第2話 呼吸税

 年月を遡ること10年。西暦29XX年。地球温暖化は年を重ねるごとに悪化している。


 21世紀初頭に計画された2050年までの地球温暖化対策など実現不可能でいつの間にか私たちの頭からは消え去ってしまっていた。


 21世紀前半まで、あれほど盛んであった戦争もパッタリとなくなり、各国は地球温暖化に頭を悩ませていた。


 そこで温暖化を完全に阻止することを諦め、温暖化のスピードを落とし、国民が残りの時間、豊かな生活を送れるような政策を行なうことに決めた。




 急遽、ある都市で国際会議が開かれ、各国の首脳たちが一斉に集った。


 会議では地球温暖化に対する今後の人類と地球との共存、人間生活の中で発生する各国の二酸化炭素の量などが話し合われた。


 会議の議長が言った。


「地球温暖化のスピードを落とし、国民に豊かな生活を提供でき、資金も用意できるような案をもっている者はいるか」


 議長がそう告げた後、会場に沈黙が訪れた。その沈黙を破るように、小国の首脳が手を挙げた。


「人間生活において塞ぎきれない二酸化炭素とはなんでしょうか。今までしてきたように、自動車や交通機関の出す二酸化炭素は防ぐことが可能です。しかし、生きていく上で全人類がせざるをえないこと。それは呼吸です。これに税をかけることで人の呼吸が抑えられ、私たちにもお金が入るため、より経済を発展させることができ、人々により良い生活を提供できるでしょう」


「それを実践するにしても効果などの面を考慮して、試作時間がかかるのではないでしょうか」


 と一国の首脳が話を遮って聞いた。


 すると、小国の首脳は、


「私の国では既に呼吸税を導入しております。確実に地球温暖化のスピードを遅らせていると断言できます。また、我が国ではこれまでの収入の2倍もの資金を得ることができました。この政策は世界中で行ってこそ意味のあることでないかと考えます」


 と述べた。


 実際、彼の国は小国にも関わらず、ここ数年で目覚ましい経済発展を遂げていた。そしてなにより、彼の国の国民の幸福度は世界でもトップに上りつめていることから、豊かな生活であると言えた。


「私は彼の案に賛成する」


 少しの沈黙の後、ある大国の首脳が声を上げた。次々に私も同意するという声があがり、ついには会議場にいる全員の意見が一致した。




 このニュースが流れた翌日、各家庭に人数分の呼吸測定器と説明書が送付された。


「国民の皆様へ。この度お送りしたものは呼吸測定器と呼ばれる機械でございます。これを取り付けると自動で何リットルの呼吸をしたのか測定致します。そのデータに基づき、税金の明細書が月に一度届きますので、それを以下の口座に振り込んでください。この呼吸測定器を29XX年4月1日、日本時間午前9時までにお取り付けください。取り付けられていない場合、違反者と見なし、即時に制裁者によって逮捕、適切な処理をさせていただきます。あらかじめご了承ください」


 呼吸測定器はグレーのゲーム機のような見た目でボタンなどは一切ついていなかった。ただ真っ黒な液晶画面があるだけだった。いくら探しても電源らしきものを見つけることができる者はいなかった。


 人々はさまざまな行動をとった。


 家に届いた測定器を取り付ける者。付けなければ制裁が下ることを承知で、反対運動を行い、国会に押しかけ、ストライキを始める者。ネット上で騒ぐ者など。


 しかし、この抗議も世界には通用せず、呼吸税が施行される日が来た。

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