第5話 三か所目 廃校
「水巻先生、どうでしたか?あの場所は」
「恐ろしかったです。地縛霊が我々を配下にしようとしてました。危うく皆さんも連れ去られるところでした。みな無事でしたが」
どこがだよ!?
俺は心の中で叫んだ。乗客を置き去りにするバスツアーなんて聞いたことない。俺は他の乗客を見てみたいが、座席のシートが邪魔で見えない。どんな人たちなんだろう。俺みたいにガチに38,000円払った人たちだろうか。別な意味で怖いが、馬鹿々々しいとしか言いようがない。
そのうちすすり泣きが聞こえて来た。しかも、男だ。車内が静かになるたびに聞こえて来る。後ろの方から聞こえるが、怖がって泣くなんて情けない。俺は心の中で馬鹿にしていた。
「次は〇〇にある廃校です。少子化で他の小学校に吸収されてしまい、10年前に廃校になってからは、いくつかの会社が借りてビジネスを始めましたが、全部失敗してしまい、今は廃墟になっています。地元の不良のたまり場になっていますが、3年前に建物の中で、殺人事件が起きてしまいました。事件の発端は、お金を貸したのに返さないというトラブルでした。怖いですね~。やっぱり、人にお金は貸しちゃいけませんね。ニュースにもなったので、ご存知の方もいるかもしれませんが・・・今から行く場所がその事件現場です。今回は自治体の許可をもらっているので、特別に中に入って探検したいと思います」
まさかと思ったが、自治体としては、わずかな金でも儲けたいという実情があるんだろう。やって来たのは、住宅街の真ん中にある廃校だった。郊外だからそれなりに校庭も大きい。バスは校庭に停まった。深夜の学校。誰かが窓の向こうでこちらを見ている気がして、俺もわくわくする。
まず、バスガイドと霊能者がバスを降りて、その他の乗客がその後に続いた。みんな列になって、2人のおばさんについて行く。俺は一番最後に並んで、前の人に声を掛けた。1人参加の若い男だった。紫のTシャツを着て眼鏡をかけていた。
「このツアーに38,000円はらったんですか?」
「え?昨日申し込んだ時は5,000円でしたよ」
俺はショックだった。きっと希望者がいなくて、値下げしたんだろう。
「38,000円、支払われたんですか?」
俺は頷いたが、正直、負けを認めたくなかった。5,000円だったらいい暇つぶしにはなる。
「きっと売れなかったんですね。この内容で38,000円はないですよね」
この話を聞いて、俺はすっかりやる気をなくしてしまった。時間がもったいない。取り敢えず早く帰りたくなった。
俺ははっとした。霊能者の人の霊視は当たっていたじゃないか。俺が何のヒントも与えていないのに、母親が亡くなっていること、俺に結婚しろと言っていること、ロリコンだということを当ててしまった。俺は50歳だけど、ちょっとだけ若く見られる。俺の母親世代だったらまだ生きている人の方が多いと思う。もしかして・・・。霊能者は本物なんだろうか。
俺たちは、100均で売ってるようや懐中電灯を渡されて、先頭の人たちについて行った。学校は不思議な場所だ。昼はなんてことないのに、夜はすごく怖い。昼の騒々しさとの落差が激しいからだろうか?数えきれない人がここで学び巣立っていたったはずだ。その影が亡霊のように今も息づいている。
バスガイドは殺人事件の現場にも関わらず笑顔だった。
「被害者が殺害されたのはこの教室です。今も時々・・・」
「助けてくれ!」
バスガイドはいきなり大声で叫んだ。
完全に男の声だった。俺はびっくりして心臓が止まりそうになった。
断末魔の叫びとはああいう感じだろう。
バスガイドは表向きで、元劇団員などかもしれない。
あまりに鬼気迫っていたから、俺もしばらく息ができなかった。
「やめてくださいよ!」
バスガイドは悲鳴をあげた。そして、非難するように俺の顔を見た。
「あ~びっくりした!!」
仕事だと思い出したようで、作り笑顔になった。
「俺じゃないですよ」
「え?」
俺は霊能者の隣に立った。だんだん怖くなって来た。
彼女に守って欲しい。俺たちを守れるのは彼女しかいない。まるで俺だけがツアーに参加しているみたいだった。2人とも、ずっと俺にだけ話している。
「今日はなんだか怖いです・・・人数が少ないこともありますし」
「普段はもっと多いんですか?」
「大体、10人くらいはいるんですけど、今回はみんな直前にキャンセルしてしまって・・・返金できないんですけどね。ですから、こうやって催行してます」
「あれ?」
と、俺は言ったが二人とも反応がなかった。
気が付くと一緒だったツアーの人が誰もいなくなっていた。
さっき、5,000円で参加したという人もいなかった。
みんなびっくりしてバスに戻ってしまったんだろうか。
その時、地の底から湧き上がるような声が聞こえた。
「助けてくれ!警察呼んでくれ!!!」
誰かが叫んでいる。廊下に男の声がこだましていた。
「ギャー!!!!」
どうやら、とどめを刺されたようだった。
「もう、バスに戻りませんか?」
俺は怖気づいて言った。半泣きだった。やらせにしても随分、手が込んでいる。
「いいえ・・・あの声は運転手の声です。
戻ったら・・・私たちどうなるか」
バスガイドがぶるぶる震えながら言った。恐怖で震えている人を見たのは始めてだった。
「警察呼びましょう!」
俺はカバンから携帯を取り出した。なぜか電源が落ちている。電源ボタンを押して、立ち上げたけどバッテリーがなくなっていた。
「やられる・・・」
俺は霊能者にしがみ付いて目を閉じた。
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