呼吸税

小林

第1話 少年

 ─東京。超高層マンションに住む、ある少年は考えた。この変化のない生活に終止符を打ちたいと。


 毎日ベットに横になり、ロボットが持ってくる食事を取り、その場で用を足し、その場で風呂に入る。


 もちろん娯楽などない。人類の活動は止まっているからだ。


 昔の書物はとっくに全て読み終えた。読みすぎて暗唱できるくらいだ。毎日人のいない、機械が読み上げるだけの同じニュースを見て、同じ音楽を聴き、同じ本を読む。もはや感情の起伏さえもおきない。


 少年は決意するとすくっと立ち上がった。


 何年ぶりだろう。


 地に足をついて歩き出す。一歩一歩しっかりと踏み込みこみながら進んでいく。その速度は長年動かなかったためか、あるいは死を拒んでいるのか少年にはわからなかったが、とても遅かった。


 屋上の重厚な扉を開くと、むわりと暑い空気が彼を包んだ。夕暮れの中の超高層マンションが立ち並ぶ東京の街並みを見渡す。柵まで歩くと、グッと重い体を支えながら、地上100階の柵の外側に立つ。蒸し暑い風が彼の頬を撫でる。床はフライパンの上に立っているようにじりじりと彼の足の裏に熱を溜めた。額にじわりと汗を滲ませ、滴り落ちる汗は地面を叩き、蒸発してすぐに消えた。


 少年はふっとその体力を使い果たし落ちていった。


 少年は何年かぶりに笑った。しかし、声は出なかった。


 彼の笑い声と共に胸の装置の数はみるみるうちに増え、笑いが途絶えるとともに0をさした。

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