第4話 二か所目 石碑
「さて、水巻先生。今のアパートはどうでしたか?」
「私が行った時は、女の子2人があや取りをして遊んでいましたね。自分が死んだって気がついていないでしょう。『おねぇちゃーん、早くぅ』って言って楽しそうにしてるんですよ。私は、かわいそうで、『あなたたち、もう亡くなってるのよ』、なんて言えませんでしたよ」
救いようのない話だ。辛くなって来た。誰かが教えてやらなかったら、その子たちは、永遠にあやとりをしてるのかもしれない。
「このバスについて来たりしないですよね」バスガイドとはわざと盛り上げるために言っていた。
「いや、いますよ。あそこはお年寄りが多いから、アパートで突然亡くなる人が多いんですよ。ほら、そこの三列目に、先日亡くなった方、おじいさんが来ています。寂しくて、付いてきたんです」
「あ、またさっきの方の所ですか。好かれてますね」
ガイドが笑った。
またかよ!みんなが立ち上がって、俺の方を見る。当然、何も見えない。
俺はツアーから離脱したくなった。
「さあ、気を取り直して、次のスポットに行きましょう。お次は、ご当地のヒーロー○○○○のお墓です。皆さま、戦国武将、○○はご存知でしょうか?お墓は今から500年前の戦国時代にこの辺を治めていた○○の霊を鎮めるために建てられました。○○軍は徳川軍によって全滅し、最初はお墓もありませんでしたが、毎夜毎夜、霊が出没し、地元住民を苦しめました。いまでも、石から血が滲み、武将たちのうめき声が聞こえるそうです。しかも、この近くに住んだ人は、50までしか生きられないという言い伝えもあります」
実際行ってみると、そこは公園になっていた。悪い評判が立ってしまい、誰も住み着かなくなってしまったに違いない。
「さて、水巻先生、こういう昔の霊っていうのば、物凄く強いエネルギーを持っていたりするんでしょうか?」
「はい。物凄く、怖い霊です。身分の高い人だから、すごくプライドも高いですからね。バスを降りない方がいいんじゃないかしら」
「先生がおしっしゃってますが、降りてみたい方!」
全員が手を上げた。俺だけバスに残るのも怖い。仕方なく降りることにした。
何の変哲もない公園なのだが、記念碑のような物が立っている。そこで死んだかどうかなんて、どうしてわかるのだろう。
せっかく降りたけど、公園は暗くて、石碑がよく見えないし、蚊に刺されただけだった。
何人かは「蚊がいる」と言って、早々とバスに戻った。俺は窓から外の景色を見ていた。公園にはまだ半分くらいの人が残っているのだが、バスガイドと偽霊能者は、気にせず戻って来てしまった。
「みなさん、〇〇の石碑はいかがでしたか?」
「暗くてよく見えませんでした!」
誰かが言った。笑いが起きたが、俺も同感だった。
「では、そろそろ出発します!みなさん、シートベルトをお締めください」
「すいません。まだ公園に人が残ってますよ」
俺は抗議した。
いいえ。数えましたけど、全員戻っておいでですよ。
外の参加者から失笑が起きた。
「え?」
最初は20人くらいで今は何人いるだろう。数えてみたら、9人しかいない。参加者を途中で置いてくるなんて、どんなツアーなんだろう。俺は軽くパニックになった。あんなところで置き去りにされたら、みんな気が狂うだろう。
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