊が、担当の技能者の捕縛に成功し、作戦は成功に終わった。本部に連絡を取り、技能者の輸送を手配する。
「〈ステラバード〉、〈ムーンウルフ〉。 本日は、力添え感謝する。 貴官らの協力が無ければ、この作戦は失敗していた。」
『問題ない。〈ホワイトクロウ〉と戦線を共にできたこと、光栄に思う』
『作戦の立案云々、作戦成功は〈ホワイトクロウ〉あってのものだ。感謝を言うべきは、私たちの方さ』
〈ステラバード〉、〈ムーンウルフ〉との通信を終了し、僕らは本部に戻ることにした。
「影山、怪我は無いか?」
「末崎が守ってくれたから、大丈夫だよ。それより、末崎は?」
「意識は冴えないが、特に問題は無いな」
僕は立ち上がる際に、立ち眩みを起こしてしまい、またその場にしゃがみ込む。 「本当に、大丈夫?」と影山が気にかけてくれるが、僕は「大丈夫だ」と返す。
「お前ら、終わったと思って安堵しているな?」
不意に、工作の技能者が、口を開く。
「僕らがそんな簡単に終わる訳が無いだろう。一人も殺せずに終わるような僕らじゃない!」
急に叫びだし、網の中で僕を指さす。
「さっき撃った弾丸は、弾丸の形をした爆弾だ! もう少しで、お前らを爆散させてくれる!」
彼がべらべらとしゃべっているうちに、僕は影山を篠森の方に突き飛ばし、自分は後ろに飛び退こうとする。だが、一瞬の差で爆弾が起動し、僕は爆発に巻き込まれてしまった。床が抜け、下の階に落ちる。
「冬真ッ!」
「末崎っ!」
上の階で、篠森と影山が叫ぶ。血を失い過ぎたのか、爆発で耳をやられたのか、彼らの声は、水の中のようにくぐもって聞こえた。
傷を治すために、残った力で天脈を発動する。
体の各部位の再生が開始された後、僕の意識は深い闇に沈んでいった。
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