オレと河原と夏祭り

夕焼け、たこ焼き、焼きそば、イカ焼き、焼き鳥、様々な焼が集まる夏祭り。ここにオレが来た。

そして、流星が目の前に落ちてくれた。


「浴衣」


「うむ、そうだ。なにか不憫ふびんでも?」


心配そうに浴衣の隅々まで確認する。だが全く問題はない。問題があるとすればオレの心に超新星爆発が起きそうなこと以外は無い。


「いいえ、ありません」


「そうか。それならば良いのだが。どうだかね、私と勝負をしないか?」


会長は得意げに何かを構えて撃ち抜くポーズを取る。どうやらオレの心を撃ち抜きたいようだ。しかしあえて、白々しく問おう。


「と言いますと?」


「射的、夏祭りの定番、そうだろ」


「……いいでしょ。何にしますか?」


「おまかせ」


暗黙に伏せた賭けを理解し、返答は最もオレにとって都合がいいものになった。

それはつまり、あれやこれや、あんなことこんなこと様々である。


「さーて、何をしてもらおうか」


射的の答えはオレの負けである。

チャンスは無くなった。


「そうだなー」


チャンスは無いが希望はある。期待に胸を膨らますが、顔には表さない。


林檎飴りんごあめ林檎飴りんごあめっ!食したことがないんだ。日本の名物と聞く」


もちろん約束を守る、希望を銭にして。


「美味しいね」


「そうですか、他人のお金で食べるのは美味しいですね」


「むぅ、君は意地悪だな」


それでも太陽はりんご飴を取り込む。

日暮れだからか、太陽はそれほど赤くないしかし、それにはそれの魅力があった。


「そうだな、もう1回チャンスがあるとすれば、君も喜ぶか?」


「もちろんですよ。文句の「も」どころか「M」すら言いません」


これ程嬉しいことは無い。だからこそ今度は……


「……会長」


あると信じ続けたそれは突然居なくなる。

すぐに分かるわけもない。太陽とは8分の距離があるからだ。


把握、理解、不安、焦燥。それに至るにも8分かかるだろうし。


そして、今日、会長とペアルック浴衣にしなかったことを本当に喜んだ。でないと走りにくい。


多分今のオレの意識が司令塔なら、全細胞に今まで出した力すら超える力を求めていただろう。それほどに太陽に近づきたかった。それほどに、太陽から離れたくなかった。オレは今は地球なのだろう。太陽を恩恵を受けて生きるだろう。

それらのためにも太陽は見つけ出す。


心臓がはち切れそうに走った。何故だろうか、今日はあの日よりも辛い。

同じ、同じ症状なのにどうして辛いのか、それを分かろうとしない。何故なら分かった時はもっと辛いからだ。


光の見えない銀河で、太陽を、見つけた。


「会長!」


言いたいことは多い。原稿用紙何枚部なのか分からないが、数え切れないだろう。

しかし、今はこの一言だけでいいと思えた。

たった一言によって証明された1人の存在を。


「君はどうして私と会う時にいつも汗をかくのだ?」


本来ならば、こうはしないだろう。憧れの会長を真似る。それが偶像崇拝の一環だった。だが、この時はオレが最も出た時だろう。


「君、痛いな」


だが、それでも離さない。離したくなかった。二度と。


「ほらこれでも飲むといいよ。私の飲みかけですまないが」


会長の手より渡されたペットボトルのスポーツドリンクを少し眺める。

オレの頭には単純な思考しか出来ない。

飲んだ。それは複雑な思考が出来てもたが。飲んだ。


「か、会長」


カラカラな喉の乾きの、カラカラをペットボトルに移してから、オレはまともな判断ができた。


「なんだい?」


「……」


まともな判断ができるからこそ、今言わねばならない事を分かった。


「会長!オレ、オレ、会長の事がーー」


花火の音が2人にプライベートな空間を築く。


「私もだよ」


花火の光が2人にプライベートな時間を築く。


「うっ!」


会長からオレに向けた手はオレの後頭部を包み、引力を体験させた。


そして第三のブラックホールがついにオレを飲み込んだ。


刹那せつな浮生うきよ戒律かいりつはこの時をもって定まった。


もしオレが小説家なら、こう書き綴っただろうーーー【恋は塩っぱい汗と甘い林檎の味】と。


そして天文学者なら、こう書き綴っただろうーーー【太陽はブラックホールであり、ホワイトホールである】と。


✤✿✤✿✤


「あれ、かいちょーじゃん。かいち」


大きな声で対象に呼びかけようと、手まで上げていたのにも関わらずある男によって止められる。


「静かに」


「ふい」


男は女性の耳元で呟くように言う。女性の返事は男の手によって完璧に発音されなかった。


「熱烈なカップル誕生、花火と共に見届けよう」


「はい、前かいちょー」


「オレはもう卒業してる。それに名前で呼んでくれよ」


「はいはい」


女性は男の手を解くと男に向き合う。

男の手を引っ張って、自分の背後に持ってくる。


「……君もか」


「そうですよ。私もです!ここであったら百年目ですよ」


「なんだか違うと思うが」


見つめ合う2人に新たな時空が誕生する。

光線に紛れる2人は同じ味、青春アオハル時代の味を感じた。


✤✿✤✿✤



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