改めて、狭い教室です
それから教室へと入る。昨日はそこまで気にしていなかったものの、改めて教室を見渡してみるとかなり狭い部屋だということがわかる。
そもそも、昨日は新鮮さと言う印象がかなり大きかったために気が付かなかったと言った方が正しいだろう。この教室へと入る前に他クラスの部屋を見てみたが、どの部屋もそれなりに大きく余裕のある広さだった。
ただ、そんなことを気にしたところですぐに環境が変わることはない。それに私たちのクラスはそこまで大人数というわけではない。これぐらいの広さでも不便を被ることはないはずだ。
「セルフィン、おはよう」
教室に入ってすぐにアライベルが話しかけてきた。昨日のうちに自己紹介をしたために彼女とは知り合いになった。いや、友だちになったと言えるだろうか。エビリス先生に呼び出された時、彼女と同じくネロという人も私に声をかけてきてくれた。
彼女たちがいなければ、きっと心細いまま魔導訓練場に向かっていたことだろう。
「おはようございますっ」
「元気ね。その調子だと、昨日はうまく行ったようね」
「はいっ、おかげさまで……」
「私はただ声をかけただけ、あなたは自分の力で乗り切ったのよ」
アライベルはそう私の実力だと言ってくれる。確かに私の魔力は特殊なのかもしれないが、それでも心の支えとなってくれたのは私にとって大きなことだ。
「……おはよ」
すると、ネロが少し遅れて私の方へと話しかけてきた。どうやら先ほど教室に入ってきたようだ。少し眠たそうで、彼女はそう挨拶をすると大きくあくびをした。
「眠たいのですか?」
「うーん、ちょっと」
「二日目ですよ? 大丈夫なのですか?」
「いつものこと、気にしないで」
天才と言われている彼女はどうやら夜遅くまで勉強でもしていたのだろうか。とはいえ、何も知らない私が人のことを言えた立場ではない。体調を崩している様子でもないから、適度に睡眠は取っているようだ。
「もしかして、エビリス先生の言っていた魔石を使わない魔導技術のことを?」
サラはそう彼女に質問した。確かに彼の魔導技術に対してかなり疑問視していた様子ではあった。
「うん。でもよくわからなかった」
「そうでしょうね。私も初めて聞くから」
貴族でもあるツェルライン家出身のアライベルでも詳しくは知らない様子だ。私に至ってはそもそも魔導訓練すら受けたことがない素人の中の素人、それでも彼女たちがよく知らないということから現在主流の技術ではないということはわかる。
おそらく、私たちはそれらの魔導技術を軸に勉強していくのだろう。
「……古い文献ではいくつか見つけたけれど、今とは全く違うもの。それだけしかわからなかった」
「そうなんですね。そんな技術をこれから私たちは勉強するのですか」
「改めて考えても古い技術が現代に通用するのかは疑問」
彼女の言うように現代の技術はいろんな偉い人が進化に進化を重ね、考え抜かれたもののはずだ。今更、何百年も前の技術を持ち出してきたとて、現代の技術に敵うとは私でも疑問に思ってしまうものだ。
ただ、何度も言うように私は素人だ。きっと現代の技術でも何か大きな欠点があるのかもしれない。昨日ケイネ先生が言っていたように魔石はほんの少しでも扱い方を間違えればすぐにでも壊れてしまう脆いもののようだ。魔石を中心に展開する現代魔導技術において、実戦でそのように壊れてしまった場合は魔法を展開することができない。つまりは死を意味することになる。
「授業で魔石は基本的に使わないと言っていたけれど、それが大きな欠点なのでしょうか」
「だけど、それでも不自然。正しい扱い方をすれば魔石はそう簡単に壊れることはない」
「……意図的に相手の魔石を破壊する、なんて技があれば欠点と言えるのではないでしょうか」
アライベルとネロの発言に私はそう思ったことを口にした。
素人の意見で的外れなことなのかもしれないけれど、疑問に思ったことは聞いてみるべきだろう。
「そんな技、知らない」
「ありそうな技術だけどね。悪いけれど、私も知らないわ」
「つまりは私たちの知らない技が実戦で多く使われていると言うことなのでしょうか」
「どうだろ。軍のことは知らないことばかりだし」
結局のところ、私の疑問に思ったことも彼女たちはどうやら知らない様子だ。サラの言っていたように実際の戦争でそのような攻撃が使われていると言う可能性もないわけではない。
相手の魔石を意図的に破壊する。もしそのような魔法だったり技術があるとすれば、現代の魔導技術はそこまで脅威ではないことになってしまう。
魔石に頼ってばかりではダメだと言うことなのかもしれない。
「はーい、みんな席についてね」
そんなことを考えているとケイネ先生が教室へとそう言って入ってきた。
「そろそろ始業時間ね。それじゃ」
それから私たちは自分たちの席へと着席することにした。私たち生徒は戦場に派遣されることなんてないわけだ。今気にしたところで意味のないことなのかもしれない。
ただ、このクラスの中に魔術師として軍に入って活躍したいと思う人も少なからずいることだろう。そんな人がもし私の考えた魔石を破壊する魔法なんかで命を落としてしまったりしたら……そんなことを考えると途端に怖くなってきた。
「今日の授業内容だけど、午前は魔法史で午後からはエビリス先生の魔導理論ね」
そのことは掲示板に書かれている内容からもわかることだ。実技形式で授業がないけれど、魔導理論で少しでも魔石を使わない技術について理解が深まればもっと理解できることだろう。
現代であまり使われていないと言うだけで、昔の人たちは使っていたのだ。全く意味のない技術でないことは確かだ。私たちもきっと扱えるようになることだろう。あのエビリス先生なら。
「朝のホームルームはこれで終わりなんだけど、何か質問とかないかしら」
そう彼女は生徒たちに向かって質問するが、特に授業内容については質問がない様子だ。確かにこれ以上何かを聞くこともないだろう。
「……一応、授業とは関係のないことなんだけど」
前置きをしてからケイネ先生は黒板へと何かを張り出した。
「魔術学会の公開発表会が近くに行われるの。学会ということでかなり高度な内容になってるけれど、気になる人は参加してみるといいわ」
すると、一人の生徒が何か気になることでもあったのか手をあげる。
「質問ね。どうぞ」
「その、公開発表というのはどう言った内容なんですか?」
そういえば、魔導学会は一般的に公開されないことが多いそうだ。そのことは私の読んでいた雑誌でも書かれていた。ただ、不定期に学会の公開発表会があるらしい。今の私たちには到底理解できない内容なのかもしれないが、聞いてみる価値はあるのだろう。こうしてケイネ先生が連絡するぐらいなのだから。
「流動魔力の肉体的侵食性、および呪術の効能実験についてよ」
「それは私たち生徒に関係あるのかしら」
「今の段階では確かにレベルの高い内容になるかもしれないわね。だけど、エビリス先生がその学会に出席することになってるの。どういった仕事をしてるのか、実際に見る事ができるわ」
そう言われると確かに気になるところではある。魔法の知識がない私でも先生の仕事が間近で見れるというのはそうそう経験できることではないはずだ。それも鬼才とも呼ばれる人の仕事なのだから尚更貴重に違いない。
「セルフィンさん、どうしますか?」
すると、横の席の彼女がそう話しかけてきた。
「私は行ってみたいと思います。サラさんはどうですか?」
「気になりますよっ。一緒に行きましょうっ」
「はいっ」
どうやら彼女も気になるようだ。彼女もエビリス先生の仕事ぶりに関して知りたいということなのだろうか。それとも単純に学会のことが気になるのだろうか。
発表の内容がわからないとはいえ、得られるものはきっと多いはずだ。貴重な経験ができるのだから行かないという選択肢はない。
「……質問はないようね。それじゃホームルームは終わり」
そう言ってケイネ先生は黒板に張り出されたものを掲示板へと移すと教室から出ていった。
魔術学会の公開発表会、気になるけれどその日まではまだ時間がある。それまでに少しでも魔法の知識が得られれば学会の内容も少しは理解できるかもしれない。
その日が待ち遠しくて仕方ありませんっ。
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