第15話 土地の買収交渉

それと入れ替わるように、また招かざる客がやって来ていた。

「和尚さま。今日も来ていますが」若い坊さんが困った顔をして言った。

住職は苦い顔して、その客の応対に出た。この辺も最近開発が進みM市内の開発会社が、この一帯にゴルフ場とリゾート地の開発を候補に挙げていた。

そして今日も、また土地の買収に来たのであった。これで七回目の訪問だ。

「もう何度も申し上げているように、ここは沢山の仏様が眠っている。それにのう皆さんの先祖に対して申し開きが出来なくなる。それは出来ない相談じゃ。分からんお人だね」

その開発会社の社員はしつこく迫る。その手の人間は買収交渉では引き下がらない。

「それは住職。重々、分っていますがね。ちゃんと代替地を用意致しますので、いい加減に良い返事を貰いたいのですがねえ。住職さんよ!」

毎回の押し問答に、言葉が荒々しくなって来た。

「今日はこれで帰りますが次は良い返事期待してますよ」

 その様子を小夜子が心配そうな顔で見つめていた。

健は合気道の稽古も佳境に入って来た。あれから数ヶ月、健はやはり空手の有段者だ。上達が早い。師匠の要山和尚は自分の極めた技を伝授しようと健に、その技を託したのだった。我が子ながら小夜子は女性である。やはりこの技には無理があった。

 並みの男でも無理な程の、精神力と体力がいる。要山の恐ろしい技を伝授しようとしている。 そして精神力も並の者ではない。まさに健でなければ出来ない技だろう。

要山師匠も自分が元気なうちに、長年の間、掛けて独自に編み出した合気道の極意、〔気のパワー〕で数メートル離れた相手を吹き飛ばしと云う。とてつもない技を健に伝授しようと数ヶ月前から教えていた。


師匠の教えも佳境に入って来た。そして今日、いよいよ師匠の伝授が完成する時が来た。

「いいか! もっと精神を集中させろ! そうだ腰をもう少し落として」

健は全神経を集中させた。そして一点を見つめ脳から腕へ腕から手の平に、電流が流れるが如く集中させて。前方十メートル先にビール瓶を立ててあった。


つづく

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