第14話 大学時代の友が訪ねて来る
「健くんにお客様ですよ。大学時代の御友人だそうです」
応接室のドアを開けた健は、そこにいる二人の姿に言葉を失った。
空手部の主将と原田の彼女だった早紀だ。勿論現在は大学を卒業して社会人となっている。
「あっ吉沢主将! 久しぶりです。どうして……ここが分かったのですか?」
「捜したのよ。堀内くんのこと。心配したわ」 早紀が言った。
「ご無沙汰しています。主将、いや吉沢先輩、早紀ちゃん」
「堀内! 水臭いじゃないか、お前が大学を辞めると言って以来、なんの音沙汰もないから空手部の連中や早紀も心配していだんだぞ。まあ、もっとも俺たちも卒業して、今は社会人だけど、いまさら空手部の主将として説教するつもりはないが、お前の事は常に心配していたんだ。それは分かるな」
もう、あれから四年近くも経っていると云うのに自分のことを案じてくれる。先輩と早紀がいた。自分が故郷を去った事は、自分が過去を捨てる為じゃなく、原田の両親や早紀が、また嫌な思いを、させるのじゃないかと勝手に解釈していた事だった。
「先輩、早紀ちゃん。わざわざ遠い所を尋ね戴き、ありがとう御座います」
そこに小夜子が三人に、お茶を持って応接室に入って来た。
その小夜子に、吉沢と早紀が軽く会釈をする。
早紀は女の直感と言うか、健との仲は恋人同士だろうかな。と思ったようだ。
小夜子が気を使って、お茶を置いて部屋を出ようとした処で吉沢に呼び止められた。
「あの……もし良かったら俺たちの話を聞いて戴きたいのですが」
「はぁ私で宜しいのでしょうか?」
健と小夜子は顔を見合わせた。俺たちの話をと? 一体なにを話すと云うのか。
「堀内、何もお前をわざわざ励ます為にだけで来た訳じゃないんだ。俺と早紀とは来年結婚する事になったんだ。それを報告しに来たんだよ」
「え!? ほっ本当ですか先輩! 早紀ちゃん」
「ああ、本当だ。勿論、原田の両親に早紀と二人で挨拶も済ませた。喜んでくれたよ」
早紀も照れくさそうに、健と小夜子の顔を見比べながら話し始めた。
「堀内くんは真面目過ぎるから、私の事も心配してくれたでしょう。私が落込んでいる時に吉沢先輩が、色々と気に賭けてくれて。原田くんの両親や周りの人にも、自分の幸せを見つけなさいと言われてね。だから堀内くんも過去に拘らず自分の人生を見つけて欲しいと思って、二人で励ましと報告に来たのよ」
健は心の底から、急に霧が晴れて行くような気分だった。
恋人を失ってどん底に居た早紀も幸せになれるのだと。あの時は早紀の将来まで台無しにした気分でいたのだ。
「先輩、早紀ちゃん。おめでとう御座います。本当に良かった」
小夜子も安堵したように吉沢と早紀に向かって、お祝いの言葉を述べた。
「まあ、おめでとう御座います。お幸せに」
ただ二人の婚約報告に小夜子が必要だったのか分らない。
でも吉沢と早紀は直感で二人は愛し合っていると感じたのだろう。
事故とはいえ健は死ぬほど心を痛めた事をしっている。
だから健と小夜子さんも同じように幸せになって欲しいという願いだろう。
吉沢と早紀を寺の門まで見送った。その二人は仲良く手を繋いで帰って行った。
つづく
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