オレと会長と小宇宙
秋霖 幽鬼
オレと学校とお約束
宇宙、銀河、太陽系、地球、日本、学校。
もしーーもし、その恩恵を得られたらオレは後悔するだろう。
体の水分が奪われて、心臓の音が鮮明に聞こえる。しかし、聴きたい声は聴こえない。目から見えるものは事実上の目の前になる。しかし、見たい人が見れない。
この歩みはタイトルを付け始めた。
「
そしてオレは二つのブラックホールに飲み込まれていた。
「……て、…ざめて、目覚めて」
ブラックホールに入るとホワイトホールに出る。非科学的だが、文学的にその
「おい、コラ。寝ようとするな」
「……」
「狸寝入りをして無駄だ。私の眼下ではね。それよりチクチクするぞ」
得意げに言われたその声は、世界最高峰の調律師ですら、合わせられない声で、その言葉はオレの無意識な行動をピクリと止めた。どうやら第二のブラックホールに頭の後頭部を擦っていた。
第二のブラックホールの持ち主は少し待ってもブラックホールをそこへと起き続きた。彼女の生来の
「うむ、独り言となるのか。なにか、恥じらいを感じるな」
彼女は自身の誤診に顔を赤らめていた。かつて彼女が間違えたことは、そばとうどんを混雑に間違えたり、箸をフォークとナイフのようにして食べたこと以外にない。
例えば、ここで起きなければ、オレの知りうる彼女の第三の「間違い」になる。
オレにとって聖典とも言える、彼女の辞書に今、一筆加えることをオレの良心がそれを許さない。
「会長、今起きました」
「むぅ、君と言う者は、私をからかうのが好きなようだ」
彼女は依然として以前の体制を取り続ける。それ故にオレはこの柔らかさに乗り続けられた。彼女から聴いていない質問に正直で変わることの無い、答えで答える。
「そんなことないですよ。オレはかわいい会長を見るのが好きです」
オレは終始真顔で言う。その事の意味はポーカーフェイス以外にない。
「そう言われて悪い気はしないのだが、どうも君に言われるむず痒くて仕方ない」
「それでは掻きましょうか?どこでもしますよ」
オレはそう言いながら後頭部の第二のブラックホールに手を伸ばして摩る。実に滑らかで、ぷにぷにである。
「いや、いい。それより君が頭を上げることを私は願っているのだが」
「そうですか」
「むぅ、君のその行動はわざとかね?」
オレは会長に言われるままブラックホールから抜け出し、その上にあった、会長と相対な双円の第二のホワイトホールにのめり込んだ。
「これが相対性理論です。不可抗力です」
「それを言うなら引力と言いたまえ。簡潔にして即決だ」
「ご自覚あったんですね」
「無論。特に君が証明してくれる」
「そうれすは」
最深部に到達すると発した音と聞こえてくる音は違う。引力は全てを引きずり込むようだ。ならばオレが引きずり込まれるのも仕方の無いことだ。これが
「さあ、離れてくれ、仕事が手につかん」
「つまり、オレにはそれだけの魅力があると。オレは罪な男です」
全てから抜け出したオレは地球の室内で宇宙の神秘を眺める。
「……」
「……なにか酷くないですか?」
「なにが?」
「いいえ何もありません」
彼女は人を解き放つと、電脳に向かった。
眼鏡をかけて知的に感じるが、かけようとなかろうと、彼女は名実共にトップである。
「それより……」
「それより?」
言葉の詰まるオレの唯一存在した言葉を繰り返す。
「な、夏祭り。行きませんか?オレと」
言葉としては支離滅裂ハチャメチャそのものだった。どうしてだろうか。顔は分からないと表すが、心では分かっていた。
「
「会長、オレをからかうのが好きなんですか?」
「君に言われるのは心外だな」
「で、どうなんです?」
顔では
「いやだ。用事がある」
ここでのこのような言葉は容易に想像できた。しかし伏線があるなら、今が回収の時だ。
だけど、もう少し、オブラートに包むかと思った。故に心に刺さる。
「オレ、また熱中症になりますよ」
「うっ、き、君というものは体を大切にしないのか?体を担保にするのは…どうも関心出来ない」
会長は平然を装っているだろう。証拠に言葉にどもりが入っていた。
「そうですか。夏休みだと言うのに。わざわざ会長にこれを伝えるためだけに来たのに。どうやら無駄足だったようですね。ああ、残念ですね」
それはもうわざとらしく、
「むぅ、君、あまりにも酷いぞ。私の良心の呵責を使うだなんて」
「ああ、とても残念ですね。他の人から夏祭りの誘いがあるにも関わらずもう断ったのに、今更、「悪いやっぱり行ける」というのもなー。恥ずかしいというかなんというか」
嘘である。前半はともかく、後半は嘘そのものである。しかしは会長はソワソワしていて落ち着きがない。あの会長がこうなるのは見たことがあるが、今回は困惑することがない。
「あーあー、このまま熱中症になる恐れのまま帰りますかぁー」
ゆっくりと生徒会の扉を開き、サウナのような外へと一歩踏み出す。会長は以前とソワソワしていた。
そして熱気が会長に触れると会長は決意したようで、オレの服の袖を掴む。
「わ、分かった。いく」
「なんですか?」
もちろん聞こえている。蚊の鳴くような声だとしても聞こえているだろう。そもそも蚊という表現がおかしいけど、例えるならば、鈴虫だろうか。いや、違うな、虫であることがおかしい。つまり、ヴィーナスの鳴くような声でも聞こえているだろう。これに違いない。
だが、その清涼な声がどんな声量であろうが、あえて聞こえないふりをする。これが至高である。
「分かった。いく。行ってやる!とことんその
声を荒らげて放たれるが、何ら不快感はない。むしろ至高であると再認識できた。
「
「待ちたまえ、熱中症は?」
「あっ、迎えが来てるんで大丈夫です」
「君、今の言葉を取りやめにするぞ」
「ならこれを」
そう言ってポケットに忍ばせていたボイスレコーダーを取り、録音に成功した至高を繰り返す。
『
「もういい、やめてくれ。分かった。拒否はしない」
「それでは夏祭りの日に」
「その前の日に君の家にいく」
会長はボイスレコーダーから至高を聞いた時から悩ませていた頭を上げて、オレを見つめて言う。このことにはどうかなるはずもなく。オレも見つめた。
「許可をくれないか?」
「もちろんです。それでは」
会長から早足で遠のいたのは断じて、思考を間違えて恥ずかしいからでは無い。迎えを待たせないためだ。しかし、太陽というものは神秘的だ。少し直視するだけで、こうも瞳の中に影を残すとは、おそろしやおろそしや。
✤✿✤✿✤
「かいちょー、ジュース買ってきましたよーってあれ、扉が空いているな」
廊下より凛とした女性の声が響き渡る。
言葉に尊敬は感じるが、それでも軽々とした雰囲気だった。
「す、すまない書記、閉め忘れていた。代わりに閉めてくれ」
「はーい、にしても、かいちょーが閉め忘れるなんて珍しいですね」
どもり、赤面、震え声、どれも会長が人に見せたことがあまりないことだ。それに女性も驚く。しかし側近だけあって。他人ほど驚くことは無い。
「少しボーとしていてな」
「大丈夫ですか?!熱中症じゃないんですか?ちょうど良かったですよ。これスポーツドリンクです」
原因に近いものを知ると女性は先程とうってかわって、狼狽して、目を大きく開く。
水滴を携えたそれを受け取り「ありがとう」と会長は言う。
✤✿✤✿✤
「どうだ?会ってきたか?」
「はい」
質素な軽自動車の中にオレを待っている男が1人。校内に止めていた。
「でどうだったんだ?」
「……」
「どうたっただよ!」
「あ、はい」
さっきのことを真実であると何度も心の中で確認するのに神経を使っており、質問に答えていなく、もう一度聞かれても反射的に答えた。
「お前なー。これでも飲んどけ、熱中症なんだろ。冷やしてある」
水滴を携えたそれを受け取り「ありがとうございます」とオレは言う。
✤✿✤✿✤
2人は多分、当時に同じ味を感じた。甘く、優しく、それでいてどこか、刺激的で、感動的な、潤いだった。
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