眩しい朝の日差しです
早朝、薄暗い部屋を照らすべく私、セルフィンはカーテンへと手をのばす。そして、勢いよくカーテンを開くと……
曇り空が広がっていた。いや、これは心の持ちようだ。一度目を閉じてからまたまぶたをゆっくり開いてみると……
「はぁ」
当然そのようなことで晴れるわけもなく、私は仕方なく「眩しい朝日ですね」と小さくつぶやくことでやるせない気持ちを紛らわすことにした。
振り返って部屋の中を改めてみてみると少し散らかっている。この状況では人を招くこともできない。
そもそも友人と呼べる人など今のところいないのだけど。昨日の段階で二人と話すことになったが名前すらも聞けていない。今更ながら後悔する。
「それより、片付けないといけませんね」
昨日は疲れてまともに片付けできないまま、吸い込まれるようにベッドに入ってしまった。
シャワーを浴びるときに脱いだ下着がそのまま椅子に引っかかるように垂れ下がっている。
「とりあえず、見られて恥ずかしいものは片付けないと……」
私は薄ピンクの下着を片付けることにした。今から洗濯をするのも時間的に余裕がないため、今日帰宅してからすることになるだろう。
衣類をある程度片付けた頃にはすでに時計は七時前を指していた。そろそろ登校の準備をしないといけない。
昨日と同じ会場で八時に集合するように言われている。クラス分け試験の結果が発表されるようだ。それを聞いてからそれぞれ教室に向かう段取りとなっている。
多くの人が憧れる魔法学院の制服に着替える。
姿見で改めて自分の容姿を確認してみる。
数日前、孤児院で私のことを担当してくれていた人がせっかくの一大イベントなのだからと美容室へと連れて行ってくれた。
それまで長かった金髪はバッサリと切り落とされ、今は肩に少しかかる程度だ。それに童顔の顔立ちと大きな青い瞳は昔から可愛いと言われていた。対して体型はかなり大人っぽい雰囲気を醸し出していると自分は思っている。
自慢ではないが、美容室の人も綺麗だって褒めてくれた。姿勢も変な癖があるわけでもない。この制服も似合っていないはずがないのだ。
それから私は堂々と魔法学院の生徒であると意識しながら、昨日の会場へと足を運ぶ。
この会場はもともと貴族と庶民とが分かれていたときの名残らしく、ところどころ威厳ある装飾が施されている。
昨日はそこまで意識してはいなかったが、改めて見渡してみると荘厳とした雰囲気を漂わしている。
そして、会場の中へと入ると一気に雰囲気が変わった。空気がピリついている感じがするのだ。それもそうだ。これからクラス分けの結果が発表される。
どこに所属することになるのかみんな気になっていることだろう。生徒の中には学院に入る前から知り合いだという人も多いらしい。
競争意識が高いのかどうかは知らないが、この空気感はあまり好きにはなれなかった。
会場へと入ると好きな場所に座っていいようで、空いている席に私は座ることにした。集合時間の十五分以上早く来たつもりなのだが、席はほとんど埋まっていた。
今座っている左右の男女は貴族なのか佇まいがしっかりしている。右の女性は気品あふれる美麗な方だった。横目で恐る恐る左の男性を見てみる。気品溢れる佇まいは変わりないものの、見た目だけといった印象を受けてしまった。なんて、貴族でもない私が何を言っているのだろう。
「予定よりも若干早いですが、みんな揃っているようなので始めます」
左右に気圧されないように佇まいを正していると壇上へとミリア学長が登壇した。時計を見てみると開始の五分ほど前となっている。
「ちょっと緊急で連絡することがあるから簡潔に言います」
そう彼女は一呼吸置いてから説明を始める。
「パンフレットには一組から五組までの学級に分けて授業を行うと連絡していましたが、諸事情により、もう一クラス分増やすことになりました。そのクラスは形式上、六組としますが、まだ魔法を扱えない生徒を対象としたクラスのため他とは違った授業を許可することにしました」
いまいちよくわからないのだが、左右の男女はどうやら納得しているらしい。
魔力を持つ人間はほとんど自然と魔法を習得することができるそうだ。少なくとも魔力を注ぐ、ということに関しては感覚的に覚えているものらしい。
しかし、私も確実に魔力は持っているものの未だに魔法を扱えたこともなく、魔力の正しい注ぎ方というのも知らない。昨日の試験でなんとなく感覚はわかったような気がするだけだ。
「仕方のないことですが、魔力を持つ者に平等の魔法教育をという魔法学院の信念に従って今回の決定を学長である私が下しました」
確かにそんなことをパンフレットに書かれていたような気がする。
続けて、彼女は言葉を続けた。
「そこで、一組の担任を予定していたエビリス・アークフェリア先生とその助手が急遽新設した学級の担任となることになりました」
「うそっ」「うそだろ」
左右からの声に私はビクッと肩を震わせた。主に左からの声と圧力が強かった。
「一組の新しい担任はエレーナ・スレストバーク先生です。彼女は学生寮の監督をしていたこともあり、さらには軍の特殊部隊にも配属されていた実力者ですので一組の新しい担任として適任だと判断しました。緊急の連絡は以上で終わりです。それではクラス分けの結果は出口で受け渡します」
予定としては学院としての形式的な話が行われるはずだったようだが、このような緊急の連絡となってしまったということはかなり急な決定だったということらしい。
私としてもどうしてそうなったのかはわからない。そもそも魔法をまともに扱えない私が理解できるようなことではないのだろう。
すると、若干のいらだちを見せながら左の男性が荒々しく席を立った。声には出していなかったが軽く舌打ちしたような気がした。やっぱり彼は見た目だけだったのだろう。
「……驚かせてしまったわね。大声を上げてしまい失礼しました」
すると、右に座っていた女性が気品よく立ち上がって私に話しかけてきた。
「い、いえ、私は気にしてませんからっ」
「ふふっ、エビリス先生とは個人的に縁があったもので担任だったらと期待していたのよ。ただ、今回の決定には納得してるわ。仕方のないことね」
「憧れの先生だったのですねっ」
「憧れ、そうなのかもしれないわね。身勝手なことだけど」
そう彼女はどこか恥ずかしそうにそう話した。
「身勝手でもいいのではないですか。少なくとも欲がない方が問題だと思います」
私は彼女の身勝手な思いを恥ずかしいものだと思ってほしくない。
どうしてそう思ったのかはわからないが、彼女からは身勝手と言う一言で表してはいけないなにかがあるような気がした。
「……あなたの言うとおりね。人たるもの、欲には忠実でないといけないわね」
「で、ですけど、節度は守るべきかと……」
「そうね。節度よく、自分に忠実にね」
そう言うと彼女はなにかが面白かったのか小さく笑った。
「紹介が遅れたわね。私はリフェナ・ウォーレリアよ」
「あっ、セルフィン・アルンドールですっ」
戸惑いながらも初めて自分の名前を同年代の誰かに話した。
まさか、魔法学院で知り合った最初の人はなんと大の付くほどの貴族の方だった。それもかなり有名だ。
孤児院育ちの私でも知っているウォーレリア一族の話は伝説に近いものとなっている。
得意なのは結界防壁魔法というものらしく、大砲ですら傷付けることができない防壁を作り出す特殊な魔力を持った魔法一族だ。
直接見たことはなかったが、絹のように滑らかで美しい銀髪の家系だと聞いている。その言葉通りの髪を胸下まで下ろしており、その若草色の明るい黄緑の瞳はまるで宝石のようにも見える。
全体的に気品あふれる印象だが、一度話してみるといい意味で貴族らしくないというか、話しやすい。
「学級は違うかもしれないけれど、これからもよろしくね」
「はいっ、私からもよろしくおねがいしますっ」
「ふふっ、それと無理して背筋を伸ばさなくてもいいわよ。学院内は貴族も平民も関係ないのだから、もっと気軽にね」
そう彼女は言い残して鞄を手にすると出口の方へと歩いていった。
色んな意味で美しい方だった。あんな人になりたいなと思う自分だが、きっと届かないことだろう。あんなにも余裕のある言動はできない。
私も教材などで重くなった鞄を手にして出口に向かうことにした。クラス分けの結果は個人で伝えるようだ。
確かに掲示板などで一斉に発表するとかえって混乱するだろう。それに個人の尊厳を守るためにも必要なことなのかもしれない。掲示板に掲げられることで傷付く人も少なからずいることだろう。
私は出口で名前を伝えると先生の一人が顔写真と見比べてから私に二つ折りにした用紙を渡してくれた。開いて内容を見てみる。
どうやら、私は六組の生徒のようだ。新設された学級で特別な授業も行うと学長から説明されていた。
普通ではないのかもしれないが、これもまた運命というもの。それに私は強い魔術師になることを目標としていないのだ。どんな学級であれ楽しい学院生活を送ることができれば私は幸せなのだから。
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