第3話 一か所目 木造アパート

「やっぱり、こういうバスツアーはよくないと思いますよ。何て言うか・・・霊を怒らせてしまいますよね」

「先生、しょっぱなから怖いですね~霊が怒ってますか?」

「何が起きても、私は責任持てませんので・・・」

 偽物のくせに何を言ってるんだか。俺は思っていた。


「このバスにも、もういますよ。霊が」

 乗客がざわつき始めた。

「前から3番目の眼鏡をかけた方」

「え?」

 それが俺だった。

「はい」

 あなたの隣に女の人が座ってます。心当たりありませんか? 

「いや、ないです」

 どうせ思いつきで言ってるんだ。

「あなたのお母さんじゃないですかね」

「え?」

「あなたを心配してますよ。あなた、何でこんなことしてるの。また無駄遣いしてって、怒ってますよ」

 母が言いそうな台詞だった。いい年をして、心霊バスツアーに38,000円も使って馬鹿じゃないかと俺も思っていた。お母さん、俺は本当にホラーが大好きなんだよ。俺は心の中で弁解した。なかなかわかってもらえないけど。

 俺が何も言わないと、バスガイドが助け船を出した。


「どうします?お母さんに何て言います?」

「そんなこと言って、お母さんもついてきてるじゃないか」

 少しだけ笑い声が聞こえた。

「お母さんが、あなたにどうしても伝えたいことがあるって」

 俺はドキッとした。

「早く結婚しなさいって」

「電話で話すたびに言われてました」

 みんなが笑う。どうせ、お前たちも独身だろう!俺は心の中で叫んだ。

「お母さん言ってますよ。あなたの趣味が心配だわ。若い子が好きだから、そのうち、間違いを犯すんじゃないかって。あなたが法に触れるようなことしたら、恥ずかしい。家名に傷がつくって」

 知らない人の前で、ロリコンをバラされて恥ずかしかったが、本当に当たっていた。ありきたりだけど、JKが好きだ。

「僕のことはいいんで、次の方行ってください」

 俺は笑いながら言った。


「さあ、そろそろ着きました。ここは幽霊が出るアパートです。ここは築40年。ここで一家心中がありました。シングルマザーのお母さんが、子ども3人を道連れに服毒自殺したそうです。昔は子ども食堂やフードバンクなんてなかったですからね。きっと大変だっただろうと思います。その部屋からは今も子どもたちの声が聞こえるそうです。『お母さん苦しいよう』って」


 ガイドが明るく言う。


 見ると古いアパートで、お年寄りや生活に困窮した人が暮らしていそうだった。そんなところに観光バスで乗りつけるなんて異常だった。


「そのお部屋は今は空き部屋です。入ってみたい方いますか?」

 何と全員が手を上げた。

「住人のみなさんは、普通に生活されてますから、お静にお願いします。お手荷物はしっかり持ってお願いします。盗難は一切責任を負いませんので、予めご了承ください」


 俺たちはゾロゾロとバスを降りて、その心中のあった部屋に行った。多分大家さんも、金をもらえるから、今、住んでる人なんてどうでもいいんだろう。


 俺は申し訳なさを感じてバスに戻った。

 こういうのって、酷くないか?

 人の不幸を面白がってるんじゃないか。


 俺はこんな風にモラルのないバスツアーに参加したことを後悔した。


 バスに乗客が続々と戻ってきたが、俺の隣の人はいなかった。


「みなさんどうでしたか?怖かったですか?」

「怖かったです!」

 前の方の席の人が言った。みんな、どっと笑う。


「では、そろそろ出発します。みなさん、シートベルトをしっかり締めて」

 点呼をとらないなんて!俺はびっくりして声を上げた。

「すいません!隣の人がいないんですが」

「え?お隣の参列の左側は最初から空席ですよ」


「いえ、いましたよ!」


 俺は抗議した。スマホを持ってる幽霊なんていない。最近死んだばかりなのか。または、霊能者が偽物だって知ったせいで、バスから降ろされたのか。


「いいえ。本当にいませんよ。もしかしたら、幽霊かもしれませんね」


 バスガイドと運転手は、座席表を見ながら言った。

 俺は愕然とした。


「もしかして、サクラじゃないかあの人」

 後ろから声がした。俺は違う。ガチだ。

        

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