オレと自宅とご訪問

クマを隠す為に寝るが簡単には寝れない。

安定のために瞑想をするが星すら見えない。

夜を朝に変えても、闇は続く。

ならば闇を晴らす太陽を待つとしよう。


手が届くにはあまり距離が長く、目で見るにはあまりにも近い。しかしそれでも手で触りたい、目で見られたい。


光の速度は無限では無い。その速度に追いつけるのならオレは果たして、光の横にいるのだろうか。

それならば太陽に近づけたと言えたのだろうか。


延々と続く思考は口うるさく、オレの脳を使う。しかしたったひとつの音がオレの全てを使わせた。


ピンポン


薪炎しんえんの中でことわりが人を助ける。それは居てもよい場所、居たいような場所。それを作った。

それが活躍するのは今だろう。


「ごめんください」


「はい!」


「はやっ!なにか、君はまさか、私が来るのを玄関で待っていたと。違うのなら恥ずかしいのだが」


「とりあえず入ってください。外はお暑うございまので、是非とも冷えた部屋にどうぞ」


「緊張しているのかい?やめたまえよ、初めてだが、私から恥ずかしくなる。それとこれ、手土産だ。受け取ってくれ」


「ははあ、頂戴致します!愚妹ぐまい!ちょっと来い」


「誰が愚妹よ、このバカ兄。すみませんね会長さん、うちのバカ兄が粗相を」


痛みで脳の一部を使えられるようになった。しかしまあ、思い鉄拳が土下座しているオレの脳天に刺さる。


「あまり気にしないでくれ。お口に合うと良いだが」


「これは」


「手作りのシュークリームだ。あまりコッテリなものにはせず、いくつも食べやすいように仕立てた。体調不良ねっちゅうしょでも食べやすいだろう」


丁寧に重々しく、扱ってくれる妹には感謝しかないが、一応兄であるオレを立ててくれ。


「本当にすみません!うちのバカ兄が」


妹はオレの既に下がりきった頭をさらに下に下げるべく強く押し付け、自分の頭をも深々と下がっている。すまないが妹よ、もっと下げるべきだ。90度では足りないぞ。


「もう、いいんだ気にはしてない。それよりも顔をあげてくれ。あまり仰々ぎょうぎょうしくされるのは慣れないんだ」


「後で土下寝どげねを練習されるんで校内で晒してください。それはあたしはこれを冷蔵庫に入れてきます」


妹は逃げるかのようにそそくさとキッチンに向かった。


「あっそうだバカ兄、ちょっと友達と図書館で夕方まで勉強するから」


「お前、暇って言っていなかったか?」


「黙ってろバカ兄。それじゃ」


妹が自分の部屋に入って着替えを始めた。全くなんのつもりだ、オレに嘘をつくなんて。

脳の1部しか動かせれてないが、全て動かせれたら分かるかもしれない。しかし今できることでは無い。


「どうぞお上がり下さい」


「それではお邪魔するよ」


サンダルを脱いでオレの部屋に入る会長。白いワンピースはガンガンに効かせたクーラーの風を浴びてヒラヒラと揺れ、会長の体型を顕にする。小宇宙コスモの神秘はその形も関連するだろう。


「これは……」


「これは「セレノグラフィア」、ヨハネス・ヘヴェリウス、ポーランドの天文学者。望遠鏡を使って月を観測し、月面図を描いた人。すごいんですよ。月を初めて描いた人なんですよ!いつでも見れる月をよりはっきり見て、その上にそれを描こうとして描いた人」


「そしてこれは……」


「「ウラノメトリア」、ヨハン・バイエルが描いた星図だ。ドイツの法律家。なのに精密で、初めて、空を全て描いた星図。諸説はあるが、法律家が星図を描く。最高に面白くて、最高にクール、そんなこと考えずにはいれらない。だからオレはヨハンが描いた。そう、信じている」


「君、星に興味があったのか」


「意外でしたか?」


熱弁に驚かない。それは会長もだ。


「いや、そういうわけじゃないんだ。そのなんだ。ロマンチストというかなんというか。だが興味深い趣味だ」


「会長も興味をお持ちで」


「ああ、と言うよりも全てに興味を持つタチと言うべきだな。だが君の説明を聞くと、宇宙について、より興味が湧いてきたぞ」


「もし、機会があるならプラネタリウムでも見に行きましょ」


「ええもちろんだ。楽しみにしている」


会長は笑っていた。オレも笑っていた。もとより初めてだろうここまで気の合う人は。そしてこれからここまで気の合うは居ないだろう。

初めてにして最後の一人。

黄金おうごん螺旋らせんの「終わり」は「始まり」、「始まり」は「終わり」。

故に初めりで終わりは定まった。

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