大混戦スマッシュ・ゲームキャラウォーズ

帝国城摂政

大混戦スマッシュ・ゲームキャラウォーズ

 ----『みるらばちゃん』。

 それは、バトルと学園生活を両方楽しむ学園伝奇ジュブナイルの新作RPG【ティアー・アルタイル】という作品の登場キャラクターである。

 

 本当の名前は、長峰ありすというキャラクター名なのだが。

 PVで彼女が言った「見るらばっ!」という言葉が独り歩きしてバズりまくった結果、ユーザー達によって付けられた愛称が『みるらばちゃん』なのである。


 癖っ毛のある水色のエアリーボブヘアーと、愛らしさ溢れる童顔が特徴の、女子高生キャラクター。

 新進気鋭のイラストレーター『もち太』氏によって描かれたこのキャラクターは、ゲームプログラムの中で、皆の元に届くことを青い電脳空間の中で、今か今かと待ち望んでいた。


「うわぁ、楽しみだなぁ! ワクワクだなぁ! みんな、私の事を愛してくれると嬉しいなぁ!」


 『みるらばちゃん』は嬉しそうに、リリース開始を待ち望んでいたのである。

 ゲームキャラクターにとって、ユーザーに遊んでもらう事こそが一番であり、リリース前は一番気持ちがたかぶる、嬉しくなる瞬間であった。


「良いなぁ~、『みるらばちゃん』は。ボクも早くリリース開始を迎えたいくらいよ~」

「待ってればすぐに来ると思うよ。確か3か月先のリリースだっけ、姫鍵なぎさちゃんが入る追加DLCは」


 銀色のショートヘアーに、意味ありげな熊模様の眼帯をつけた少女。

 【ティアー・アルタイル】の追加DLCストーリーにて登場のキャラクター、それが姫鍵なぎさちゃんである。


 姫鍵なぎさは、【ティアー・アルタイル】の登場キャラクターの1人ではあるが、本編登場キャラではない。

 追加DLCこと、ダウンロードコンテンツを買った人だけが遊べるストーリーに登場するキャラクター。

 ちなみに、価格は880円。


「でも、ボクは追加DLCだからね。もしかしたら、遊んでもらえないかもしれないじゃない」


 確かに、ゲームを買う全てのユーザーが、DLCを買うという保証はどこにもない。

 だからこそ、追加DLCキャラであるなぎさは、もしかしたら1人も遊んでもらえないんじゃないかって、心配しているのである。


「大丈夫だよ、なぎさちゃん。シナリオライターさんが書いた、この【ティアー・アルタイル】はものすごぉぉく、面白い作品だよ!

 絶対、みんな追加DLCを買ってくれるって。信じようよ、クリエイターさん達を」


 『みるらばちゃん』が微笑みながらそう言うと、なぎさちゃんも安心した様子で


「そう、だね。ストーリーも、ゲームシステムも面白いって前評判も高いしね。

 なにより、クリエイターさんを信じて送り出される事こそ、キャラクターの務めだもんね!」

「その通りだよ、なぎさちゃん!」


 安心したなぎさちゃんを見て、ホッと一息つく『みるらばちゃん』。


 そして----遂に、時は訪れた。



 ----4月5日、0時0分0秒。

 【ティアー・アルタイル】のリリース開始である。


 そして、『みるらばちゃん』は購入された【ティアー・アルタイル】と共に、一緒のデータとなって、ネット世界を駆け巡る。



「行ってくるね、なぎさちゃん! ユーザーさん達をメロメロにして、必ず神作の仲間入りしてくるから!」



 そうして、広大な電脳空間を潜り抜け----



 …… …… ……

 …… ……

 ……



「『初めまして、(主人公)さん! 私の名前は長峰ありす! ここからは、私の活躍をみるらばっ!』……って、あれ?」


 ゲームテキストの文章を読み上げた彼女は、そこで違和感に気付く。


 真っ黒、なのである。

 星がキラキラと輝いているところを見ると、どうやら夜空のようだ。


「おっかしいなぁ? 私の1番最初の出番は放課後で、夕焼けだったはずなんだけど……」


 なにかが、変である。


「あれ?! 地面がないっ?!」


 そこで彼女は、違和感の正体に気付いた。

 そう、地面がなく、浮いているのだ。


 そう、彼女がいるのは、宇宙空間。


 【ティアー・アルタイル】は学園伝奇ジュブナイルRPGではあるが、あくまでも舞台は現実の地球を再現した世界である。

 地面がない、宇宙空間なんてステージは、存在しないはずなのだ。


「どうなってるの、私?! ゲームのバグかしら?」


 と、辺りを見渡して、彼女は目の前の"それ"に気付いた。


 凸、である。


「えっ……?」


 デコボコとした凹凸のことではない。

 凸である。


 彼女の目の前の、宇宙空間にいるのは凸。

 凸としか言いようがない形をした、宇宙船である。


 そして、凸は、青白いビームを放ってきた。


「うわぁ?!」


 『みるらばちゃん』が避けると、後ろから"10pt!!"という文字が浮かんでいた。


「えっ、なに……って、ええええ?!」


 いきなりの"10pt!!"に驚いて後ろを振り向くと、そこに居たのはタコ型の敵キャラ。

 ((+_+))みたいな、そんな顔をした白と黒の敵キャラである。


「まさか、ここって----【スペース〇ンベーダー】ゲーム?!」


 『みるらばちゃん』はあり得ないと、声をあげる。

 

 スペース〇ンベーダーは、有名なシューティングゲームである。

 タコ型の宇宙人を、凸にしか見えない実機で撃ち落としていくという、今は懐かしきレトロすぎるゲーム。

 今日発売の新作ゲーム【ティアー・アルタイル】とは、似ても似つかないゲームなのだ。


「どうして、私……こんなゲームの中に……」



「なっ、なんじゃこりゃあああ!!」



 と、『みるらばちゃん』が困惑していると、後ろの列----最上段の方から、人の声が聞こえてきた。

 懐かしレトロゲームにはない、キャラクターボイスである。


「もしかして……」


 『みるらばちゃん』はタコ型宇宙人の敵をかき分け、最上段へと昇ると、そこに居たのは----トレンチコート姿の、探偵のような風貌の男であった。

 ただし頭は虹色のゲーミングカラーヘアーで、ヘッドホンとサングラスをつけた、パリピみたいな恰好ではあるが。


「あなた----もしかして、【リズム探偵MR】のリズミー!?」


 【リズム探偵MR】は、【ティアー・アルタイル】とは別会社が作った、リズム探偵推理アクションゲームであり、【ティアー・アルタイル】と偶然にもリリース日が一緒のゲームである。

 リズム探偵リズミーはそのゲームの主人公であり、リズムゲームで脳細胞を活性化させることで、推理を華麗に披露するという推理パートを合わせた、独特なゲームの主人公。

 他社製品ではあるが、同じリリース日でもあるということであって、電脳空間で度々顔を合わせていた間柄であった。


「そういうお前は、『みるらばちゃん』か?! ここは【ティアー・アルタイル】か?!」

「いいえ、【ティアー・アルタイル】にこんなステージはないわ! 【リズム探偵MR】には?」

「こちらも同様だ。一応、最終ステージ前の"宇宙そらに羽ばたく殺人鬼思考"ステージに宇宙背景のステージはあるが、それだってタコ型の敵とか居なかったんだけど……」


 つまり、これは2つのゲームのキャラクターが、全く別のゲームに巻き込まれたということだ。



 ----ぴゅんっ! ぴゅんっ!!



「「うわぁっ!!」」



 2人でどうした物かと顔を見合わせていると、ビーム攻撃が飛んできた。


 凸である。

 凸がビームを撃って、自分達を倒してポイントを手に入れようとしてきたのだ。


「えぇい、考えるのは後よ! リズミー、攻撃手段はあるかしら? 私の攻撃手段、殴る蹴るの喧嘩殺法だから、あの凸に効くかどうか分からなくて」

「『みるらばちゃん』、こっちはリズムゲームだ! 音ゲーに攻撃手段を求めないで欲しい!」


 あーだ、こーだと、凸のビーム攻撃を避けながら、2人は何とか反撃する。


 凸は左右にしか動けず、ビームは1方向からしか出ない。

 そんなレトロティックな使用を持つ凸に、最新のゲームキャラである『みるらばちゃん』とリズミーが対応できるのは当然であった。


「なんだったのかしら、これは……」

「ボクも、びっくりだよ。まさか、お互いの攻撃が効くだなんて」


 2人は、凸との戦闘で確信していた。

 自分達のゲームの仕様が、そのままバトルに活かされていると。


 『みるらばちゃん』の移動しながらスキルを使う、対戦型格闘ゲームのようなリアルファイトなシステム。

 そして、リズミーの、リズムに乗れば乗るほどダメージが上がるシステム。


 どちらのゲームの仕様も、この世界で通用していた。


「バグかしら? でも2人揃って?」

「うーん、リズムに乗ってないだけではなく、難題な事件が気がするよ、これは」


 『みるらばちゃん』とリズミーの2人が、どうしようかと頭を悩ませていると



『聞いてください。本編から外れたゲームキャラクターよ』



 優し気な、というか感情を感じさせない抑揚のない声が、2人の耳に届いていた。


「まさか、あれは……!」

「そんな、まさか……!」


 2人は、その人物----というか、マークに驚いていた。



 そこに現れたのは、四角形が4つ並んだマーク。

 ----Windowsロゴのマークである。


『今、このゲーム世界は、特殊なバグの発生により、当初の製品ではないゲームに無理矢理登場させられるというバグが発生しております。

 この問題を解決しなければ、ユーザーは困惑し、ゲーム業界に危機が訪れる事でしょう。

 皆様、どうか私達を遊んでくださるユーザーさんのために、私の言葉を聞いてください』


 

 訳が分からなかった。

 バグ? 危機?


 ただの『1』と『0』で表現され、生み出されたゲームキャラクターである2人には、分からないことだらけであった。


 しかし、1つだけ分かることがあった。


「「やりますっ!!」」


 ゲームキャラとして、ユーザーを満足させる責任があると。



 こうして、『みるらばちゃん』と探偵リズミーは、ユーザーのため、バグ退治の冒険に出る事になるのであった----。



 この時の2人は、知らなかった。

 

 弾として金貨1枚投げる、銭ゲバ忍者天使も。

 バイクに乗ったまま、剣で斬りつけてくる姫騎士も。

 常に血だらけの、狂人にしか思えない料理人も。

 敵に黒いマスクをつけて配下とする、悪徳魔法少女も。


 今はまだ、彼らは知らない話である。

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