差出人は知れず

黒瀬 木綿希(ゆうき)

プロローグ


 目覚まし時計がけたたましい音を立て、朝が来たことを知らせる。体を起こした私は目をこすりながら違和感に襲われ「まただ」と呟くのだ。また、目元が涙で濡れている。ここニ、三ヶ月そんな日が増えた。ペースで言えば週に一回か二回くらい。

 悲しい夢でも見ていたのか、これから起こる不幸の前兆なのか、オカルトに疎い私には皆目見当もつかない。でも不思議と悪いことが起こるとは思えないんだ。だって、涙を流した朝はいつも心が温かいから。だからむしろ良いことの前兆のような気がする。ただの勘だけど。


 その夢にはいつも同じ人が出てくる。それも、知らないおじさん。お父さんでも親戚のおじさんでも学校の先生でもないけど、優しくて、でもちょっとだけ口うるさそうなことだけは分かる変な人。

 今日もその人と話をしたんだと思う。でも、何を話したのか全然覚えてない。時間が経つにつれてどんな顔や声だったかも忘れていく奇妙な夢だ。

 おじさんは誰なのか、私になんの用があるのか。きっと理由があるはず。でも心当たりがまるでない。いつしか結婚して、子どもを産んで、忙しさにかまけてこの夢すら見なくなり、あの不思議なおじさんのことまで忘れてしまうとしたら、それは少し惜しい気がした。

 

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