第8話 自宅
俺はどうにかこうにか自宅に戻った。ズボンは替えていないから、小便臭かったし、全身から悪臭を放っていた。電車の中では、周囲の人からもじろじろ見られていた。俺は開き直った。それどころじゃない。早く帰らなくちゃいけないんだから。
俺の家は都内〇〇区にある。庭なんかないし、セコムにも入っていない普通の民家だ。鍵は財布に付けてあるから、取り敢えず鍵を回した。玄関には、息子が普段履いている靴が置いてあった。今までどうしていたんだろう・・・。俺は怖かった。息子はまだ中学生だったからだ。陰キャだし、泊まりに行くような友達はいない。
「ただいま~」
俺は声を掛けた。返事がない。2階に上がると、そこにはテレビゲームをしている子どもの姿があった。
「遅かったね。連絡が取れないから会社に電話しといたよ」
息子は淡々と言った。4日いなかったのに、心配している様子もない。
「かけてくれたんだ・・・」
「うん」
「ありがとう」
ちょっと違和感を感じた。連絡が取れなかったら、普通は警察に相談するんじゃないか?子どもだから、どうしていいかわからなかったのだろうか。俺は普段、女の家に外泊したりなんかしない。一体なぜ?息子とツアー会社がグルというのはあり得ない。息子が俺を邪魔だと思って、しばらく帰って来なくていいと感じているかもしれないが、実行に移すのは無理だろう。
秩父は都内と比べて夏休みが終わるのが早い。俺が小学校に潜伏していたら、夏休みが終わって、子どもたちが登校して来やがったんだ。
心霊バスツアーは廃校に俺を置いて行った。俺は4日くらいあそこにいたのか?そんなのあり得ない。真夏だし、4日間、飲まず食わずだったら死んでいるはずだ。
今回、俺が分かったのは、俺が4日いなくても、息子も会社も困らないと言うことだけだ。特に息子の方はショックだった。妻が亡くなって以来、俺は私生活ゼロで、必死に息子を育てて来たつもりだったのに・・・。手のかかる息子で、たまに気が狂いそうだった。なのに、彼にとっては、俺なんかいなくてもいいんだ。
俺は一先ず風呂に入ることにした。
俺は風呂にお湯を溜めて体を沈めると、手首を切った。息子はずっとゲームをしているから気が付かないだろう。俺が死んだら生命保険が下りる。お前はそれで楽しく暮らせばいいんだ。
***
中学生の男の子がテレビを見ていると、女性アナウンサーが次のニュースを読み始めた。
秩父市 夏休みの教室で男性の変死体
『身元不明の男性の遺体が小学校の教室で見つかりました。死後4日経っていますが、自殺とみられています。小学校は今日が始業式で、男性は夏休み中の学校に無断で侵入した模様です』
お父さん、もう4日帰って来てないけど・・・何してるんだろう。
子どもは、また、スマホでゲームを始めた。
心霊バスツアー 連喜 @toushikibu
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