放課後は友だちとお話しです
エビリス先生の魔法の授業は非常に面白いものだった。小難しい魔法陣の話も身近なものに例えてくれて全くの初心者である私でもわかりやすいものだ。
それに加え、ネロのような魔法について詳しい人に対しても理論的に説明してくれていた。
私にはその本当の凄さと言うものがまだ理解できていないものの、それでもケイネ先生が彼の放つ軍用魔法を封じ込めることができたように、これから先生から教えてもらう魔法のことは非常に有効的なことなのかもしれない。もちろん、魔法には才能と言う要素もかなり必要となってくるのだろうが、そんなことは今気にしたところで意味はない。少なくともエビリス先生は私に対して、地道に努力すれば魔術師になれると言ってくれた。
一流になれなくても今は練習したり勉強したりすることが重要だ。こうして多くの人から期待される魔力持ちとしてそれが私たちのやるべきことなのだから。
「これにて本日の授業は終わりだ。少しばかり難しい内容になってしまったが、復習してしっかりと覚えることだ。そうすれば今後教えていく高度な魔法のことも理解しやすくなるだろう」
確かにエビリス先生が教えてくれた魔法陣の構造については非常に小難しいことばかりで全てをすぐに覚えられるものでは当然なかった。
それでも今後魔法を勉強していく上で基礎的なことなのだろうと思うと私も難しいからと言って後回しにするのは良くないのかもしれない。それに基礎的なことはなんでも難しいものだ。突き詰めていけば簡単そうに見えても難しいものになる。
きっとこれらをしっかりと覚えておくことで、今後の魔法の理解もより深まるはずだ。
「ちなみに朝私が配った魔法陣だけど、結構基礎的なことが詰まってる魔法なの。簡単だからって勉強を怠ると後で痛い目を見るわよ」
「……痛い目ってなんだよ」
「工夫すれば水以外でも堰き止めることができる。俺が放とうとした爆炎魔法の炎だったり雷撃魔法であったりな」
「は? 軍用魔法も防げるのかよ」
「これからの鍛錬次第だがな」
そう言ってエビリス先生が言うと授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
「あっ……」
「ネロ、質問でもあるのか?」
「……なんでもない」
「そうか。まぁ気になったことがあればなんでも聞いてくれ」
「うん」
チャイムが鳴ったと同時にネロは何かを言おうとしたようだ。ただ、彼女は話す気になれなかったのか質問することはなかった。
そんな彼女の返事を聞いたエビリス先生は本をまとめてそのまま教室を後にした。
「それじゃ、このまま終業の挨拶をするわね」
そう言ってケイネ先生が終業の会を始めることにした。
「今朝話した魔法学会の公開発表の日程だけど、ちょうど休みの日になるわ」
「休みの日にまた勉強かよ」
「当たり前じゃない。ただ、勉強と言っても少し楽しいものになりそうよ?」
「どう言うことですか?」
「魔法研究の発表会って非公開を含めれば毎月行われるものだけど、今回のは少し特別でね。お祭りみたいなものよ?」
「そう言われると確かに面白そうだなっ」
学会と言うことで少し堅苦しいイメージではあったが、今回は少し違うようだ。お祭りと言うことは屋台なんかも来るのだろうか。いや、いくらなんでも本当のお祭りと言うわけではないか。
「魔法で作った美味しい料理なんかも試食できるかもね?」
「学会でしょ? どうしてそんなのがあるのかしら」
「研究発表なんて何も軍事だけじゃないわ。私たちの暮らしに直接影響するような魔法だってあるの。特に料理なんかは研究が盛んね」
「なんで料理なんだよ。もう少し実用的なものじゃねぇのか?」
「あら、魔法で保存食を作ることができればそれは実用的ですわ」
確かに不作の時には新鮮な食材を食べることができない。その時は保存食になるだろうが、魔法でそれらの料理が大量に作れるのだとしたら実用的と言えるだろう。
それに美味しい料理を作るのに実用的かどうかの理由なんてないのかもしれない。
「保存食だったり、特殊な加工技術だったり色々あるけれど、重要なのは非常に繊細な技術が求められるところにあるわ。食材って生モノだからね」
「……最悪食べられないものになる」
「おい、その口ぶりだとやったことあるのかよ」
「魔法は苦手。だから失敗した」
ネロは魔法を独自で研究していた。その時に魔法料理についても少しは試したことがあったのだろう。魔法実技に関してはそこまで得意ではないために、失敗してしまったことがどうやらあるらしい。
そのことについてもう少し詳しく知りたいものだが、それはまた今度の機会にしよう。
「今年度初めての公開発表ということで盛り上がるのよ。いろんなものに触れるといいわ。それじゃ、三日後の発表会を楽しみにね」
そう言ってケイネ先生は終業の会を終えた。
それから放課後となるわけだが、当然ながら私たちはまだこの学院に来てすぐと言うことでここでの生活に馴染めているわけではない。
いくつか先生が顧問となってゼミなるものも開かれているようだ。せっかくだし掲示板なども見ておいてもいいかもしれない。
「あの、セルフィンさん」
「なんでしょうか?」
「放課後はセミナーとかあるんですよね?」
「そうみたいですね。近年導入された仕組みみたいですが」
「エビリス先生のゼミとか、あるのでしょうか?」
確かに担任の開くゼミのようなものがあるのなら是非入ってみたいものだ。ただ、魔法界の鬼才と称される人の講習会に参加して付いていけるかは不安なところだ。
ともあれ、行ってみないことには何もわからない。入るかどうかはさておき、話ぐらいは聞いてみてもいいはずだ。それに、まだエビリス先生が開くゼミがあるのかもわからない。
「確認のために掲示板を見てみましょうか」
「そうですねっ」
それから私たちは職員室近くに張り出されている掲示板を見てみることにした。
どうやら近くには他の生徒たちも来ている様子でいろんな人が掲示板を覗き込んでいた。
「セルフィン」
「あっ、リフェナさんっ」
すると、後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ってその声の方を見るとそこにはリフェナが立っていた。彼女は貴族の中でも貴族と言われる超有名人だ。
当然といえば当然なのか、彼女の後ろには何人かが付いて来ている様子だった。
「あなたも掲示板を見に来たのね?」
「はいっ。ですが、この人集りでして」
「そう、何か目当てでも?」
「えっと、担任のエビリス先生のゼミがあるか探しに来たのです」
私がそういうと横に立っていたサラも大きく何度も頷いた。
「担任、やはり六組になったってことかしら?」
「そうですっ」
「はっ、落ちこぼれかよ」
すると、彼女の後ろから一人の男の生徒が私たちに向かってそう吐き捨てるかのように言った。
「あ、あの私たちのことは……」
「ハーチス、その発言は貴族としてふさわしくないわ」
「っ!」
「少なくとも、私の前ではそのような発言は控えるべきね。それに先生たちからすれば私たちは未熟者なのよ」
「だ、だけどよ」
「あなたも人を笑える立場でないことぐらい自覚した方がいいわ」
「……っ」
彼女の言う通りなのかもしれない。多少知識や技量の差はあれど、そんなことは先生たちからすれば大した差ではないのだろう。それは今日、エビリス先生が軍用魔法を瞬時に発動したことからも見て取れる。
彼ら教師は私たちよりも圧倒的な実力を持っている。
当然、一部貴族に劣る部分があるのかもしれないが、総合的な実力と言う点で見ればそんなものは小さなものなのだろう。
「ごめんなさい。私の連れが失礼を言ってしまって」
「気にしないでください。私たちは大丈夫ですよね。サラさん」
横に立っているサラも小さな声で「うんうん」と答え頷いていた。
「そう、それならよかったわ。それで……」
すると、彼女はそう言うと目元に小さな魔法陣のようなものを展開すると、そこを覗き込むようにしてまた口を開いた。
「見たところ、エビリス先生のゼミはなさそうね。まだ張り出されていないか、そもそも先生が興味ないか」
「えっと」
「透視の魔法よ。これぐらい近づかないと見えないのだけど」
「そうでしたか。ありがとうございます」
「私もちょうどエビリス先生のゼミがあったらと思ってここに来たのよ。だけど、残念ね」
そういえば彼女と最初に出会った時もエビリス先生のことを憧れの存在のように言っていた。
「それにしてもあの人が担任なんて羨ましい限りね。応援してるわ」
「あ、ありがとうございますっ」
「サラさんも、ね」
「あ、りがとう…ございます」
「それじゃ、またの機会に」
そう言って彼女は数人の連れと一緒に掲示板のあるところから離れていった。
「あのっ、ウォーレリア家の人と知り合いなんですかっ」
「そうではないんですけれど、クラス発表の時に少しだけ話した程度です」
「凄いですね。あんな人と対等に話せるなんて……」
「意外と話しやすいですよ? 機会が合えば話してみましょうよ」
「そ、そうなんですかね」
最初は貴族と言うことで気負ってしまう部分があるのかもしれないが、そんなことはこの学院ではあまり意味のないことだ。それは彼女からも聞いた。
ここでは貴族や庶民関係なく自由に交流することができるのだから。
「ただ、エビリス先生のゼミはないみたいです」
「他に気になるゼミとかありますか?」
「えっと、ちょっと確認してみましょうか」
「はいっ、そうですね」
先ほどはリフェナに助けてもらったが、他のゼミの情報を見るためには結局近づいて掲示板を見ないといけない。
人の隙間からその掲示板を覗き込むようにして見てみる。ただ、他に気になるような内容のゼミはなかった。正確には内容が少しばかり難しいもので主に上級生に向けてのものが多かった。
そもそも上級生と言っても一学年上の生徒はこの学院にはいない。
去年改修工事が行われて、その時は学生を受け入れていなかったそうだ。異例も異例だが、二つに分かれていた学院を一つにすると言うのはそれほどに大変なものなのだろう。
それにしても、リフェナさんは本当にエビリス先生のゼミにしか興味がなかったのだろうか。他の情報を見ていた様子はなかったのだけれど。
気になるところだけれど、今の私たちには関係のない話だ。
「今日は、帰りましょうか」
「そうですね。もしゼミが開かれるのならその時はケイネ先生が連絡してくれますよね」
「多分?」
「じゃ、それまで私たちは基礎勉強ですねっ」
「はいっ」
それから私たちは帰路に着くことにした。
先生の開くゼミがどんなものになるのか、もし開かれるのなら絶対に覗いてみたいものだ。それにもう少し魔法についての知識が深まれば先ほど書かれていたゼミの内容についても少しはわかってくるのかもしれない。
今は勉強に時間を費やして、もう少し成長してから他のゼミも覗いてみよう。
そう思いながら私たちは寮へと帰ることにした。
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